【東日本実業団駅伝・前日区間エントリー】
Hondaは1区に東京五輪代表の伊藤を起用
4区で坂東(富士通)vs.青木(Honda)の東京五輪代表対決が実現
Hondaが1区に東京五輪10000m代表の伊藤達彦(23)を起用――東日本実業団駅伝(11月3日、埼玉県熊谷スポーツ文化公園陸上競技場及び公園内特設周回コース、7区間76.4kmで開催)の最終オーダー
が2日の監督会議後に発表された。優勝候補筆頭のHondaは1区に伊藤、3区に充実している小山直城(25)、4区に東京五輪3000m障害代表の青木涼真(24)、そしてアンカーの7区にマラソン元日本記録保持者の設楽悠太(29)を配置した。前回優勝の富士通は記事③で紹介したように4区に坂東悠汰(24)、5区に松枝博輝(28)と東京五輪5000m代表2人を、3区には塩尻和也(24)を起用した。
GMOインターネットグループは、3区に昨年の福岡国際マラソン優勝者の吉田祐也(24)、4区に10000m前日本記録保持者の村山紘太(28)、5区にマラソン東京五輪候補選手(補欠選手)の橋本崚(28)という布陣で、2強に迫る布陣となった。
●1~2区はHondaがリードか?
Hondaは1区に伊藤を起用してきた。
1区選手たちの10000m自己記録の比較では、日本歴代2位の27分25秒73を持つ伊藤が頭1つ抜けている。牽制しないでリードを奪いたい区間だろう。5000mのスピードのある倉田翔平(GMOインターネット・29)と清水歓太(SUBARU・25)、箱根駅伝で区間賞をとったことのある浦野雄平(富士通・24)と米満怜(コニカミノルタ・23)、元市民ランナーの桃澤大祐(サンベルクス・28)らがどこまで食い下がれるか。
2区はインターナショナル区間。HondaのJ・ソゲット(22)が9月の全日本実業団陸上5000mで優勝している。ラストの強さは圧倒的だったので、1区が伊藤ということとも合わせ、2区でHondaトップに立っている可能性は高い。
全日本実業団陸上10000m優勝のR・キムニャン(23)の日立物流、今季のタイムでトップ(27分19秒16)のS・M・ワイザカ(21)のヤクルトなども上位に浮上してきそうだ。富士通も1区の浦野が伊藤に善戦できれば、2区のB・キメリ(26)が粘りの走りをするだろう。
●3区はHonda、富士通、GMOの27分台ランナーが激突
10000mの27分台は、近年の厚底シューズ(スパイク)によるタイム上昇により、以前の価値はなくなってきた。それでも長距離ランナーにとって勲章の1つであることは確かだろう。Hondaは小山(27分55秒16)、富士通は塩尻(27分47秒87)、GMOインターネットは吉田(27分58秒68)と、上位候補3チームは27分台ランナーを起用してきた。
Hondaの小川智監督は小山について、伊藤、青木の両五輪代表とともに「3本柱」と話している。監督会議後の取材にも「スピードが苦手でしたがかなり伸びてきて、外国人選手へ対応できる走りにつながっている」とコメントした。小山への信頼を感じさせる話しぶりだった。
塩尻については注目チーム③富士通
の記事を参照してほしい。
吉田は箱根駅伝4区で区間新を出した選手だが、昨年の今大会3区で区間賞と5秒差の区間3位と健闘した。ルーキーなマラソン東京五輪代表の富士通・中村と並走して存在感をアピールし、1カ月後の福岡国際マラソンに2時間07分05秒で優勝。今季は大迫傑(東京五輪マラソン6位)と合宿中の米国で10000m27分台をマークした。
GMOインターネットの花田勝彦監督は目標を「3位以内」としているが、「昨年同様前半から良い流れに乗って、攻めのレースをしたい。2区が強くないのですが、今年も3、4区で先頭にいたい」と期待を込めた。
3人以外では八千代工業の丸山竜也(27)が27分52秒27を持つ。ヤクルトの荻久保寛也(23)も28分00秒82、日立物流の栃木渡(26)も28分00秒49と27分台に迫っている。2区終了時のポジション次第で、トップ争いに迫ってくる可能性のあるチームだ。
●4区は坂東と青木の先輩後輩対決。ハーフマラソンと10000mの新旧日本記録保持者も
