SUPER GT タイヤの秘密
レースを見ていると「グレイニング」「マーブル」「デグラデーション」「フラットスポット」「ピックアップ」…
数多ののタイヤに関する単語を聞くと思います。
なんとなく頭で理解していても、実際のところドライバーは感じられるの?走行に影響はあるの?といったところを
F4とGT300に参戦経験がある某ドライバーのお話にお聞きした話をお伝えしたと思います。
セットアップとタイヤ
さて、冒頭に肩書のみ書いた某ドライバー(以下D氏)に週末のセットアップにおいてタイヤが占める割合はどの程度が聞いてみた。
D氏「90。95でもいいくらい」
「クルマのセットアップも、自分のドライビングに関してもタイヤありき。このタイヤならこういうセットっていう風に変えるから。まずタイヤなんだよね」
「言い過ぎかもしんないけどさ、タイヤのグリップ力をマックスに引き出して走らせたドライバーが一番速いよ。どれだけクルマのバランスが良くてもね。セットを外してもタイヤが良ければ戦える。でもセットが良くてもグリップをき出せなければタイムは絶対に出ないよ。」
グリップを感じるセンサー
D氏はしきりにグリップという言葉を繰り返した。ではレーサーはグリップをどのように感じ取っているのだろうか。
D氏「車に接しているところ全部(手・背中・腿・足裏)かな」
「でもこれはかなり個人差あると思うな。ステアリングからの返りを大切にする方もおられるし、腰が全てって言ってた人もいるよ」
今年のGTではレインコンディションの事も多いがその辺はどうだろうか。
「ドライに比べるとウエットのが滑りやすい(限界が低い)から、逆にグリップしている感覚はつかみやすいね。『あとちょっとで滑り出すな』って感じがよくわかる。」
「500のドライバーに『雨得意ですか?』って聞いたらほとんど『得意です。』って言うと思う。あのレベルになるとセンサーが凄いから、雨だとダウンフォースが減るでしょ?そうするとグリップに関してはタイヤとサスに集中できる。」
「逆に言うと晴れるとタイヤの限界ももっと攻めないと使いきれないし、ダウンフォースも絡んでくる。だからこそ迷う事も増えると思うな。」
私「じゃあ、今度はドライコンデションでの走りについて教えてください。」
D氏「ドライのいい走りの時ってがっちりグリップしているというより前も後ろもうっすらと滑らせる感じなんだよ。そうすると早く車の向きが変わるでしょ。これが限界ギリギリのリミット。滑りすぎると力が伝わらないしタイヤはもたないし…このバランスをちょっとでも超えると回る。」
私「じゃあ例えばルーキーなんかで車を壊さずに走るけど1秒遅い選手よりは、回るけどベストラップは速い人だと後者の方が伸びるという事ですね?」
D氏「チームが待ってくれるならね
私「…」
タイヤの熱入れ
私「タイヤといえばアウトラップの勝負もレースの見どころですよね。レースタイヤはどうやって熱を入れるんですか?」
D氏「温めるところは大まかに分けて2種類。ゴム(路面に触れる部分)と空気(タイヤとホイールの間の空気)。」
「単純に走るだけでも市販車よりダウンフォースがあるから、タイヤが押し付けられる。そうすると摩擦で発熱するでしょ?その熱が伝わってじんわり内圧(空気)が温まる。」「でブレーキング。カーボンブレーキの熱も伝わるし主にフロントタイヤに効く、ウィービングは蛇行運転のことで主にリアタイヤに熱が入るんだけど最初のじんわり温める工程をしっかりやらないとグレイニングが起こる。」
私「タイヤ表面のささくれですね。これが発生するとタイヤはもう機能しないと。」
D氏「そう。タイヤの状態に対して過度に熱が入った時に出ちゃう。まだキンキンに冷えてるのに激しいウィービングをしたり、前のマシンに張り付きすぎてダウンフォースが抜けて、クルマが滑って表面がオーバーヒートしたり、フレッシュエアが当たらなかったりするとね。」
私「グレイニングができるとグリップしなくなる感じですか?」
D氏「うーん(長考)まぁそれでもいいや。」
私「え?笑」
D氏「グリップは確かに減るんだけど、滑っちゃうというよりも、本来の実力を発揮できてない感じ。鼻づまりのままでカラオケしてる感じだよ。」
私「…。」
コンパウンド
私「次はタイヤコンパウンドについて教えてください。
D氏「ソフトタイヤは熱が入りやすくてハードタイヤは熱が入らないという認識で良いと思う。早く温まるから早くタイムが出て、ライフも短い。逆もまた然り。短距離走と長距離走だね。多少は違うけど、手で押してもソフトかハードか完璧に分かるほどの差はないよ。」
私「という事は熱が入らないハードタイヤの方が丁寧なウォームアップをしないとグレイニングが起きやすいですよね?」
D氏「そうだね。それを予防する方法がある。スクラブ(皮むき)だよ。」
私「新品タイヤを1周だけ走らせて外しておくことですね。」
D氏「なぜスクラブするのかというと、カテゴリーやメーカーにもよるけど、タイヤを型から外すために型とタイヤの間に化学薬品や油を塗ってあるんだけど、それを路面で削って剥がすというのが一つ。もう一つが、タイヤの表面に1度熱を入れた後、レース用に保管するでしょ、一旦自然に冷えるよね。タイヤに1度熱を入れてから冷ますと、次に使用するときに熱が入りにくいっていう特性があってそれでグレイニングを防止できるってわけ。」
メーカーによる特徴
私「GT300では○○社の経験がおありですが、いかがでしょう?」
D氏「今の各メーカーの戦力差を鑑みると○○社ではチャンピオンは無理…無理は言い過ぎか、難しいと思う。例えば、ワークスとかとんでもない新機構を搭載したマシンは別としてだけど。」
私「ワークスというと、かつてのチーム無限や現在のKONDOレーシング、新機構…かつてのホンダCR-Zとかでしょうか?」
D氏「端的に言ったらそう。規定がどうなるか分からないけど、CNFへ適合できたエンジンを持っているところや、PEHVベースの軽量大出力バッテリーを持ってたら天下獲っちゃうかもしれないね。その点FIA-GT3はブレイクスルーは起こらないだろうから、どんなに速くてもBoPで絞られて難しいだろうね。」
私「○○社のタイヤはどの点で苦労なさいましたか?」
D氏「走り出しの内圧コントロールがシビアだよ。発動するまでは本当に大変。熱入れがどうしても弱いところがあって、発動までは縁石も使えない。」
私「××社はいかがでしょうか?」
D氏「××社もポテンシャルは間違いなくあるよ。PPの数はトップクラスだしね。でもさっき言った○○社含めて、とにかくレンジだよね。バットに当たって飛ぶ距離はどのメーカーもそこまで変わらないけど、当たる確率がっていうね。」
以上が平日休みにサーキットに行った際に久しぶりの再会となった某GTドライバーが答えてくれた内容となる。
全編において、特定を避けるためと各社、各人の名誉の為私のところで一部を改変している点にご注意いただきたい。