2020年5月10日 「風をよむ~ ウイルスとの共存・共生」
・経済活動の再開進む各国、ウイルスと共に生きる時代に
・人類の歴史はウイルスとの戦い 根絶できたのは天然痘のみ
・ウイルスとの戦争ではなく、私たちが適応できるかが問われる
アメリカ・フロリダ州のビーチ。新型コロナウイルスの感染拡大により、外出制限が続くアメリカで、一部制限の解除が始まっています。
フロリダ州・レストランの客 「新型コロナに誰も感染させない判断が必要だが、地域経済も支えなくてはならない」
こうした経済再開の動きは、ヨーロッパ各国にも広がっています。イタリアでは、今月4日から段階的に経済活動を再開。コンテ首相は、先月の記者会見でこう語っていました。
イタリア・コンテ首相(4月26日)
「イタリアが経済を再開するにあたり、ソーシャルディスタンスを保ち ”ウイルスと共存”していくことが唯一の方法です。」
また11日に外出禁止措置が終了するフランスでも…
フランス・フィリップ首相(4月28日)「ウイルスと“共に生きる”ことを学ばなければならない」
各国首脳が相次いで口にした「ウイルスとの共存・共生」という言葉。日本でも…
大阪府・吉村洋文知事(5日)
「第二波、第三波の波が来るということも当然想定しながら、このウイルスと“共存”するという道を探っていきたい」
一見、奇異にも聞こえる、危険なウイルスとの“共存・共生”。しかし、人類の歴史をさかのぼると、私たちは否応なく、ウイルスや細菌による感染症と、共に生きることを余儀なくされてきました。
ローマ帝国の時代から猛威を振るい、帝国の滅亡を早めたとされる天然痘やマラリア。
14世紀にヨーロッパを中心に猛威をふるい、当時の世界人口の4分の1が、命を落としたとされるペスト。
19世紀、インドから感染が広がり、江戸時代に日本にも到達、「ころり」と呼ばれ恐れられた「コレラ」。
さらに第一次大戦さなかに、アメリカから流行が始まったとされ、一説には、世界で死者1億人を出したともいわれるスペイン風邪。
人類の歴史と共にあったといっても過言ではない、こうした感染症は、ではその後、一体、どうなったのでしょうか?
1980年5月、WHO=世界保健機関は、天然痘の「世界根絶宣言」を行います。その鍵を握ったのが、「ワクチン」でした。
18世紀末、イギリスの医学者ジェンナーは、牛がかかる天然痘である 牛痘(ぎゅうとう)にかかった人のウミを接種すると、天然痘を予防できることを発見。「種痘(しゅとう)」という予防法を開発します。
その後、フランスの学者パスツールが、そうした手法を「ワクチン」と呼び、他の病気にも応用したのです。
ワクチンの普及によって、発生数が減少していった天然痘。日本でも、かつてはワクチンの接種が行われていました。
当時の医療関係者
「紫斑性天然痘ですね、これは伝染が強いですから、病室をちょっと覗いてもかかったという人もいる…」
そしてワクチンの接種等により、1977年にアフリカ・ソマリアで発生したのを最後に2年以上、患者が確認されなかったことを受けて、WHOは「根絶」を宣言したのです。
しかし一方で、天然痘は、人類が地球上で根絶できた、最初にして、唯一の感染症とされるなど、むしろ例外的な存在です。現在、人類を脅かしてきた多くの病気に、ワクチンや、様々な薬が開発されています。にもかかわらず、多くの感染症が今、どうかというと…
感染症に対して進むワクチンや薬の開発。にもかかわらず、21世紀になっても、アフリカやアジアでは、ペストの患者が発生。
コレラもアフリカや中南米で見られるなど、根絶には至っていません。
さらにエボラウイルス、SARS,MERSといった、新たな感染症が人類に襲いかかっているのです。
そうした中、今回の新型コロナウイルスについては、今、各国でワクチンの研究開発が進んでいます。
フランス・マクロン仏大統領「ワクチンの研究開発を加速させる必要があります」
イギリス・ジョンソン英首相「ワクチンを開発し、大量生産することでのみコロナとの戦いに勝つことができる」
しかし、新型コロナでは抗体があっても再び感染する可能性があるなど、いまだ多くの謎が残され、ワクチン開発の難しさが指摘されています。
さらに今回の感染拡大が一旦終息しても、「第二波」「第三波」の感染拡大も予想されており、その戦いは長期にわたると見られます。
イギリスのガーディアン紙は、コロナ患者の治療にあたる地元の著名な医師の、こうした言葉を載せました。
デビッド・ヒルディック・スミス氏(イギリス人医師)「コロナウイルスは、これからもずっといる。我々がすべきはウイルスとの戦争ではなく、ウイルスとの“共生”だ。私たちの方がそれに適応していかないといけない」
感染症と共に生きることを余儀なくされてきた人類。今回の新型コロナに対して、私たちはどのような生き方を求められるのでしょうか…。