見出し画像

【世界陸上オレゴン2022フィールド種目期待のコンビ】

北口榛花&戸邉直人、JAL日本記録保持者対談
第1回 ドーハの予選落ちから東京五輪決勝の舞台へ

男子走高跳の戸邉直人(JAL・30)と女子やり投の北口榛花(JAL・24)には共通点が多い。近年の競技成績でいえば、ともに19年に日本新を出したがその年の世界陸上ドーハでは予選を突破できなかった。しかし21年東京五輪では予選を通過して決勝に進出した。 7月の世界陸上オレゴンのフィールド種目を盛り上げるであろう2人に対談をお願いし、フィールド種目ならではの面白さを語り合ってもらった。1回目は東京五輪の決勝進出について、今まで明かされなかった部分も含めてトークが展開した。

●東京五輪予選を通過できた要因

――ドーハの予選落ちと東京五輪の予選突破。どんな違いがあったのでしょうか?
戸邉 東京五輪は試合に向けての調整が上手くできましたね。パフォーマンスをしっかり出す準備ができたんです。ドーハの年は2月に日本記録(2m35)を跳び、そのあとも安定して記録を出すことができ、世界陸上はメダルも狙えると思っていましたが、体力と技術が上手く噛み合いませんでした。東京五輪の予選はそこが上手く調整することができました。
――日本記録を出して帰国した後に、踏み切り位置を遠くする試みをしましたが?
戸邉 19年の屋外シーズンでもっと記録を伸ばそう、という狙いで、踏み切りを遠くしようとしました。遠くした分、スピードと力も必要になりますが、それを世界陸上までにまとめ切れませんでした。
――東京五輪前にはまとめることができたのでしょうか。
戸邉 20年に緊急事態宣言が出されて4~6月は競技場が使えなくなってしまい、そこで1回、技術をリセットしました。6月の終わりから競技場が使えるようになり、もう一度技術を作り直した感じになったんです。厳密に言うと技術の方向性、流れみたいなところが19年の延長線上にはなくなっていました。20年の2月にも(練習拠点のある)エストニアで2m31を跳びましたが、6月以降は違う技術になっていきました。
――北口選手は世界陸上ドーハのときに背中の痛みがあった、という情報もあります。
北口 シーズンが進むと必ず、どこかしら痛いまま試合に臨んでいるのですが、ドーハのときは痛みは解消していました。19年はすごく調子が良く、シーズン前半から日本記録(64m36)を出し、悪くても60mは投げられると思っていた年でした。
――19年の10月に66m00とシーズンリスト世界7位となる日本記録を投げ、20年も9月の全日本実業団陸上は63m45で優勝しました。しかし10月の日本選手権は59m30で2位でした。
北口 20年もどこか痛い、という試合が多かったですね。体のコンディションが上手くいかない時期が続き、痛み止めを飲んで出場した試合もありました。
――21年も5月には60mに届かず、6月の日本選手権も優勝しましたが61m49。万全ではなかった中で、東京五輪予選で62m06を投げられたのは?
北口 国内の試合だと6回投げられる意識で試合をしてしまい、私の場合、4投目以降にその試合の最高記録が出る傾向があるんです。去年の日本選手権も前半3回は50m台でした。国際大会は3回目までに記録を残さないとベストエイトに進めないので、いつも厳しく指摘されるんです。東京五輪は(正規の試技前の)3回の練習試技を前半3回と思って全力で投げて課題を見つけて、1投目を4投目だと思って投げたら62m06まで飛んでくれました。

●49年ぶり、57年ぶり決勝進出に喜びは感じない

――2人とも決勝は痛みが出ていたそうですね?
北口 ケガ(左斜腹筋の肉離れ)をしたのは予選の2~3投目です。1投目が予選を通過できるか微妙な記録だったので、メンバーを見たら投げないといけない。そう判断せざるを得ませんでした。決勝は投げられる状態ではありませんでした。そう思ってピットに立ってしまっていましたね。テレビを見た人たちからは、緊張しているように見えたと言われましたが、緊張ではなくて覚悟を決めていた表情だったと思います。覚悟を決めないとやりを前に飛ばすことはできませんでした。
戸邉 決勝はアキレス腱の痛みが出ていましたが、予選の通過の仕方が重要だと改めて認識しました。オリンピックレベルになると予選通過記録も本気でやらないと跳べません。本気で予選を戦うなかで決勝を見据えてやるか、見据えないでやるか。その違いが重要です。微妙な力の抜き方ができたら、ケガをしないで、違う戦い方ができたかもしれません。
――男子走高跳の五輪決勝進出は49年ぶり、女子やり投は57年ぶりという快挙で、社会的には評価されました。
北口 競技直後のテレビインタビューでも57年ぶりの感想を聞かれましたが、ピンとこなくて。日本の陸上界にとっては意味のあることだったのかもしれませんが、私個人としてはもっと高いところを目指していました。予選通過だけで褒められるのはちょっと違うかな、と感じています。
戸邉 僕も北口と同じで、日本人何年ぶりということに実感はありませんでした。目標の金メダルを取るためには、決勝に進出しないと始まりませんから。評価していただくことはうれしいのですが、そこに喜びはありません。日本記録保持者になったら、自分のやることが日本人として初めてになるのは当然の立場です。“日本人初”というところとは違うステージに気持ちが行くようになっています。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

ゴールデングランプリ大会当日 マルチストリーミング配信します


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?