女子は本命不在の戦い。前回上位の森と川村、MGC出場権を持つ福良、初マラソンを控えた小井戸らが1時間9分台に意欲【全日本実業団ハーフマラソン2023プレビュー②】
第51回全日本実業団ハーフマラソンが2月12日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。女子は本命不在の戦いになる。昨年は五島莉乃(資生堂・25)が1時間08分03秒の女子単独レース日本新をマークしたが、今年は1時間9分台を目標としている招待3選手をはじめ、1時間10分前後を目標としている選手が多い。
10月開催のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)出場資格を持つ福良郁美(大塚製薬・25)や、招待選手の小井戸涼(日立・25)らは2月末~3月のマラソンにつなげるのが目的だ。
●招待選手3人は1時間9分台が目標
招待選手3人の今大会の位置づけは三者三様だが、3人とも1時間9分台を目標にしている。
森智香子(積水化学・30)は今大会で2年連続自己新を出している。21年に1時間10分53秒(12位)、昨年1時間10分12秒(6位)。トラックの3000m障害と1500mでは日本トップレベルだが、長い距離が得意とは言えない。それが近年はハーフマラソンで上位に食い込むようになった。
積水化学の野口英盛監督は「本人は1時間10分を切りたいと言っています」と記録の目標とともに、出場の目的を以下のように話した。
「ハーフを目標として冬期でしっかり走り込み、春からのシーズンにつなげていきます。メニューは変えていますが、状態としては例年と同じです。メンバーやレースの流れ次第ですが、それなりに良い感じで走ると思います」
1時間9分台の手応えは十分ある、ということだろう。
川村楓(岩谷産業・25)は昨年の今大会で1時間10分17秒の8位。廣瀬永和監督は「たまたま走れた」と辛口だが、去年より期待している。
「昨年はそれほど距離を走っていませんでしたが、今年は年末年始も距離を走っています。そういう部分がどう出るか。最初の5kmは上りがあって遅くなりますが、それ以降をみんなでペースを作れば1時間10分前後は出せます」
タイプ的には後半で上げていくより、前半から速いペースで入る方が力を出し切ることができる。積極的なレース展開を見せてくれそうだ。
小井戸涼(日立・25)は3月12日の名古屋ウィメンズで初マラソンを予定している。
「先週40km走をやりましたし、昨日も1km×15本をやったので(調整していないので)、どこまで行けるか」と、北村聡監督は慎重だ。
だが名古屋では「2時間25分を切ってMGCを取らせたい」という目標がある。そのためには今大会で「1時間10分を切ってほしい。それができたら(名古屋の日本人トップ集団でのレースにも)挑戦できる」と期待している。
招待3選手は1時間9分台が目的達成の目安になる。
●MGC出場資格を持つ選手の状態は?
MGCまではまだ7カ月時間があり、直接的につながるわけではないが、MGC出場資格を持つ選手たちに注目したい。松下菜摘(天満屋・28)は3月5日の東京、福良郁美(大塚製薬・25)は2月末の大阪と、今大会直後にマラソンに出場する。
松下は昨年1月の大阪国際女子マラソンで2時間23分05秒の3位、MGC出場資格を獲得したが、8月の北海道マラソンでは2時間50分44秒の10位。天満屋の武冨豊監督によれば、大腿骨の疲労骨折をしてしまったという。11月のクイーンズ駅伝にも間に合わなかった。
年末から本格的な練習を再開し、1月末からの徳之島合宿では「距離走もできるようになった」(武冨監督)が、東京マラソンでは「MGCの前に1回、2時間26~28分で走っておくのが目標」だという。それを考えれば、今大会での1時間9分台までは必要ないかもしれない。
ただ天満屋勢は、目標を上回るタイムを出してくる傾向はある。今大会の松下も先頭集団で、行けるところまで走るのではないか。
福良は昨年3月の名古屋ウィメンズで2時間25分15秒の7位となり、MGC出場資格を獲得した。2月末の大阪では2時間23~24分台を出し、半年後のMGCに向かうプランだ。その前の今大会で、1時間09分58秒の自己記録を更新したいという。
だが福良は、昨年の名古屋の後はどの種目も自己記録に迫る走りがない。「少し構えてしまって、守りに入っていたのは否めない」と河野匡監督。
だがマラソンを3シーズン続けてきて、その間、「大きなケガもない」(同監督)という。「どこかのタイミングで弾けたら一気に行くと思う」という期待がある。それが今回のハーフマラソンになれば、自己記録更新も可能性は十分ある。
●初マラソンにつなげたい選手たち
松下と福良、招待選手の小井戸は今大会直後のマラソンにつなげるのが目的だが、唐沢ゆり(九電工・27)と西谷沙綾(大塚製薬・21)も直後のマラソンに出場する。ともに初マラソンで、唐沢は大阪を、西谷は名古屋を予定している。
唐沢の大阪での目標タイムは2時間24~25分で、全日本実業団ハーフでは「1時間11~12分台で、余裕を持って走る」(藤野圭太監督)ことが目的だ。
西谷は昨年12月に大塚製薬に移籍してきたばかり。名古屋は「初マラソンで頑張れるだけ頑張る」(河野監督)ことが目標で、今大会も「どのくらいで走れるか見てみる」という段階だ。だが「ケガなどをしても落ち込まない。人間的なところでエネルギーがある。意外と走るかもしれない」という期待がある。注目したい選手だ。
逸木和香菜(九電工・28)と小笠原朱里(デンソー・22)は、マラソンを将来的に走る可能性はあるが、今回は故障明けの状況でどこまでしっかり走れるか、を試す大会になる。
逸木は昨年9月の全日本実業団陸上10000mで日本人2位となり、12月には31分58秒59と自己新をマーク。10月のプリンセス駅伝5区でも区間賞と、充実期に入った。だが1月に全国都道府県対抗女子駅伝、北九州選抜女子駅伝、大阪国際女子マラソンのペースメーカーと連戦するなかで、膝に痛みが出てしまった。
「出るからには1時間10分台は出したい」と藤野監督。万全ではないなかでどこまで力を発揮できるか、という走りをする。
小笠原も1月29日の大阪ハーフマラソンで1時間10分36秒の3位と好走したが、その後、右脚のひらめ筋からアキレス腱にかけて痛みが出てしまった。ロングジョグでつないできて、強めの練習は今大会3日前に2000mを1本走っただけだという。
「(前レースで)1時間10分台を出したので、そこを目標にレース展開をどう組み立てられるか」(溝渕太郎助監督)を意識して臨む。
溝渕助監督が「のちのちのマラソンに生かされる部分」と言い、藤野監督も「逸木には一度マラソンを走ってほしい」と考えている。
本来であれば優勝候補の逸木と小笠原だが、将来のマラソン出場を見据えて、苦しい状況の中でも力を発揮する走りを試すことになる。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
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