【世界リレーシレジア2021展望②】
東京五輪出場に日本記録レベルが求められる女子両リレーと男女混合リレー
男子4×100 mリレーは若手だけでユージーン世界陸上出場権獲得を
世界リレーシレジア2021が5月1、2日と、ポーランドのシレジアで開催される。日本は男女の4×100 mリレーと男女の4×400mリレー、男女混合4×400mリレーの5種目に選手を派遣。女子の両リレーと男女混合4×400mリレーは、本大会で東京五輪出場を決めるためには上位8カ国に入る必要がある(6月29日時点の世界ランキングで最終追加)。そしてそのためには、日本記録レベルの走りが求められる。
●女子4×100 mリレーはメンバー全員に勢い
女子4×100 mリレーには新しい戦力が育ち始めた。昨年の日本選手権は兒玉芽生(福岡大)と鶴田玲美(南九州ファミリーマート)の2人が、新エースといえる活躍を見せた。
兒玉は100 mに11秒36で優勝。日本インカレでは11秒35の日本歴代3位をマークした。鶴田の日本選手権200 m優勝タイムも、23秒17の日本歴代3位。2人とも今シーズンはまだエンジンがかかっていないが、昨年の走りを再現すれば、4×100 mリレーでは大きな戦力となる。
齋藤愛美(大阪成蹊大)も今季好調で、3月末の世界リレー・トライアルの200 mと4月の出雲陸上300 mに優勝し、100 mでも11秒66と、自己記録を(11秒57&23秒45)を更新する勢い。学生ルーキーの青山華依(甲南大)と石川優(青学大)も、青山は世界リレー・トライアル100 m優勝(11秒56)、石川も出雲陸上100 m優勝(11秒46=追い風参考)と素晴らしい出足を見せている。
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兒玉芽生(福岡大4年)
鶴田玲美(南九州ファミリーマート)
青山華依(甲南大1年)
齋藤愛美(大阪成蹊大4年)
石川 優(青山学院大1年)
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だが出場権を得るには、その力を完全に出し切らないと苦しい状況にある。
世界リレーで8位以内に入ること。五輪出場権を得るには、まずはそこが目標になる。前回の横浜大会予選は3組が行われて2着+2が決勝進出条件。タイムで拾われる「+2」の2番目が43秒40だった。日本記録の43秒39(11年。北風沙織・高橋萌木子・福島千里・市川華菜)と同レベルの走りが求められるのだ。今回のメンバーに勢いは感じられるが、100 mの自己記録では日本記録メンバーが上回っている。
だが前回は、44秒12でも2着に入ったチームがあった。強豪チームの欠場やバトンミスがあって、組によって通過ラインが低くなることもあるのが4×100 mリレーである。苦しい状況になっても、あきらめなければ道は開ける。
シレジア世界リレーで8位以内に入れなかった場合は、6月29日時点の世界ランキングでの出場決定を待たなければいけなくなる。
すでに出場権を持っている世界陸上ドーハの入賞8カ国が、シレジア世界リレーでも8位以内に入った場合、そのチーム数分の出場資格が決まらないことになる。ただ、何チームが世界ランキングで選ばれることになるかは、世界リレーが終わってみないとわからない。
山崎一彦強化委員会トラック&フィールドディレクターは「世界リレーの決勝に残ることが明確な目標になる」と言う。
「現時点でも世界ランキングの16番目が43秒44です。タイムで出場権を得ようとしたら43秒2~4が最低ラインになる。なんとか世界リレーで決勝に行きたいですね。女子はバトンパスが世界大会で決まらないので、そこをしっかりやって決勝に行ってほしい」
他国の記録次第で決まる世界ランキングではなく、自力で出場権を取りに行く。
●女子4×400mリレーは青山と松本の主力2人が充実
女子4×400mリレーは青山聖佳(大阪成蹊AC)と松本奈菜子(東邦銀行)が代表メンバーに定着。エースの青山は昨年400 mで52秒38の日本歴代2位を、松本も53秒31の自己新を出している。
高島咲季(青学大)も一昨年インターハイに優勝し、世界陸上の男女混合4×400mリレーにも出場した選手。高校卒業後に自己記録は更新できていないが、日本インカレは1年目から制している。
4人目のメンバーには、4×100 mリレーとの兼ね合いになってくるが、出雲陸上300 mで優勝した齋藤に出番が回ってくることもあるかもしれない。
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青山聖佳(大阪成蹊AC)
松本奈菜子(東邦銀行)
髙島咲季(青山学院大2年)
