2020年8月23日「風をよむ~ コロナ禍の民主主義 ~」
20日、緊急着陸した飛行機の中で、突如響いたうめき声。
その声の主とされるのは、反プーチン派でロシアの野党勢力指導者、ナワリヌイ氏です。
ナワリヌイ氏は、空港で飲んだ紅茶に毒を盛られたのではないかとの見方がでています。この後、意識不明に陥ったナワリヌイ氏は、治療のため、ドイツ・ベルリンに運ばれました。
反プーチン派の有力者を巡る不可解な出来事が、相変わらず繰り返される、ロシア。
今年7月にも、極東のハバロフスク地方では、2年前に政権与党の候補を破って当選したフルガル知事が、突然、拘束され、知事を解任されました。
15年以上前の殺人事件に関与した疑いでの拘束とされますが、知事を排除したい「プーチン政権による弾圧ではないか」との見方が拡大、大規模な反プーチンデモが起きています。
さらに、そのロシアの隣国・ベラルーシでも・・・
「ヨーロッパ最後の独裁者」と呼ばれる、ルカシェンコ大統領に退陣を求める、20万人規模のデモ。抗議する市民に対し、ルカシェンコ大統領は・・
ベラルーシ・ルカシェンコ大統領「ここで君たちを殴るようなことはしない。そんなことをしても、何の得にもならないからな。しかし、君たちが挑発を続けるなら、厳しく、懲らしめてやる」
26年間ベラルーシに君臨し続ける、ルカシェンコ大統領。今月9日、行われた大統領選挙に圧勝、6選を果たしました。
しかし、この選挙を巡り、有力な対抗馬が拘束されたり、立候補を拒否される事態が発生。多くの市民が抗議の声を上げたのです。
こうした動きに、EU=ヨーロッパ連合は、緊急の首脳会議を開き、厳しく批判しました。
ドイツ・メルケル首相(19日)「選挙は公平でも自由でもなかった。よってこの選挙結果は、認めることはできない」
強権的な政権に対する抗議のデモは、アジアでも起きています。
今月、タイで行われた、政権退陣や憲法改正を求める市民のデモ。タイでは、2014年のクーデター後、続いてきた軍事政権が、去年、幕を下ろし民政に復帰。
しかし、首相であるプラユット氏が、クーデターを主導した人物で、強権的な政治が払拭されていない事に、不満の声が上がっていました。
そんな中、コロナ禍のもと、政府は3月下旬に出された非常事態宣言を4度も延長。宣言延長は、コロナ防止に名を借りた、抗議活動の抑え込みではないか、と市民は不信を強めたのです。
さらにタイの国民から、親しまれてきた王室までが批判の対象に・・・前国王の死去に伴い、誕生した新国王は、2016年の即位以降、別荘のあるとされるドイツで過ごす時間が多く、これに反発する若者たちが王室の改革を求めているのです。
コロナ禍でのこうした動きを、専門家は・・・。
五野井郁夫・高千穂大学教授(国際政治学)「新型コロナウイルスというものは、各国のリーダーの能力を測るリトマス試験紙。コロナ禍において人々は、ネットを見ざるを得ない。そうすると他国のリーダーと自国のリーダーを比べ、自国のリーダーはなんでこんなに無能なんだろうと。その無能なリーダーにまかせたら、自分たちの命すら、危ないんじゃないかと人々が目覚めてきた。」
経済成長の行きづまり、極端な格差、分断、そしてパンデミックなど、世界が混沌とする中で、起きているこの”うねり”の意味とは。
五野井郁夫・高千穂大学教授(国際政治学)「民主主義や自由といった、価値観が正念場に立たされている・・・」
強権的な政治に立ち向かう市民の動き。その背景にあるものとは?
五野井郁夫・高千穂大学教授(国際政治学)「そもそも民主主義で物事を進めていくのは、国民の議論が必要。議論をして理解をしていくには正確な情報開示も必要。そういったことを積み重ねて、妥協点だったり合意を積み重ねていく。そして三権分立。誰かが勝手に物事を進めてしまうようなことがないようにする、仕組みだてが三権分立。民主主義は、時間や手間がかかるプロセスな訳ですね。そうすると、これ面倒くさいんじゃないかというのが、為政者のみならず民衆の側からも欲望として出てくるわけです。もっと効率のいい政治や決断するリーダーが必要だと。しかし、それはまさに戦前への逆戻りであり、ファシズムの再来」
コロナ禍の混乱に乗じて、さらに勢力を強めようとする指導者と、もう飽き飽き、と民主主義を投げ出す人々とが手を結ぶ、その時こそ、独裁者が支配するファシズムへの第一歩だというのです。
著名な、イスラエルの歴史学者ハラリ氏は、こう語っています。
「民主主義が直面する最大の危機は、民主主義より、独裁の方が、効率がよくなってしまうことだ。(中略)人々が、複雑さを避け、楽をして生きようとするとき、ファシズムが生まれる」