NEWSの深層 リアリティーにかける「入管難民法改正案」審議
TBS政治部記者 後藤俊広
「入管難民法改正案」が27日に衆院を通過しました。
外国人労働者の受け入れを拡大することを目的とするこの法改正により、日本の労働環境が大きく変わる可能性があります。
それほどの重要法案ですが委員会での審議は、わずか18時間にとどまりました。時間もさることながら、私が“消化不良”を感じたのは中身の議論です。
外国人労働者を受け入れることで経済的メリットはどれくらい拡大するか?文化の違う外国人労働者と日本の人々の摩擦や軋轢をどう防ぐか?外国人労働者の家族の受け入れ態勢は大丈夫か?
少し考えただけでも疑問がいくつも湧いてきます。しかし、国会での議論は具体的な疑問に多くは答えてはいません。なぜなのでしょう。
一つは審議の場が法務省が主役の法務委員会という点に理由があると思います。法務省の大きな役割の一つは出入国管理です。つまり、外国人労働者の入国管理の観点から、どのように新たな在留資格を設けるか、こうした審議を想定していたと言えます。
しかし、外国人労働者の受け入れ拡大については、彼らが“入国した後”の環境整備をどう進めていくかに関心が集まります。こうした分野は法務省が扱っていない領域です。
例えば、外国人労働者の社会保障制度については厚労省、彼らの家族の教育等は文部科学省、地域住民との共生は総務省、場合によっては警察庁なども関わってくるかもしれません。とても法務大臣や一握りの法務官僚等がこなせるモノではありません。
国会ではこんなやりとりが繰り返されました。
「日本語教育・社会のルール・社会保障制度など、文科省・総務省・厚労省が係わることを山下法務大臣が統括をされるということになるのか」(野党議員)
「なぜ法務省がとあるが、それは在留資格、そして人権擁護なんです。我々は人権擁護で外国人に対する、差別の問題をしっかりやっていくというのが外国人との共生のまずボトムラインと考える。そういう観点から考える。日本の教育についてはまた、文科省もあるが、これは外国人受け入れ共生の為の関係閣僚会議で調整してやっていきたい」(山下法相 11月21日法務委員会)
具体策については、関係閣僚会議の場でという答弁に終始する山下法相。“もちは餅屋”といわれます。これだけ社会全体に大きく関わりのある法案は、やはり餅屋がそろった大きな“器”の中で議論すべきと感じます。
国会では重要法案や大きな問題を扱う場合、「特別委員会」を設置して審議します。特定の省庁の扱う法案にとらわれず、「入管難民法改正案」のような多くの省庁が関わる案件の審議に適しているとされます。
特別委員会に法相なり厚労相、文科相なりが集まり様々な疑問にそれぞれの“餅屋”が答えていけば、もう少し実態が見える審議になったのではと思います。
28日から参院での審議が始まりました。参院は昔から“熟議の府”と呼ばれてきました。衆院とは違う議論の進め方をどう進めていくのか、じっくりウォッチしていきたいと思います。
後藤俊広(TBS政治部記者)
政治部官邸キャップ。小泉純一郎政権から政治取材に携わる。プロ野球中日ドラゴンズのファン。健康管理の目的から、月100キロを課すジョギングが日課。