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【東京五輪陸上競技3日目(8月1日)注目選手】

ママさんハードラー寺田、準決勝突破なるか!?
男子走高跳の戸邊がメダルを取るために意識することとは?

 大会3日目(8月1日)の日本選手の注目は、女子100mハードル準決勝に登場する寺田明日香(ジャパンクリエイト)と、男子走高跳決勝に駒を進めた戸邊直人(JAL)だ。寺田は12秒6~7台を出して、決勝に進出することを目標にしている。戸邊はメダル獲得を目標に長年、さまざまな経験を積んできた。
 寺田明日香の場合は自身の日本記録(12秒87)を大きく上回るタイムを出す必要が、戸邊も自身の日本記録(2m35)を更新する高さを跳ぶことが求められる。簡単なことではないが、2人のここまでの取り組み、頑張りを振り返ると、可能性はある気がしてくる。

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●準決勝で12秒6~7台を出すために

 大会2日目午前の100mハードル予選で、寺田は5組5位だった。着順(各組4位以内)で通過することができず、5位以下のタイム順で拾われる“プラス”での通過だった。そこだけを見ると準決勝通過(3組2着とプラス2人)は厳しいように思えてしまうが、可能性はゼロではない。
 寺田が予選で出した12秒95(+0.3)は、プラスの中では最高タイムで、3組を除いた3つの組なら着順で通過できた。12秒95は昨年までの日本記録(12秒97)を上回り、五輪日本人最高記録(13秒11)も大きく更新した。19年ドーハ世界陸上では13秒08まで、プラスで予選を通過している。予選を突破して当然のタイムである。
 12秒95というタイムについて問われた寺田は、次のように答えていた。
「冷静に走れたと思いますが、ちょっと浮いてしまった部分がありました。カマチョ(5組1位のJ・カマチョ・クィン=プエルトリコ)にはあのくらい離されるんだ、と実感しました。準決勝で差を詰めたいですね」
 高野大樹コーチが、次のように補足してくれた。
「カマチョと比べると踏み切りで後傾して1台目が浮いてしまっているのがわかります。準決勝は1台目を鋭く入れるか、が重要なポイントになりそうです。そこが上手く行くと前半のハードルは上手く行くでしょう。6台目以降は少しリズムが落ちて、踏み切りのブレーキ感が出ていました。そうならないようにしっかりピッチで刻んでインターバルを走れたら、自己記録は自ずと出るでしょう」
 寺田がイメージしているのは、12秒7台を準決勝で出すことだ。実際のところ、予選は12秒9台を出せばいいと考えて、「自己ベストを出すんだ、と気合いを入れる感じではなかった」(高野コーチ)という。
 予選のレース後に高野コーチと話している中でも、「タイムが出そうな感じがあります」と自然に口にしていた。
 テレビインタビューでも寺田は次のようにコメントした。
「目標は決勝に残ること。プラスだったのでかなりギアを上げないといけませんが、12秒7台や6台を目指していけるように頑張ります」
 寺田の自己記録は12秒87。6月1日の木南記念で出したタイムだが、その前の自己記録(日本記録)は12秒96だった。肉体改造と技術改良が進めば、記録を一気に縮められることを実証した。12秒7台は不可能な数字ではない。

●予選で違和感も戸邊の経験値に期待

 戸邊直人(JAL)は2m28で予選を通過した後に、試合前に脚に違和感があったことを明かした。
「踏み切り脚(左脚)のアキレス腱にちょっと突っ張る感じがありました。踏み切りよりも助走の途中で気になったのですが、試合になったら大丈夫でした。決勝はたぶん問題ないんじゃないかな、と思っています」
 試合前には不安材料を絶対に口にしない選手は多い。戸邊もプラス材料しか言わないタイプなので、おや? っと思ったが、オリンピックは国内選考会とは違い、外国選手に対し思い切りぶつかっていく試合である。違和感を無理に隠し通すより、正直に口にした方がストレスにならない、と判断したのだろう。
 決勝は大丈夫だと戸邊自身は話すが、実際のところ痛みは、当日になってみないとわからない部分だ。それでも戸邊に期待できるのは、経験値が普通の選手と比べけた違いに高いからだ。
 大学4年時の13年に東京五輪開催が決まり、29歳で迎える本番で最高の跳躍をしようと自身に誓った。そのために色々な方法を試すことにした。
 技術的には助走歩数を何度も変更したし、アームアクションをダブルアーム(踏み切り時に両手を挙げる踏み切り動作)に変えたり、シングルアームに戻したりした。「東京五輪を一番良い技術で跳ぶため」の試行錯誤を、何年もかけて行ってきた。
 大学院に進学したのも、「トレーニングや動作に対する理解を深めれば、長い期間で見て、競技者として到達する高さを高められる」と考えたからだ。
 外国遠征も頻繁に行った。19年世界陸上金メダリストのE・M・バルシム(カタール)をはじめ、世界のトップ選手の大半と顔見知りである。どんな国際試合でも、知らない外国人選手に囲まれて気を遣うことはない。ダイヤモンドリーグで上位に食い込んだ回数、海外で2m30以上を跳んだ試合数など、歴代の日本人ジャンパーの中でも戸邊は突出している。
 そうした経験値が、大きな痛みであればどうしようもないが、小さな痛みであれば対処する際に役立つはずだ。
「予選は(違和感にも)焦ることなく対処できました。気にはなりましたが、特に何かを変えるわけではなく、普段通りにやることができた」
 戸邊はずっと「オリンピックのメダル」を目標にやってきた。そこに挑戦する日が迫っているが、だからといって特別なことをやろうとしているわけではない。何年もの年月を費やした準備をしてきている。あとは「自分がやるべきことをやるだけ」だ。
 大会当日になれば、自身の体調と動きを見極め、どういう意識でどこを動かせば良いか、冷静に判断するだけだ。そのときにメダルを意識する必要はまったくない。
「まずは自己記録を更新して、そこから記録に挑戦していくなかで順位も付いてくるのかな、と思っています。自分がやるべきことに徹することを意識したいと思います」
 2m40を跳ぼう、と考えるのではなく、自己記録を伸ばすために、どんな動きをすべきかに集中する。自己記録は日本記録の2m35だ。それを更新すれば、メダル圏内に入っていくことになる。

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TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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