2019/09/08 風をよむ「炎上商法とメディア」
・相次ぐ「嫌韓」報道、より扇情的に
・なぜ、メディアは嫌韓に飛びつくのか
・過去の惨禍に学んだはずのメディアが、今…
大手出版社が雑誌に掲載した記事が、厳しい批判を浴びています。
「厄介な隣人にサヨウナラ、韓国なんて要らない」―。
2日月曜日に発売された小学館の「週刊ポスト」。「嫌韓」よりも「減韓」、「断韓」などと銘打ち、関係を断ち切って困るのは日本よりも韓国だとする論を展開。
さらに…
「怒りを抑えられない韓国人という病理」
そう題して、韓国の医学会のリポートを根拠に、「韓国成人の半分以上が憤怒調節に困難を感じており、10人に1人は治療が必要」といった記事を掲載したのです。
この記事に対して、作家らが相次いで懸念を表明。同誌でエッセイを連載していた深沢潮さんは…
「差別扇動であることが見過ごせず、以降は抜けさせて頂きます」
さらに、今回の記事を受け「今後、小学館での仕事はしない」と表明した、思想家の内田樹さんは…
思想家・内田樹さん「1億2千7百万人の国民が対話できるようなプラットフォーム(土台)を作るのがメディアの最大のミッション。国論の分断に加担するようなメディアはマスメディアを名乗る資格がない」
こうした厳しい批判を受け、小学館は「誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました」と、謝罪コメントをウェブ上に公開したのです。
同様に大手出版社の記事が世間の批判にさらされたケースといえば…
自民党・杉田水脈衆院議員「(Q:LGBTについて)お答えできません」
去年、新潮社の月刊誌「新潮45」8月号に掲載された、LGBTら性的少数者を「生産性がない」とした自民党の杉田水脈衆院議員の寄稿と、その後の特集記事。都内の書店では…
金松堂書店店長「問い合わせが多くて、売り切れちゃいました」
しかし、内容が差別的で偏見だとする批判が殺到し、雑誌はその後、休刊となったのです。
大手出版社の雑誌でなぜこうした事例が相次いでいるのか。背景の1つとして指摘されているのが昨今の「出版不況」です。
去年、出版物の販売金額は、1兆2千900億円、最盛期だった1996年の2兆6千億円から半減しており、状況は深刻です。編集者で出版業界に詳しい篠田博之さんは…
月刊「創」編集長・篠田博之さん
「出版社は今、自分たちがどこに活路を見出していいのか分からない状況なんです。日本と韓国でナショナリズムがぶつかり合っていて、『そっち乗っかった方が部数が伸びる』と行ってはいけない道へ行ってしまった。これは出版に限らず、テレビも含めてですけれども、強いことを言うと、受けるんじゃないかっていう誘惑に駆られている」
過激な論を展開し、その話題性で売り上げを伸ばしたり、世間の注目を浴びようといった、いわゆる“炎上商法”。同様の姿勢は、メディア以外でも、ここ最近、様々な所で目につくのです。
「NHKから国民を守る党」の丸山穂高議員が島根県の竹島について、 先月31日「戦争で取り返すしかないんじゃないですか」などとツイッターに投稿。野党側は、国会での聴取を要請しました。
丸山議員は5月にも北方領土を巡って「戦争」に言及。厳しい批判を浴びたにも関わらず、同様の発言を繰り返したのです。
世間の注目を集め、ひいては社会を誤った方向に導く…。そうした例は、過去にもありました。
1942年6月、太平洋戦争の行方を占うミッドウェー海戦で、日本は主力空母のすべてを失う大敗を喫します。
ところが大本営は、その事実を隠し、戦況が有利に進んだかのように発表。メディアもまたそれを鵜呑みにし、虚偽の事実を報じたのです。
元々、開戦当初から新聞を中心としたメディアは、激しい見出しで、国民の敵愾心を煽り続けました。
朝日新聞には「米海軍に致命的大鉄槌」…、毎日新聞も、「米の第一戦主力を一挙血祭り」…。と、国民の戦意高揚を図ったのです。
背景には、政府による言論統制で「やむなく」という面もあった一方、経営を優先し、部数を拡大しようという“営利”のために、進んで「戦争熱」を演出していた事実もありました。
「過去の過ち」から、多くを学んだはずのメディア。しかし今、その教訓が薄れ、“炎上商法”的な姿勢が垣間見られます。
こうした姿勢を、専門家は…
高千穂大学・五野井郁夫教授(民主主義論)
「過激なものの競争、ネットの発言に負けないようにもっと過激にやろという競争が起きてしまっている。しかしそれが民主主義を壊している行為だってことに気が付いていない。本来メディアはナショナリズムというものが苛烈な方向に行って、差別意識が高まって攻撃的になりそうになったら、それを諌める、ガードレールになる、防波堤になる。それこそがメディアの もつ民主主義の中の機能。いま残念ながら、そういった民主主義の中で担うべき役割っていうものを放棄してしまっている」
憎悪や差別を煽る意見や出来事が目につく今、改めてメディアの姿勢が問われています。