富士通は前回に続いて4区に坂東を、Hondaは青木を投入してきた。坂東が東京五輪の5000m、青木が3000m障害代表である。5000mで坂東が昨年のシーズン日本最高(13分18秒49)を出し、青木が今季日本最高(13分21秒81)を出している。そしてこの2人は法大で1学年違いの先輩後輩だった。
青木は今季日本最高を出した全日本実業団陸上後の取材で、「大会記録が法大の先輩の坂東さん(の13分22秒60)で、残り1周に入るときにタイムを見て、これはイケると、大会記録を意識して走りました」と話している。
坂東と青木がチームの優勝を懸けて競り合えば、今大会のハイライトになるだろう。
昨年の富士通が坂東でリードを奪ったように、3区で差がつかなければ4区の走りが勝敗に大きく影響する。それを想定して各チームとも強力な選手を配置してきた。
GMOインターネットは村山を起用。27分29秒69の前日本記録を出したのは15年で、16年を最後に27分台は出せていない。しかしGMOインターネットに移籍した今季は、7月に28分06秒89と17年以降では最高記録で走った。
花田監督は「やはり潜在能力は高いですね。夏以降練習も積めていますし、短い区間なので本人も自信を持っています。駅伝デビューで力のあるところを見せてほしい」と期待する。
ハーフマラソン日本記録(1時間00分00秒)を持つ小椋裕介(ヤクルト・28)は、8月に疲労骨折をしたこともあり短い区間への起用となった。そのなかでも「エースが集まる区間で順位を守ってほしい」(本田竹春監督)という役割を求められている。
注目したいのはカネボウ新人の池田耀平(23)だ。今年の箱根駅伝2区で日本人トップの区間3位。その1カ月前には日本選手権10000mで27分台(27分58秒52)で走っている。カネボウ入社後は7月に3000mで7分台(7分56秒10)とスピードに進境を見せ、先月は5000mで13分33秒67の自己新もマークした。
カネボウは1区の鈴木祐希(26)が前回も1区で区間3位、2区のL・キサイサ(23)は箱根駅伝予選会で圧倒的な強さを見せて3連勝した選手。3区の青木優(31)はマラソンで今年2月に2時間7分台(2時間07分40秒)を出している。
4区の池田の走り次第で、カネボウが優勝争いに加わってくるかもしれない。
●5区以降も選手層の厚いHondaと富士通に強力選手
5区には富士通が東京五輪5000m代表の松枝を、Hondaが5000mで全日本実業団陸上日本人3位(13分23秒94)の小袖英人(23)を起用。5区にこのレベルの選手を残す2強は、やはり選手層が厚い。GMOインターネットはマラソン東京五輪候補選手(補欠選手)だった橋本が、どこまで粘ることができるか。カネボウも9月に5000mで自己新を出した文元慧(29)で、松枝と小袖のスピードに対抗する。
6区も富士通とHondaが強力なカードを持っている。富士通は3000m障害17年世界陸上代表だった潰滝大記(28)、Hondaは昨年の全日本大学駅伝2区で17人抜きを演じた新人の川瀬翔矢(23)。どちらが優位か予想が難しい。
そしてアンカーの7区はHondaが設楽悠太で、富士通が横手健(28)。ともにキャプテンにフィニッシュテープを切る役割を託した。
マラソン元日本記録保持者の設楽は、16年リオ五輪は10000mで出場したトラックのスピードランナーでもあり、ニューイヤー駅伝4区で3回区間賞を取るなど駅伝でも抜群の強さを見せてきた。選手の“格”では明らかに上だが、20年以降はトラックではこれといった走りを見せていない。
それに対して注目チーム③記事(★★リンク挿入)で紹介したように、故障を克服した横手は強い思いで今回の駅伝を走る。この2人の優劣も、予測することはまったくできない。
全体的に見て、今シーズンの個人成績からHondaが優位であることは間違いない。だが富士通も、4区の坂東が昨年のように快走する可能性もあるし、注目チーム③記事で紹介したように、昨年走れなかった6区・潰滝、7区・横手の駅伝への思いが大きな力となるかもしれない。
テレビ中継から少しでも目を離したら、重要なシーンを見逃してしまう駅伝になりそうだ。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
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