【GGP2022プレビュー③三浦龍司(男子3000m障害)】
東京五輪7位入賞の三浦の狙いは世界に通じる激しい競り合い
あるいは強烈スパートでの圧倒的な勝利か
世界トップレベルの選手も多数参加する陸上競技コンチネンタルツアーの1つ、ゴールデングランプリ(GGP)が5月8日、東京・国立競技場で行われる。日本人選手が勝つのが難しい大会だが、3000m障害の三浦龍司(順大・20)には優勝が期待できる。ハードリングの上手さや勝負どころで前に出る精神力などを武器に、東京五輪ではこの種目日本人初の入賞を達成した。
今季は1500mで日本歴代2位(3分36秒59)をマークし、長距離関係者さえも驚愕させた。3000m障害初戦となるGGPでは“揉まれる”レースをすることが目的だという。
●1500mと5000mでスタミナとスピードを確認
前日会見で三浦の現状や、GGPでやりたいことがはっきりしてきた。
「スタミナとスピードに手応えがあるので、総合的な力が求められる3000m障害につなげて結果を出したい。ここまで3000m障害にかける時間は多くなかったので、技術面はこの大会をステップにやっていきたいです」
今季は専門外の1500mで日本歴代2位を出し、5000mで織田記念に優勝した。つまり、障害を跳ぶメニューを多く行ってはいないが、スタミナとスピードはしっかりと養成できている。
専門練習の不足もあってタイム的な目標は特に設定していない。だが「8分20秒台は最低限で出しておきたい」と言う。
「外国人選手を上手く利用させてもらって、自分の走りと障害を合わせれば、そのくらいのタイムは出ると思います。勝負の面も積極的に行って、引けを取らないレースをしたい」
8分20秒台と数字を挙げたが、勝負に集中すればそのくらいは出るだろう、という目安を言葉にしたのだろう。GGPの三浦はペースの上げ下げに対応したり、自らがスパートするタイミングを見計らったり、勝負の仕方に重点を置くと思われる。
●ハードリングとスピードを武器に
三浦自身の中ではスタミナ(スピード持久力)も上がっているが、他の選手と比べたときに秀でているのはやはりスピードだ。
3000m障害8分30秒未満選手全員の、1500mと5000m自己記録を調べたのが下の表だ。
歴代順位・記録(年) 選手 1500m記録 5000m記録
1)8分09秒92(21年)三浦龍司 3分36秒59 13分26秒78
2)8分18秒93(03年)岩水嘉孝 3分46秒87 13分37秒99
3)8分19秒52(80年)新宅雅也 3分43秒4 13分24秒69
4)8分19秒96(21年)山口浩勢 3分52秒82 13分31秒24
5)8分20秒70(21年)青木涼真 3分40秒94 13分21秒81
6)8分21秒6 (74年)小山隆治 3分47秒0 13分41秒2
7)8分23秒93(21年)阪口竜平 3分43秒53 13分29秒61i
8)8分25秒49(21年)潰滝大記 4分01秒65 13分39秒00
9)8分26秒48(97年)内富恭則 3分42秒36 13分37秒80
10)8分27秒15(90年)山田和人 3分44秒37 13分58秒3
11)8分27秒25(19年)塩尻和也 3分47秒15 13分16秒53
12)8分27秒80(21年)小原 響 3分47秒78 13分46秒54
13)8分28秒01(20年)楠 康成 3分41秒27 13分44秒74
14)8分28秒98(92年)仲村 明 3分46秒9 13分38秒47
5000mのタイムは、現役では塩尻和也(富士通・25)が13分16秒53と代表レベルの記録を出しているし、東京五輪3000m障害代表だった青木涼真(Honda・24)も三浦より速い。新宅が80年に出した13分24秒69は当時の日本記録だった。塩尻は箱根駅伝エース区間の2区で日本人最高記録を出した選手で、新宅は五輪で3000m障害(80年)、10000m(84年)、マラソン(88年)と代表入りしたスーパーマルチランナーだった。
織田記念5000mで優勝し、将来的には5000mの12分台も狙えると言われている三浦だが、現時点では5000mの実績はそこまで残していない。
それに対して1500mでは、前述のように4月9日の金栗記念で日本歴代2位を出した。3000m障害選手で三浦の次に良いタイムは青木の3分40秒94。現時点で突出しているのは1500mのタイムということになる。
GGPのメンバーを見ると、日本人では青木が強敵になりそうだ。5000mや駅伝(ニューイヤー駅伝5区区間2位)の実績は三浦を上回る。今季は米国で1500mを3分41秒08で走り、10000mでは5000mを13分45秒通過設定のペースメーカーを務めた。1500mと5000mの距離を走り、GGPの3000m障害につなげるのは三浦と同じ。自己記録を伸ばしてくる力はありそうだ。
そして三浦にとって最も不気味な存在がジョナサン・ディク(ケニア/日立物流・30)だ。3000m障害の自己記録は8分07秒75で、三浦を上回っているただひとりの選手。しかしその記録は11年に出したもので、16年以降は3000m障害への出場は少なく8分25秒を切っていない。その代わりではないが10000mで記録を伸ばし、20年には27分01秒95と日本記録を大きく上回るタイムを叩き出した。スタミナ(スピード持久力)では、出場者の中で頭ひとつ抜けている。
●テーマは“揉まれる”レースを勝ちきること
しかし、そうした選手と同じレースを走ることが今の三浦にとっては重要で、GGPに出場する目的でもある。
順大の長門俊介監督は1500mで3分36秒59を出した後の取材で、1500mに出場した目的を以下のように話していた。
「1500mに出た目的は“揉まれる”レースを経験することです。レース中の場所取りや駆け引き、勝負どころでの距離の取り方など、国内の3000m障害では(三浦の力が明らかに上で)経験できません。それを国内で養おうと思ったら、専門外の種目に出ることになります」
織田記念5000mでは、この種目の東京五輪代表だった松枝博輝(富士通・28)に残り1周で先行されたが、金栗記念1500mで遠藤日向(住友電工・23)に10m引き離された経験も生かし、射程圏にとどめて最後の直線で狙い通りに差し切った。
1500mと5000mで“揉まれた”経験を、ディクや青木が出場する3000m障害で試すのがGGPである。タイムを重視していないのは、そういう経緯があるからだ。
そしてライバルたちと接戦になったとき、武器となるのが小さい頃に地元のクラブで行っていたハードリングであり、1500mのスピードを生かしたまったく力まないラストスパートだろう。最後の直線で上半身に力みが見られず、表情を変えずにスパートできた日本選手は瀬古利彦(1980年代に5000m、10000m、マラソンで日本記録を更新。マラソン15戦10勝)くらいではないか。おそらく、瀬古以上に無駄な力が入っていない。
三浦は“揉まれる”レースでも、ハードリングやスピードを武器に勝ちきることができる。ディクが10000m27分01秒95のスピード持久力を生かしてハイペースで飛ばし、三浦や青木がそこにつけば8分10秒台の記録は問題なく出せる。三浦が昨年5月のREADY STEADY TOKYO優勝時に出した8分17秒46(当時日本新)を上回れば、夏の世界陸上オレゴンで自己記録(8分09秒92の日本記録)更新も期待できる。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
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