2020年6月7日「風をよむ ~貧困のパンデミック~」
・新型コロナが浮き彫りにした格差問題 貧困層ほど危機に
・ペスト流行時には、格差が縮小する現象も…
・世界は思想の左右の対立から、持てる層と持たざる層の対立に
全米各地へと広がった抗議デモ。発端は、白人の警官が、黒人男性を死なせた事件でした。
こうしたデモの背景にあるのは、いまだに繰り返される黒人差別だけではありません。社会に広がる深刻な「格差」の問題があるのです。
デモ参加者「金持ちを倒せ!!」
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。アメリカでは、低所得者の多い黒人の死者は10万人に54.6人と、白人の2・4倍。感染拡大の影響はより深刻です。
また景気低迷や失業などから、今後アメリカ社会では、最大7万5千人が、自殺やドラッグの過剰摂取による、いわゆる「絶望死」するといった予測もあるのです。
こうした貧しい人々の危機的状況は、アメリカだけにとどまりません。
イギリスでも、貧困地域に住む人の死亡率が、裕福な地域より2倍以上高いといった報告がなされています。
また南米のブラジルやペルーでも、貧困層を中心に感染拡大が止まりません。
世界食糧計画は、中南米カリブ地域で、今年中におよそ1370万人の「社会的弱者」が、コロナの感染拡大で、深刻な食料不足に陥る可能性があると警鐘を鳴らしているのです。
ロヒンギャ難民「狭い部屋で5~8人が1つのベッドを共有していて密にならざるを得ない」
またバングラデシュでは、ミャンマーから逃れてきたイスラム教徒少数民族ロヒンギャが暮らす難民キャンプで今月2日、初めて感染者の死亡を確認。
衛生状態の悪い難民キャンプでは、今後一層の感染拡大が危惧されています。
さらに、ユニセフは先月28日付で、経済への悪影響で、年内に貧困な状況に置かれる子どもたちが最大8600万人増加する恐れがあるといった分析結果を発表したのです。
貧困層や、難民・子供たちといった社会的弱者を直撃する形となった今回の新型コロナウイルス。
その一方で、アメリカ・スタンフォード大学のウォルター・シャイデル教授は著書『暴力と不平等の人類史』の中で、歴史上、感染症・疫病は、「格差の縮小」につながったこともあったと指摘します。
例えば、14世紀半ばにヨーロッパを襲い、全人口の3分の1が犠牲になったペストは、その後、皮肉にも労働力を貴重なものに変え、個人の賃金は上昇。格差を縮める結果になったというのです。
ところが、今回の新型コロナウイルスの場合は…
五野井郁夫・高千穂大学教授
「当初、感染症というものは誰に対しても襲ってくるものだと、平等に襲いかかるものだと言われてきたけど、ふたを開けてみると、ホワイトカラーワーカーでテレワークができるような仕事の人たちはお金を稼いでいるけど、三密を避けることができない人たち、そういう仕事をせざるを得ない人たちが一番実は感染症にかかりやすい」
こうした感染拡大によって、さらに格差を広げたといいます。その結果・・・
貧困層や社会的弱者を直撃した新型コロナウイルス。4日、アメリカのシンクタンクが発表した報告書によれば、ロックダウンが始まった3月中旬から、新たな失業保険の申請者数は4300万近くに増加。
その一方で、FRBによる大規模な金融緩和策が株価を押し上げ、富裕層の資産を大幅に増加させます。
結果として、アメリカでは、10億ドル、日本円で1000億円を超える「ビリオネア」とよばれる富裕層の資産は、5650億ドルと、20%近く増加したというのです。
こうした「格差が広がった」状況は、これまでにない、「持てる層」と「持たざる層」の新たな対立をもたらしたと、五野井さんは言います。
五野井郁夫・高千穂大学教授
「冷戦期においては自由主義・民主主義の陣営と、共産主義の陣営、今でいえば、リベラル対保守といった対立軸があったわけですけど、今回のコロナ禍によって顕在化してきたのは『右か左か』ということではなく、持てる者と持たざる者、『上下の対立』はさらに激化していくだろうと考えられます」
世界を襲う危機を前に、ローマ教皇フランシスコは30日、ビデオメッセージを発表しました。
フランシスコ教皇(30日)
「世界で『貧困のパンデミック』を終わらせるよう行動しなければ、新型コロナで困難なこの時間が無駄になってしまう」
コロナがもたらした「貧困のパンデミック」。私たちはそれにどう立ち向かっていけばいいのでしょうか。