2019/3/31 風をよむ「トランプ大統領とイスラエル」
●ゴラン高原についてイスラエルの主権を認める意味
●トランプ大統領の判断が世界に与える影響
●ユダヤ人迫害の歴史を振り返る
トランプ大統領「私は、ゴラン高原での、イスラエルの主権を認める大統領宣言に署名する」
ネタニヤフ首相「イスラエルの全国民を代表して、トランプ大統領、あなたのリーダーシップと友情に感謝します」
25日、シリアとイスラエルの間にあるゴラン高原について、イスラエルの主権を認める宣言に署名したアメリカのトランプ大統領。これには、ゴラン高原を自国の領土と強く主張してきたシリアが猛反発。
シリア・ジャファリ国連大使「これはアメリカ政府とその同盟国が非倫理的、非合法的な方法を使って進めている犯罪計画だ」
さらに、国連のグテーレス事務総長も・・・
国連グテーレス事務総長「ゴラン高原について、国連の立場は明確です。安保理と総会決議で明確に定められています」
こう述べ、ゴラン高原におけるイスラエルの主権を否定したのです。
1967年、イスラエルは、シリアからゴラン高原を奪い、占領。1981年にはイスラエルへの併合を宣言しましたが 国際社会は、それを承認してこなかったのです。
今回の動きの背景には、ユダヤ教徒でもあるクシュナー氏を娘婿とする トランプ大統領が次期大統領選を視野に、支持基盤である親イスラエルのキリスト教福音派に配慮した、という指摘もあります。
国際社会を無視する形のトランプ氏の言動は、初めてではありません。 おととし12月にはエルサレムを「イスラエルの首都と認定する」と宣言。
去年5月には、実際にエルサレムにアメリカ大使館を移転するなどして、世界から厳しい批判を受けてきました。
そもそもなぜ、中東地域はこのような状態に置かれたのでしょう。その背景には、ユダヤの人々の苦渋の歴史がありました。
行く手をさえぎる海がわかれ、モーセに導かれるユダヤの人々が、エジプトから逃れていく、有名な、旧約聖書の出エジプト記の一場面。
その後、ユダヤの人々は、エルサレムに住み着きましたが、ローマ帝国に神殿を破壊され離散。その後、およそ1900年におよび、祖国なき民として生きる宿命を背負ったのです。
差別・迫害の中、周囲に同化し、生活基盤を築いていく、ユダヤ人。そんなユダヤ人社会に、19世紀一つの機運が高まりを見せます。先祖ゆかりの地・パレスチナへの帰還を目指す動きです。
第1次世界大戦さなか、戦局を有利にしたいイギリスは、アラブ側に 独立国建設を約束する一方で、ユダヤ側にも、パレスチナでの建国を約束するという、二枚舌外交を展開。これが後世の火種となります。
その後、ユダヤ人を襲ったのがナチスドイツによる、反ユダヤ政策。ナチスに虐殺されたユダヤ人は570万人ともいわれます。
第二次大戦終結後の1947年。国連は、パレスチナの地をユダヤ側とアラブ側とに分割する決議を採択。アラブ側はこの決議を拒否しますが、ユダヤ側はこの決議を承認。
これを受けて、翌1948年、ユダヤ側は、パレスチナでのイスラエルの建国を宣言したのです。しかし、その翌日・・・
イスラエルが建国を宣言した、翌日の1948年5月15日、 エジプト・シリアなど、アラブ諸国の軍隊が、イスラエルを攻撃し、第一次中東戦争が勃発。これにより、多くのパレスチナ人が故郷を追われ難民となりました。
中東を揺さぶる戦争は、4次にわたり断続的に繰り返され、今日に至るまで、完全な和解には至っていません。
そして今、イスラエルは、新たな段階を迎えています。
ネタニヤフ首相「ユダヤ主義とイスラエルの歴史において歴史的瞬間だ。ここは我々の国だ。これが我々の言葉だ」(2018年7月)
イスラエル国会は、「民族自決権はユダヤ人だけにある」「ヘブライ語だけを公用語とし、アラビア語を公用語から除外」などとした<ユダヤ人国家法>を可決。イスラエルはユダヤ人の国としたのです。
しかし、イスラエルの人口のおよそ20%はアラブ系。アラブ系の議員らは「アラブ系住民の排斥だ」ときびしく批判。亀裂が深まっています。
ゴラン高原をめぐってさらに緊張が強まる中東情勢。トランプ政権とイスラエルはどこへ向かって行くのでしょう?