【五輪代表が多数出場する全日本実業団陸上③ 五輪代表vs.好調選手(2)】
男子棒高跳は五輪代表2人と好調の竹川、石川に日本人2人目の5m80の期待
男子110mハードルとやり投でも五輪代表にライバルたちが挑戦
東京五輪代表選手と好調選手の戦い。全日本実業団陸上(9月24~26日・大阪ヤンマースタジアム長居)の注目テーマの1つである。盛り上がりそうなのが男子棒高跳だ。実績でも自己記録でも東京五輪代表の山本聖途(トヨタ自動車)と江島雅紀(富士通)が上だが、今季の調子は日本選手権に優勝した竹川倖生(マルモト)が勝る。その戦いが激しくなればバーの高さが、今大会で引退する日本記録保持者の澤野大地(富士通)しか跳んでいない5m80に上がるだろう。
男子110mハードルにも金井大旺(ミズノ)と髙山峻野(ゼンリン)の東京五輪代表2人がエントリー。石川周平(富士通)ら、強力ライバルたちの挑戦を受ける。男子やり投には東京五輪代表だった小南拓人(染めQ)が出場する。実績十分のディーン元気(ミズノ)や同学年ライバルの小椋健司(栃木県スポーツ協会)が、小南に勝負を挑む。
●5m80を跳べば世界陸上オレゴン大会標準記録
男子棒高跳には山本と江島、2人の東京五輪代表がエントリーしている。江島はシーズンイン前にケガがあった。山本も小さなケガを何度かしてしまった影響で、五輪本番はともに5m30で予選を通過できなかった。
山本は故障がちながら5月のREADY STEADY TOKYOに優勝し、6月の日本選手権も5m60のシーズンベストで3位。世界ランキングのポイントを着実に積み重ね、五輪3大会代表入りを実現させた。13年のモスクワ世界陸上では6位に入賞している。
江島もREADY STEADY TOKYO3位、日本選手権2位(5m60のシーズンベスト)と要所でポイントを獲得。日本選手権後は疲労がかなり蓄積していたが、代表入りを実現させた。東京五輪を戦う力が残っていなかったが、大型ボウルターとして日本の棒高跳を引っ張って行く存在になるだろう。
五輪から2カ月弱が経っている。ケガの影響から脱している時期で、5m80への挑戦に意欲を持っているはずだ。今大会で引退する日本記録(5m83)保持者の澤野大地(富士通)に続き、日本人2人目の5m80ボウルター誕生を期待したい。
だが、その2人を日本選手権で破ったのが竹川倖生(マルモト)で、優勝記録の5m70は今季日本最高である。3月の日本選手権室内でも、石川拓磨(東京海上日動)が5m70で、同記録の山本を破って優勝した。今季初めて5m70をクリアした2人が、五輪代表コンビと激突する。
竹川は山本&江島のように世界ランキングでの代表入りが難しかったため、日本選手権で跳べなかった五輪標準記録(5m80)を、2日後の法大競技会でも目指した。腰を痛めて5m50に終わったが、「練習では5m80をノータッチで跳べていた」という。
法大3年時の18年に5m60を跳び、ジャカルタ・アジア大会にも出場した。当時は身長174cm、体重62kgで、国際レベルの棒高跳選手としてはかなり小柄な部類に入る。
「体格は3年前とそこまで変わっていませんが、筋量は2kg増えました。当時との大きな違いは握りの高さです。3年前は4m40でしたが今日(6月1日の木南記念に5m65で優勝)は4m50~55です」
今季の実績では5m80を跳ぶ可能性が一番大きいのは竹川だ。東京五輪には間に合わなかったが、同じ長居開催の日本選手権で跳べなかった5m80を跳べば、来年の世界陸上オレゴン大会の標準記録を突破する。
●110mハードルは金井の現役ラスト全国大会
男子110mハードルには金井大旺(ミズノ)と髙山峻野(ゼンリン)、日本の110mハードルの歴史に名が刻まれる2人の東京五輪代表がエントリーしている。
金井は18年に13秒36と14年ぶりに日本記録を更新した。翌19年6月には髙山と泉谷駿介(順大4年。当時2年)が13秒36の日本タイをマークすると、髙山は8月に13秒25と日本人初の13秒2台に突入。そして今年4月の織田記念で金井が13秒16(+1.7)と、日本人初の13秒1台の快挙を達成した。
その後、6月の日本選手権で泉谷が13秒06(+1.2)を出したが、先陣を切り、なおかつ世界大会決勝進出が期待できる13秒1台を出した金井の功績は大きい。
