2020年1月12日「風をよむ~アメリカ・イランの危うさ~」
アメリカによる司令官殺害に対し、イランのミサイルでの報復で一気に高まった戦争への不安。この間、「第三次世界大戦か!?」という言葉がネット上に多くあがるなど、世界中で飛び交ったのです。
アメリカ トランプ大統領 「追加の懲罰的経済制裁を発動する…」
1月8日、アメリカのトランプ大統領は経済制裁の強化で対応すると発表し、とりあえず戦争の危機は回避されたかのように見えます。
しかし今回の騒動は、「戦争と政治」の危険な関係を改めて考えさせるものでした。そうした時、一つのヒントを与えてくれる本があります。
タイトルは「戦争プロパガンダ10の法則」ベルギーの歴史学者アンヌ・モレリが、20世紀以降の戦争には、為政者が共通して行う「10のプロパガンダの手法」があると、そのメカニズムをまとめ2001年に出版。政治が、国民を戦争に駆り立てる手法に警鐘を鳴らしたのです。
そこに書かれた「法則」は、今回のアメリカとイランの対立にも、如実に見てとることができます。まずは、第1の法則「我々は戦争をしたくはない」
アメリカ トランプ大統領「我々は戦争を止めるために行動した。戦争を始めるために行動を起こしたのではない」
トランプ大統領が語ったこの言葉は、「第1の法則」の、「戦争直前に語られる言葉」として挙げられています。さらに…
アメリカ トランプ大統領「イランはテロ支援者であり、その核兵器開発は文明世界を脅かしている。我々は決してそれを実現させない」
この発言は「第4の法則」にある「偉大な使命」、そして「第9の法則」の 「大義は神聖なもの」という内容に通じるように見えます。
また第7の法則にある「受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」という項目は…
イラン国営テレビ「アインアルアサド基地の重要地点へのミサイル攻撃 で、テロリストである米兵、少なくとも80人が死亡した」
ミサイル攻撃の被害をこう訴えたイラン側に対し、アメリカ側は人的被害 はなかったと発表。イラン側の国内向けプロパガンダではないかと指摘されたのです。
こうした手法が「法則」としてまとめられるほど、為政者は様々な手練手管を使って、世論を操ろうとします。実際、そうした例は歴史上数多く見られるのです。
例えば、第1次世界大戦当時、戦争に賛同する世論の形成に利用された逸話が、この本でも紹介されています。
「神様、私にはもう手がありません。いじわるなドイツ兵に切られたのです-」
無名作家が書いた「手を切断された少女の祈り」という作品。 真偽も定かでないこの話は、フランスやイギリスで大きな話題となり、ドイツに対する敵意を大きく煽る効果をもたらしたのです。
そしてこのエピソードと同じ手法が、70年以上あと、ほとんど同じように使われたのです―
敵の残虐さをアピールし、戦争を肯定させる、そうした顕著な例が、湾岸危機のさなか、1990年のアメリカで見られました。
アメリカ議会で証言した少女「イラクの兵士たちは保育器から赤ちゃんを取り出し…保育器を持ち去って、赤ちゃんを冷たい床の上で死なせました」
クウェートに侵攻したイラクに対し、開戦の是非を巡り揺れていたアメリカの世論は、この少女の議会証言で、一気に開戦へと舵を切ったのです。
しかし、この証言はのちに、全くのウソであった事が判明。アメリカの政治的思惑に利用される形となりました。
そして、こうした「戦争プロパガンダ」は決して他人事ではありません。日本もまた太平洋戦争当時、対立するアメリカやイギリスに対して、「鬼畜米英」とののしり、国民の敵愾心を煽りました。
その一方でアメリカもまた、日本人を「ジャップ」とさげすみ、野蛮凶悪な
国民であるかのようにアピールし世論を誘導したのです。
繰り返される「戦争と政治」の危うい関係…今回、あわや戦争となった事態の背景に、アメリカ市民は、トランプ大統領の政治的思惑を、冷静に感じ取っていました。
ニューヨークの男性「トランプ大統領は、以前『再選のためにオバマが戦争を始めるだろう』と言っていた。じゃあ、あなたはどうなんだ?…ってこと」
ニューヨークの男性「残念だけど戦争のリスクは、まだ高まっていると思う。トランプ氏が大統領である限り、それが続くだろう」
いつまた政治の都合で起こるかもしれない戦争の危機。「戦争プロパガンダ 10の法則」は、こう警鐘を鳴らします。
「戦争が終わるたびに、我々は自分が騙されていたことに気づく。そして(中略)『もう二度と騙されないぞ』と心に誓う。だが(中略)我々は、性懲りもなくまた罠にはまってしまうのだ―」