【全日本実業団ハーフマラソン2022プレビュー③男子展望】
前回日本人トップの市田や日本記録保持者の小椋が参戦
駅伝で快走した太田、中山、林田、土方、田村も加わり激戦模様に
全日本実業団ハーフマラソンが2月13日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。男子はハーフマラソンで実績のある市田孝(旭化成・29)と小椋裕介(ヤクルト・28)、世界陸上の代表経験がある佐藤悠基(SGホールディングス・35)や川内優輝(あいおいニッセイ同和損害保険・34)、ニューイヤー駅伝初優勝を飾ったHondaの中山顕(24)と土方英和(24)らが参戦する。まさに多士済々で優勝候補を絞るのが難しい。さらに今年は、日本学生ハーフマラソン選手権が中止になったことを受け、学生選手も参加する(順位は認められるが表彰の対象とはならない)。藤木宏太(國學院大4年)、藤本珠輝(日体大3年)、松山和希(東洋大2年)、伊豫田達弥(順大3年)ら、各大学のエース級がエントリーされている。
●前回日本人1位の再現を狙う市田孝
男子は優勝(日本人トップ)候補に挙げられる選手が非常に多い。前回1時間00分19秒の大会新で2位(日本人1位)となった市田孝、1時間00分00秒の日本記録を持つ小椋裕介、10000mで27分33秒13(日本歴代7位)と参加選手中最速タイムを持つ太田智樹(トヨタ自動車・24)、同じく27分30秒台を持ち1年前のニューイヤー駅伝4区区間賞の佐藤悠基。
誰が勝ってもおかしくないが、注目したいのはニューイヤー駅伝で失敗した市田の復調ぶりだ。昨年のニューイヤー駅伝も7区で区間9位と奮わなかったが、今大会では快走した。
「日本記録(1時間00分00秒)も狙っていたので悔しさもある」と話したが、ニューイヤー駅伝以降はこの大会を目標に、2分50秒ペース(ハーフマラソンに換算すると59分47秒)にも対応できるスピード練習を積み、スピード持久力も養うためにマラソンに出場する選手とも一緒に練習してきた。
目標としていた東京五輪には届かなかったが、5月の日本選手権10000mは4位、READY STEADY TOKYO5000mは見事なラストスパートを見せて優勝した。東京五輪10000m代表に決まっていた相澤晃(旭化成・24)らを破ったのだ。
今年のニューイヤー駅伝は4区で区間17位で、前回以上に良くなかった。昨年のREADY STEADY TOKYOで故障をして、復帰するまでに時間がかかった。ニューイヤー駅伝には何とか合わせたが、どこかにほころびがあったようだ。
今年も1年前と同様に、ここで良い流れを引き寄せたい。旭化成の西村功監督は「市田は自己記録の更新を」と期待する。それができれば日本人初の59分台突入の可能性も出てくる。
4月の金栗記念10000mでは7月開催の世界陸上オレゴン標準記録(27分28秒00)に挑み、5月の日本選手権10000mで代表入りを狙う。
●ニューイヤー駅伝で活躍の選手たち
元旦のニューイヤー駅伝で活躍した選手が多数出場する。最長区間の4区(22.4km)がハーフマラソンとほぼ同じ距離だが、今回は3区など他の区間の上位選手が多数エントリーした。
ニューイヤー駅伝初優勝のHondaでは、6区(12.1km)区間賞の中山顕と7区(15.5km)区間賞の土方英和の2人への期待が高い。スピードのある準エースが出場する3区(13.6km)からは太田、林田洋翔(三菱重工・20)、田村友佑(黒崎播磨・23)と、区間2~4位の選手が出場する。1区(12.3km)からは区間2位の森山真伍(YKK・23)と区間5位の永戸聖(日立物流・25)の山梨学大OBコンビがエントリーしてきた。
Hondaの優勝を大きく引き寄せたのは6区の中山だった。中継時にはトップの三菱重工と32秒差があったが逆転し、7区への中継時には2位に上がってきたSUBARUに16秒差をつけた。距離は12.1kmの区間だが、向かい風の中で区間2位を27秒も引き離した走力は、ハーフマラソンでも十分期待できる。
土方も向かい風の中で区間2位に35秒も差をつけた。3月6日の東京マラソンに向かう過程での出場となるが、マラソンでは昨年2月に2時間06分26秒(日本歴代5位)を出している。ハーフマラソンの自己記録は1時間02分02秒だが、マラソンの中間点通過でも1時間2分台で2度走っている。1時間1分前後は余裕で出せるのではないか。
3区の区間上位選手たちも期待できる。
太田は11月の中部実業団対抗駅伝エース区間で区間賞を取り、区間2位に1分28秒の大差をつけた。同じ11月に10000mの27分30秒台を出し、ニューイヤー駅伝でも4区を任される予定だったが、12月の合宿で足のマメから菌が入って足首が大きく腫れ、練習を2週間完全に休んだ。故障明けのポイント練習は3回だけで駅伝に臨んだが、太田は22位からトップと53秒差の7位まで上がり、5位入賞への流れを作った。
注目したいのが高卒入社2年目の林田だ。中学時代に3000mで全国タイトルを取り、高校では5000mで全国トップレベルの記録を残したが、入社後は実業団レベルになかなか対応できなかった。しかし昨年12月に10000mで28分05秒26をマークすると、3区では区間3位でトップに立つ快走を見せた。
黒木純監督は「1時間0分台を」と目標を設定している。ニューイヤー駅伝後の林田を「故障をしなくなったし、チームのエースにならないといけない思いが強くなってきています」と、成長を認めている。
市田と同じように、4月の金栗記念10000mにつなげていくためのハーフマラソンとするつもりだ。
●東京五輪マラソン代表の服部も復活のステップに
2月末の大阪・びわ湖マラソン統合大会、3月6日の東京マラソンに照準を合わせている選手も多く出場する。
前述の小椋、佐藤、土方は東京マラソンに出場予定だ。2時間6分台を持つ高久龍(ヤクルト・28)、2時間7分台の菊地賢人(コニカミノルタ・31)、10000m27分30秒台の河合代二(トーエネック・30)、27分40秒台の荻久保寛也(ヤクルト・24)も東京マラソンを走る。
17年世界陸上ロンドン9位の川内優輝と2時間8分台の土井大輔(黒崎播磨・25)は大阪出場が発表されている。
そして東京五輪マラソン代表で、脱水症状を起こして73位(2時間30分08秒)と大敗した服部勇馬(トヨタ自動車・28)も、マラソン復帰に向けてハーフを走る。佐藤敏信監督によれば「自己記録(1時間01分40秒)が目標」と話しているという。
「ニューイヤー駅伝(5区区間14位)前は練習がもうひとつ良くありませんでしたが、今回は練習を見ると、行ける気がしています。上位で、というよりまずはしっかり走り、その後も走り込んでベースを作り、4~5月の海外マラソンに出られたら、と考えています」
ニューイヤー駅伝で活躍した選手など好調な選手が多数出場するが、市田や服部など大きな大会で失敗した選手が、今大会を活用して復調していく姿も見逃さないようにしたい。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
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