川田朱夏(東大阪大4年)
小林茉由(J.VIC)
新宅麻未(アットホーム)
齋藤愛美(大阪成蹊大4年)
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前回の横浜大会の予選通過ラインは3分29秒89だった。また、世界ランキングでも現在の16位は3分30秒32。山崎ディレクターは「最低でも3分29秒台を」と、日本記録(3分28秒91)レベルのタイムを期待している。
しかし現地の気温が低いという情報もあり、日本記録更新は簡単なことではない。
ただ、世界陸上ドーハで出場権を得ている米国とウクライナ、世界ランキング現在10位の豪州が世界リレーには参加しない。もちろんタイムを上げることが必要だが、世界リレー決勝進出で、出場権を獲得する可能性が大きくなってきた。
●五輪初実施の男女混成4×400mリレー出場なるか
男女混成4×400mリレーには、男子4×400mリレーと女子4×400mリレーの代表に選ばれた選手の中から男子2人、女子2人が出場する。男女の走順に規程はないので、男子と女子が同じ走順を走ることもある。その国の戦略や特徴が現れるところでもあり、見ていて面白いという意見も多いが、否定的な意見も出ている部分である。
日本は前回大会は1走・男子、2走・女子、3走・女子、4走・男子で、19年世界陸上は女子・男子・男子・女子の走順で出場した。世界リレーは3分19秒71、世界陸上は3分18秒77とともに日本新をマークしたが、両大会とも予選を通過することができなかった。
前回世界リレーの予選通過最低タイムは3分18秒26。現時点の世界ランキング16位は日本で3分18秒77。決勝に残るにしても、世界ランキングを上げるにしても、日本記録の更新が必要になってくる。
その可能性は十分ある。
仮に男子が46秒0と45秒5、女子が53秒0と53秒0で走れば3分17秒5になる。女子両リレーと男女4×400mリレーの3種目の中では、記録だけで判断すれば一番出場権獲得に近いかもしれない。
問題は大会初日の競技スケジュールで、女子4×400mリレーの予選が19:00、男子4×400mリレー予選が19:35、男女混合4×400mリレー予選が21:20と実施間隔が狭い。休憩時間が2時間もないわけで、実際、横浜大会でも2種目に起用した選手のタイムは明らかに落ちていた。他国のエントリー選手や気象状況なども分析し、戦略的な判断が求められることになる。
●若手チーム派遣の男子4×100mリレーの意味
男子4×100 mリレーだけは、世界陸上ドーハ大会の入賞(銅メダル)で五輪出場権を獲得している。日本はポスト東京五輪を見据えてのメンバーを送り込んだ。
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坂井隆一郎(大阪ガス)
栁田大輝(東京農大二高3年)
鈴木涼太(城西大4年)
樋口一馬(MINT TOKYO)
宮本大輔(東洋大4年)
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若手主体といっても実績を持つ選手ばかり。
坂井は10秒12の学生歴代8位を持ち、今年3月の世界リレー・トライアルでは快勝した。栁田は昨年のゴールデングランプリで5位と、多田修平(住友電工)と小池祐貴(同)の代表候補2人に先着した。鈴木は昨年の関東インカレ優勝者で、樋口は200 mで昨年20秒68を出し、日本選手権5位、今年3月末の世界リレー・トライアル2位の成長株。そして宮本は中学・高校と全国タイトルを取り、18・19年には関東インカレを2連覇している。
山崎ディレクターは男子4×100 mリレーの派遣意図を、次のように話した。
「今回のメンバーでも決勝に残って、世界陸上ユージーン大会の出場権を取ることが目標です。今、代表候補選手メンバーは固定化されています。トップの選手たちが強くて付け入るスキがない。下の選手たちもそう感じてしまっているところがあるので、その現状を打破することも目的です。成功体験ができれば若手に自信が生まれて、チームとして好循環を作ることができる」
出場権を持っているからと、俗に言うところの、消化試合にしないことを強調した。
今回のシレジア世界リレーは、単純に順位だけを求める大会ではない。東京五輪出場権を取る条件など、どんな結果を残せば次につながっていくのか。そこを理解してテレビ観戦すれば、世界リレーと今後の陸上競技がいっそう面白くなる。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト
放送は5月2日(日)深夜2時13分 TBS
動画配信サービス Paravi でもLIVE配信