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【東京五輪陸上競技10日目(8月8日)注目選手】

中村、服部、大迫。男子マラソンも三者三様の特徴で世界に挑戦
“特別なオリンピック”の閉幕に相応しいレースを

 大会10日目(8月8日)は男子マラソンのみ実施され、中村匠吾(富士通)、服部勇馬(トヨタ自動車)、大迫傑(Nike)の3選手が出場する。女子と同様に前回金メダリストで2時間01分39秒の世界記録を持つE・キプチョゲ(ケニア)を筆頭に、アフリカ勢の壁は高く、厚い。ケニア、エチオピアに加え、その2国に近いウガンダやエリトリアからも強い選手が育ってきた。アフリカ出身選手が他国に帰化して出場してくるケースも増えている。G・ラップ(米国)やS・N・モーエン(ノルウェー)ら、白人選手で世界トップレベルの実績を持つ選手も強敵だ。
 メダルを取れるとは言えないが、女子のレースを見る限り、最初からハイペースにはならない。トップ集団でレースを進め、メダルを取れる可能性をぎりぎりまで捨てずに走るだろう。
 8月4、5日に行われたオンライン会見時のコメントを中心に、どんなレース展開が期待できるかを紹介する。

●故障の影響がなければ終盤勝負に期待できる中村

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▼中村匠吾のマラソン全成績
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18年3月:びわ湖7位・2時間10分51秒
18年9月:ベルリン4位・2時間08分16秒
19年3月:東京15位・2時間14分52秒
19年9月:MGC1位・2時間11分28秒
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 中村の特徴は暑さへの耐性の高さと、最後の3km付近からの競り合いでの強さだ。
 ラスト3kmの強さは服部、大迫を破ったMGCでいかんなく発揮されたし、今年のニューイヤー駅伝最長区間の4区でも、富士通をトップに進出させている。
 暑さへの強さは9月開催だったMGCはもちろん、初マラソンの18年びわ湖でも発揮されていた。季節外れの高温の中、終盤で予想以上のペースアップをして、MGC出場資格だった2時間11分00秒突破を果たした。
 中村の暑さへの耐性は、もともとの体質だという。真夏でもエアコンの温度を下げないため、合宿などに同行するスタッフは苦労するという。オンライン会見でも「当日の気象状況は読めませんが、暑くなれば私には強みになる」と自信を見せていた。
 懸念材料は3月のマラソン、5月のハーフマラソンと、出場を予定していた2レースをケガで回避したこと。悪化させないために大事をとった意味合いが強いが、練習が計画通りには進まなかったのも事実のようだ。
 だが、その不安も本番前には払拭できている。
「故障が少し長引きましたが、テストイベント(5月のハーフマラソン)を欠場した後は足も順調に回復して、しっかり調整することができました。6月1日から8月4日まで約2カ月間は、長野県の菅平で高地トレーニングを積み重ねてこられた。距離とスピードをバランスよく取り入れ、継続して練習ができたのは自信になりました。最後の2~3週間は質を上げて状態も上げられました。あとは気を抜かずにスタートラインに立ち、万全の状態で出し切ることを大事にしたい」
 おそらく勝負どころまで、中村が集団の前面に出てくることはない。テレビ画面でよく見えないかもしれないが、集団の後方で背筋がピンと伸びたフォームで勝機をうかがっているはずだ。

●服部は30km以降のペースアップに勝機

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▼服部勇馬のマラソン全成績
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16年2月:東京12位・2時間11分46秒
17年2月:東京13位・2時間09分46秒
18年5月:プラハ5位・2時間10分26秒
18年12月:福岡国際1位・2時間07分27秒
19年9月:MGC2位・2時間11分36秒
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 服部は学生駅伝やニューイヤー駅伝では最後も競り勝っているが、マラソン経験を重ねる毎に中間走を楽に速いスピードを出せるようになっている。服部によれば「マラソンをジョグの動きで走り切る」ことを目指している。
「練習の基本的なところの、ジョグの動きと(1kmあたり)3分ペースの動きを同じようにしていくことは変わっていません。冬場ほどレースのペースが上がらないと思うので、(1kmを)3分02~03秒のペースでしっかり押していけるように考えて練習してきました」
 長期的には、出場を予定していた昨年12月の福岡国際マラソン前に故障があり、2週間程度の練習の中断があった。5月のテストイベント前にも故障があり、「普段のマラソンより少し急ピッチに作った感じ」の部分はある。
 そこをカバーするためではないが、服部は初めて、弟の服部弾馬(トーエネック)をパートナーに練習した。「弾馬も(トラック種目で)オリンピックを目指していたので、一緒に舞台に立てなかったのは悔しかったですけど、弾馬から思いを引き継ぎ、一緒にトレーニングしていて気持ちが高まるところもありました。いいメンタル状態でオリンピックの舞台に立てると思っています」
 優勝した18年福岡国際は、35km以降の驚異的なペースアップで14年ぶりの日本人優勝を成し遂げた。そこに弟との絆の力が加われば、福岡国際以上の走りが期待できる。

