【五輪代表が多数出場する全日本実業団陸上⑥ 女子短距離&ハードル】
100mにママさんハードラー寺田が出場も状態は…
4×100mリレーの鶴田、100mハードルの青木も100mにエントリー
全日本実業団陸上(9月24~26日・大阪ヤンマースタジアム長居)の100mは男子だけでなく、女子も興味深いメンバーがそろった。東京五輪代表は4×100 mリレー4走だった鶴田玲美(南九州ファミリーマート)だけでなく、寺田明日香(ジャパンクリエイト)と青木益未(七十七銀行)の100mハードル代表もエントリーした。日本記録(11秒21)保持者の福島千里(セイコー)も復調が期待されている。ちなみに寺田と福島は北海道出身で、以前は同じチームに在籍していたこともあるが、100mで同じレースを走ることになれば「高校以来?」(寺田)だという。
ママさんハードラーとして19年に陸上競技に復帰した寺田。100mの自己記録も19年に11秒63と12年ぶりに更新し、その後の100mハードルでの日本記録連発につなげてきた。だが、今大会に向けては万全の状態が作れなかったという。
●「ゴールすることが最大の目標です」と寺田
いつもは元気いっぱいの寺田の声が、今回に限っては沈んでいた。
「先週火曜日にぎっくり腰をしまして、あまり走ることができていません。本当に、ゴールしたいなあ、と思っています」
青木も8月の、Athlete Night Games in FUKUIウォーミングアップ中にぎっくり腰を発症した。今季ともに日本記録を出し、五輪を戦った2人に同じ症状が出てしまった。シーズンの激しさを物語っている、ともいえる。
寺田が100mハードルではなく100mにエントリーした理由は、スプリント力の強化に他ならない。スプリントが向上すれば「ハードルにアタックする速度が上がる」という利点が現れるが、ストライドが大きくなれば踏み切り位置が近くなってしまう。ハードル間をいかに素早く刻んで走るかは、走力アップと同時に解決しないといけない。ハードラーに必ずついて回る課題である。
その課題に一段階高いレベルで向き合うことが、世界に近づく方法だ。今大会で走力アップの成果は確認できそうにないが、やるべき課題は明確になっている。
技術的な課題も東京五輪ではっきり意識できた。
「踏み切る際に1台1台、置いて行かれる感じがあったんです。1台目の入りはだいぶ良くなっていますが、それ以降の加速度や踏み切り時の減速率を修正するために、もう少しスムーズに行かないといけません。股関節の可動域がちょっと悪いので、そこを改善しながら良い動きが出てくれば、と思っています」
それを一段階速いスピードの中で行う必要があるため、「来年の春シーズンは100mと200mをやってみようと思っています」と寺田。専門外の種目でも自己記録を更新していくつもりだ。32歳となるシーズンも、元気いっぱいの姿を見せてくれるだろう。
●五輪代表が多数。日本記録保持者の福島や引退する市川も出場
女子100mには東京五輪4×100 mリレーで4走を走った鶴田と、100mハードルの青木も出場する。東京五輪ではないが、日本記録保持者で08年北京五輪から16年リオ五輪まで五輪3大会連続出場の福島、リオ五輪走幅跳代表だった甲斐好美(東日本連盟)、そして今大会で引退する12年ロンドン五輪4×100 mリレーに出場した市川華菜(ミズノ)もエントリーした。
鶴田は200mで日本選手権2位(優勝は福岡大の兒玉芽生)、4×100 mリレーでも東京五輪4走で43秒44の日本歴代2位に貢献した。後半のスピードは日本で一二を争うが、スタートから序盤の走りに課題が残る。
昨年の日本選手権は2位、全日本実業団陸上は優勝、Athlete Night Games in FUKUI優勝時に11秒48をマークしたが、今年のシーズンベストは11秒76で、日本選手権は出場を回避した。昨年ほど調子は上がっていない。
シーズンベストでは11秒51(+2.0)の君嶋愛梨沙(土木管理総合)が出場選手中トップ。11秒53(+2.0)の名倉千晃(NTN)、11秒57(+1.6)の御家瀬緑(住友電工)の3人が11秒5台で、君嶋は4月の織田記念、名倉は7月の実業団・学生対抗、御家瀬は6月の布勢スプリントに優勝している。
直近の全国レベルの大会だったAthlete Night Games in FUKUIで3位に入った君嶋が、今大会の優勝候補筆頭か。ボブスレーとの二刀流でも知られる選手で、がっちりした体格を生かしたパワフルな走りが特徴だ。
君嶋、名倉、御家瀬の優勝争いに、鶴田が得意とする後半でどこまで追い上げられるか、という展開が予想できる。
●女子短距離&ハードルのレベルアップへ
本来であれば寺田と青木のハードラー2人も、優勝争いに加わるスプリント力がある。2人とも100mのインターハイ優勝者で寺田は11秒63、青木は11秒68の自己記録を持つ。100mに本腰を入れれば11秒5台は出せると言われている2人だ。
競技特性としてスプリント能力があればいい、というわけではないが、100mハードルや走幅跳はスプリント力が高い方が有利となる要素は多い。男子の110mハードルを例に出すなら、日本記録が14秒0台だった頃のハードラーは、100mの自己記録が11秒0前後だった(と、当時のトップ選手から聞いたことがある)。90~00年代に13秒5~13秒3台だった頃は10秒5前後。そして13秒0~2台となった今の110mハードル選手は10秒3台まで100mの自己記録が上がっている。
100mが本職の選手たちも、ハードル選手に100mのタイムで負けるわけにはいかない。相乗効果が現れれば、女子は福島の持つ11秒21の日本記録にもっと迫っていくだろう。その兆候を感じられる全日本実業団陸上になればベストである。寺田の自己記録更新は難しそうだが、優勝記録は11秒3台を期待したい。
寺田の来年の世界陸上オレゴンの目標は、東京五輪で達成できなかったところに再度、挑戦していく。
「標準記録が同じ12秒84なので、(東京五輪は世界ランキングでの出場だったが)オレゴンはそこを切って出ないといけません。オリンピックは準決勝で組6位、全体(24選手中)20位だったので、それよりも順位を上げていかないと」
女子の100mハードルは100mの記録プラス1.2秒までは可能というデータがある。個別性が強いことなので、それ以上を出せる選手も存在するだろう。寺田なら現時点でも12秒84の世界陸上オレゴン標準記録を破ることが可能で、100mが11秒5台、4台と上がれば可能性はさらに広がる。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
【全日本実業団陸上】
26日(日)深夜1時 地上波TBS放送
25日26日をYouTube TBS陸上ちゃんねるでライブ配信
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