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【GGP2022プレビュー①田中希実(女子1500m)】

東京五輪8位入賞の田中が「思い出深い」国立競技場に登場
「経験を積む」22年シーズンの重要なステップに

世界トップレベルの選手も多数参加する陸上競技コンチネンタルツアーの1つ、ゴールデングランプリ(GGP)が5月8日、東京・国立競技場で行われる。有力選手を数えたらキリがないが、その中でも女子1500mの田中希実(豊田自動織機・22)の注目度は高い。昨年、この種目では日本人初の五輪代表入りを果たすと、東京五輪本番では日本新を連発して予選、準決勝を突破。準決勝では日本人で初めて4分の壁を破り(3分59秒19)、決勝ではこの種目初の入賞と、女子中距離の歴史に残る快走を続けた。
 5000mでも19年の世界陸上ドーハ大会(14位)、東京五輪と出場。複数種目に取り組んできたが、今季は800 mと10000mも積極的に走っている。田中自身が記したGGP出場のメッセージを全文紹介し、今季の田中がやろうとしている課題や現状を、父親でもある田中健智コーチに説明してもらった。

●田中自身が記したGGP出場のメッセージ

今大会出場に向けてのメッセージを、田中自身にしたためてくれた。

ゴールデングランプリは、初めて新国立劇場で走り、初めて1500mの日本記録を出すことができ非常に思い出深い大会です。
昨年のこの時期は国立競技場で東京五輪テスト大会(READY STEADY TOKYO)が行われましたが、テスト大会ではあまりスッキリした走りができなかった記憶があります。
私の課題は、土台作りの仕上げが中途半端なままシーズンを迎えてしまうために、この時期はいつもスピードもスタミナも中途半端で、また、過去の自分を超えられたという自信がもてないことです。
今年も、仕上がり切っていない感覚が残るため、昨年のテスト大会の記録を上回れたら嬉しく思います。昨年度のこの時期を越えることが、昨年度の夏場のベスト記録を上回り、より世界に近づける目安になるとともに、自信をもてるきっかけになると思います。
ただ、シニアになってからはコロナ禍によって海外レースの経験が不足しているため、今は記録や結果を欲張るより、とにかく今年度のダイヤモンドリーグ、世界陸上、アジア大会で経験を一つでも多く積むことが重要だと思います。その過程で、狙っていないなかでも記録や結果がついてきたらよりラッキーと捉えています。
ただ、800mには取り組めるうちに全力で取り組み続け、今後のために絶対スピードを上げれるだけ上げておきたいと思っています。

●田中コーチが語る現状と、GGPから世界陸上への道筋

1964年の東京五輪に合わせて建てられた旧国立競技場は、その後も多くの国際大会、国内主要大会が行われ、数多(あまた)の新記録が誕生してきた日本陸上界の聖地だった。新国立競技場は、当初は20年に開催されるはずだった2度目の東京五輪に合わせて建てられた。そのスタジアム最初の日本記録をマークしたのが田中だった。
 田中は18年のU20世界陸上3000mに優勝し、19年の世界陸上ドーハ5000mでは14位。国際大会で活躍していたが、日本記録を出し始めたのが20年シーズンで、7月に3000mで初めて日本記録を更新した。そして五輪種目では初となる日本新を8月にマーク。その大会が新国立競技場初の陸上競技会だったゴールデングランプリである。
 1500mの日本記録は同じ兵庫県小野市出身の小林祐梨子さんが06年に出したタイム小林さんとは幼少時から交流があり、田中にとっては思い出深い日本新記録だった。
 今季の田中は前述のように、800 mと10000mにも力の入れ方が大きい。「この時期はいつもスピードもスタミナも中途半端」と本人は記し、4月29日の織田記念5000mのレース後には「去年以上に短い距離の種目も長い距離の種目もレースに出て、荒療治的になりますが、レースで刺激を入れていかないと甘えが出る」と話していた。
 しかし800 mと1500mのタイムは昨年の同時期の大会とほぼ同じ。5000mは4月9日の金栗記念では自信を持てず、ケニア人選手たちにつくことができなかったが、織田記念ではケニア人選手たちと先頭争いをして3位。低温と強風のためタイムは昨年より悪かったが、走りの内容は上向いていた。
 そして800 mは静岡国際で2分03秒10の自身セカンド記録で優勝している。田中コーチも「順調です」と現状を分析する。
「静岡の800 mは1周目を自重して、2周目をあそこまで上げられた。(木南記念を右脚太腿の違和感で欠場し)不安をもって走ったのですが、スピード、スタミナとも上がってきています。試行錯誤してきたことが良い方向に回り出してきました。東京五輪までとは言えませんが、GGPでもそこそこの走りはしてくれるのでは」
 予定ではGGP後に米国で、コンチネンタルツアーと世界最高峰のダイヤモンドリーグを1レースずつ走る。東京五輪は勢いで突っ走った部分もあったが、今後安定して世界と戦うためには、トップ選手と走る経験値を高めておく必要がある。
「GGPは国内の実業団在籍の外国人選手たちだけでなく、米国と豪州の選手も出場します。そうした選手たちと走ることにワクワク感もありますし、GGPをステップに米国に遠征し、そこで学んだこと、感じたことを日本選手権で表現できれば、7月の世界陸上オレゴンでもう一度東京五輪のような勝負ができる」
 田中の今シーズンの流れを考えたとき、GGPの重要性は極めて高い。

●標準記録狙いのペース設定か、4分10秒切りの設定か?

GGPの男子800 mと女子1500mにはペースメーカーが付く。具体的なペースはまだ決まっていないが、各選手の自己記録を見ると、3分台を目指す速い設定はしないだろう。田中も現時点ではそこまで仕上がっていないし、太腿の違和感の状態を見ながら走ることになる。
 そうなると世界陸上参加標準記録(4分04秒20)がターゲットタイムになる。田中は東京五輪時に突破済みだが、ジョージア・グリフィス(豪州・25)は適用期間内には標準記録を切っていない。エレノア・フルトン(米国・28)とヘレン・エカラレ・ロブン(ケニア/豊田自動織機・23)らの自己記録は標準記録に数秒と迫り、卜部蘭(積水化学・26)も目標にしている。
 ただ、各選手のシーズンベストを見ると、4分4秒20をイーブンで走り切る設定をした場合、終盤で失速する可能性もそれなりにある。今大会で標準記録を狙って無理をするより、4分10秒イーブンで設定し、ラストでスピードを上げる。その方が多くの選手が、確実に世界ランキングのポイントを獲得できるはずだ。
 田中の昨年のREADY STEADY TOKYO優勝記録は4分09秒10。それを上回るにも適したペースだ。
 観戦時の目安になる通過タイムだが、1500mをイーブンペースで走り切った場合は以下のようになる。
400 m:1分07秒
800 m:2分13秒
1000m:2分47秒
1100m:3分03秒(残り1周)
1200m:3分20秒
1500m:4分10秒
 このペースなら田中と外国勢にとっては難しいペースではないし、ラストのスピードがある卜部がついていれば、卜部にも優勝の可能性がある。最後の1周は1分07秒の計算だが、熾烈なスパート合戦が展開されれば1分01~03秒まで上がる可能性もある。1分01秒なら標準記録にも手が届く。
 机上の計算通りに進まないのが実際のレースだが、1000m、1100mの通過は上記タイムを参考に観戦すると、標準記録突破が実現するかどうか、ドキドキ感をもって観戦できる。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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