●引退決意でプラスアルファの力が出るか

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▼大迫傑のマラソン全成績
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17年4月:ボストン3位・2時間10分28秒
17年12月:福岡国際3位・2時間07分19秒
18年10月:シカゴ3位・2時間05分50秒(※当時日本新)
19年3月:東京 途中棄権・30km手前
19年9月:MGC3位・2時間11分41秒
20年3月:東京4位・2時間05分29秒(※当時日本新)
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 大迫の特徴は数多くある。
 リオ五輪5000m、10000m代表となり、現在も5000mの日本記録を持つなど、トラックのスピードランナーだったことを示す肩書きに事欠かない。
 種目の距離を伸ばしたときに見せた順応力も高かった。高校時代に駅伝で10kmを走ったとき、大学1年でハーフマラソンのU20日本記録(当時)を出したときなど、大迫に距離の壁はないのかもしれない、と感じさせた。それはリオ五輪翌年に、マラソンに進出した際も同じだった。
 マラソンでは2度、日本新をマークしたが、順位は3~4位が多い。東京五輪代表を決められなかったMGCの3位は敗戦以外の何ものでもないが、それ以外のマラソンは常にその時点の力より上のグレードの大会に挑戦した結果だった。
 上の選手に挑戦する姿勢は、超が付く強豪校の佐久長聖高に進学したときや、世界のトップ選手が集まるナイキオレゴンTCに飛び込んだときも、ずっと貫いてきた大迫の特徴である。
 力が上の選手に挑む姿勢は崩さないが、無謀な走りは絶対にしない。最後で失速してもいいから飛ばすようなことは絶対にない。日本記録を出したシカゴと東京も、タイミングを見て先頭集団から離れ、その時点の力を出し切る走りをしている。トラックやハーフマラソンでは暑さへの耐性も示しているので、入賞ラインに迫る走りは間違いなくできる。
 オンライン会見では「いつも通り」を強調した。
「(これまで出場したレースの)それぞれが特別なレース。今回、何か取り組みが変わるということはない。初マラソンも特別だったし、東京オリンピックも母国開催で、同じように特別だと思う。いろいろな感情があるが、そこを客観視して見られているところはある。冷静さやいつも通りを心がけて当日まで過ごしたい」
 唯一、これまでと違うのは、東京五輪を現役最後のレースにすると表明したこと。自身のYouTubeで「それは東京を自分自身の競技人生の最高のゴールにするためです」「次があるという言い訳を強制的になくしたくてこの大会をゴールにしました。このレースが終わりと決めた今、自分の持てる力すべて出せる気がしています」などと話している。
 大迫がいつもよりプラスアルファの力を出したとき、メダルに迫る可能性は上昇する。

 冒頭でも記したようにメダルを取るのは難しいが、日本勢も途中まではメダルを狙える位置でレースを進めるはずだ。しかしアフリカ勢のペースアップに最後まで付くのは難しいと判断できたら、入賞狙いに切り換えざるを得ない。一度下がって、終盤で落ちてきた選手を抜いて行く。
 だが、日本勢がこれまでのマラソンで見せてきた以上の力を出せば、メダルに近づいて行く可能性がゼロではない。各選手が力を出せそうな理由を紹介してきたが、日本チーム全体としては「特別なオリンピック」となっていることが、選手に何らかの力を与えるかもしれない。
 地元開催に向けて盛り上がったところから一転、コロナ禍で開催が危ぶまれたオリンピックである。服部を指導するトヨタ自動車の佐藤敏信監督は「人の命に関わる部分やスポーツの存在意義、自分が走ることの意味など選手は多くのことを考えたはずです。色々な思いを持ってスタートラインに立つことが力になる」と感じている。
 強い思いを痕跡として残してほしい。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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