東京五輪は準決勝に進出したが、8台目のハードルで転倒して決勝進出はかなわなかった。来年の世界陸上オレゴン大会での雪辱を期待したいところだが、金井は父親と同じ歯科医になるため今季限りで現役を引退する。最後の試合は10月に予定しているが、全国大会は全日本実業団陸上が最後となる。
ハードリングから着地した後、着地脚のヒザを若干曲げたままランニング動作に移っていく。ハードリングからインターバルの走りへタイムロスをなくす方法だが、ちょっとやそっとの筋力と技術でできることではない。今年が最後だからと、極限まで追い込んだトレーニングで完成させた身体と技術を、テレビ中継のある最後の大会でまぶたに焼き付けたい。
髙山は、今季は故障の影響でシーズンベストも13秒37にとどまっているが、19年世界陸上ドーハ大会では準決勝に進出。準決勝ではハードルに接触してタイムを落としたが、予選は13秒32の世界陸上日本人最高タイムをマークした。髙山が復調すれば、この種目のレジェンド2人のガチンコ勝負が実現する。
代表コンビに対抗できるのは石川周平(富士通)と藤井亮汰(三重県スポーツ協会)だろう。
石川は筑波大時代は13秒67が自己ベストだったが、富士通入社1年目の19年に13秒49、20年に13秒39、21年に13秒37と、代表を狙えるレベルに記録を上げてきた。金井や髙山と違い、後半に追い込んでくるレース展開が特徴だ。
今季の国内主要大会では必ず上位に食い込んでいるが、1位は取ることができない。今大会と同じヤンマースタジアム長居で行われた日本選手権はフライング失格した。今大会に懸ける意気込みは大きい。
藤井は石川と同学年で、順大では13秒81が自己記録だった。卒業1年目の19年から13秒63、13秒57とシーズンベストを縮め、今年7月の実業団・学生対抗で13秒41(+0.3)の自己新で優勝した。勢いは一番ある。
代表2人はレジェンド級。勝つのは簡単ではないが、2人の争いに石川と藤井が割って入る可能性はある。
●男子やり投は東京五輪代表の小南に安定感も、混戦の可能性も
男子やり投には東京五輪代表の小南拓人(染めQ)がエントリー。五輪では78m39で予選を通過できなかったが、4月の織田記念で82m52の自己新をマーク。6月の木南記念でも82m43と自己記録に9cmと迫った。木南記念の場所は今大会と同じヤンマースタジアム長居である。
今季好調の理由を「力を上手くコントロールできている」からだと、木南記念後に小南は話している。
「やりはスピードがあってこそ飛ぶのですが、助走スピードは力んで走っても、心地よく走っても変わらないことに気づきました。投げる瞬間も力を込めようとすると上体が(左側に)開いたり、突っ込み気味の動きになったりします。助走を生かして、力を自然にやりに伝えるイメージで投げた方が良い」
82m台が2試合、80m台も2試合と、今季の安定度では一番の存在だ。
だが、その小南も突出した存在にはなっていない。ディーン元気(ミズノ)は3月に82m15を南アフリカで投げたのを筆頭に、国内でも小南には敗れたが織田記念で80m17、木南記念81m06と80mオーバーを続けている。12年ロンドン五輪では決勝に進んだ実績を持ち、昨年は84m28と国際レベルのアーチを架けた。実績は小南を上回る。
小南と同学年の小椋健司(栃木スポーツ協会)も打倒・小南に燃えている。昨年まで80mオーバーこそなかったが、小南とは学生時代から勝ったり負けたり、互角の勝負を繰り広げてきた。今季は6月6日のグランプリ新潟大会でついに、81m63と80mを大きく突破。79m57の小南にも勝っている。
ライバルが五輪代表に成長したことで小椋は、小南ができることなら自分もできる、と考えているのではないか。
新旧五輪代表対決と同学年対決。風に恵まれれば83m以上の今季日本最高で決着する。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
【全日本実業団陸上】
25日26日をYouTube TBS陸上ちゃんねるでライブ配信
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