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農業は儲からないのは昔の話!?実は10年で生産性が1.5倍、さらに所得は倍増していた!

農業は「もうからない」「後継者がいない」「コスト高で利益が出ない」と長年言われています。私が農家と話す中でも、売上減少や人手不足への悲観的な声が多く聞かれます。しかし、実際の出荷額や付加価値額はどうなのでしょうか?地方の一次産業に関するデータを調べたところ、現場の声とは異なる一面が見えてきました。


農業所得は横ばいだが農業経営体は減少の一途

以下のグラフは日本全体の農業所得(生産農業所得)の推移を示しています。農業所得は、農産物販売などの収入から必要経費を差し引いたもので、ざっくりと企業の営業利益に相当します。2009年まで下降していましたが、その後は上昇傾向となり、最近は再び減少気味です。約20年のスパンで見ると、農業所得はおおむね3兆円前後で推移しています。

出所:農林水産省「生産農業所得統計」より

以下のグラフは農業経営体数と1経営体あたりの農業所得の推移を示しています。農業経営体数は減少の一途をたどり、2022年にはついに100万を下回りました。20年前の200万超から半分以下に減少した計算です。一方、1経営体あたりの農業所得は、2010年ごろまで横ばいでしたが、その後急増し、約10年で2倍近くに増加しています。日本全体の農業所得合計は3兆円前後で横ばいですが、農業従事者の減少により1経営体あたりの所得が大幅に上がったことがわかります。「農家は厳しい」といわれがちな中、1経営体あたりの平均所得がここ10年で2倍に増えている点は意外と感じる人も多いのではないでしょうか。

出所:農林水産省「生産農業所得統計」より


畜産が大きく躍進か

地域ごとの傾向を見ると、筆者の住む九州では「畜産王国」と呼ばれる南九州(宮崎県・鹿児島県)の躍進が目立ちます。2010~2020年に農業出荷額が全国平均で8%増加する中、宮崎県は13%、鹿児島県は19%増と大幅に成長。両県で日本の農業出荷額の1割弱を占めています。一方、熊本県は減少しており、熊本地震の影響が考えられます。

農林水産省「都道府県別農業産出額及び生産農業所得」より



農業の付加価値労働生産性が飛躍的に向上した10年

日本の農業出荷額はこの10年で8.5%増加した一方、農作業日数は大幅に減少しました。2010年の63万日から2020年には41万日へと、約35%も減少しており、九州各県も同様の傾向です。農作業日が減れば農業所得も減少すると思われがちですが、実際には逆の現象が起きています。全国の農業所得は17%以上増加し、農作業日あたりの所得は日本全体で約1.78倍、九州では福岡県と沖縄県を除き10年でほぼ2倍となっています。

農林水産省「都道府県別農業産出額及び生産農業所得」より

この背景には、付加価値労働生産性の向上が大きく寄与しています。付加価値労働生産性とは労働時間あたりにどれだけ付加価値(売上から苗や肥料、燃料などの費用を引いたもの)を生み出しているかを示す指標です。簡単に言えば、労働の効率性を測るものです。特に畜産業では、家畜の繁殖タイミングを予測するITツールや、健康管理を支援する技術が普及。これにより、労働負荷が軽減され、病死率も低下。効率化が進んだ結果、少人数で多くの家畜を管理しながら売上を増やすことが可能になりました。従来は現場の勘や経験に依存していた部分をITが補完し、業務の無駄を削減したことが大きいです。

また、農業が不利とされる沖縄県でも農作業日数あたりの出荷額が向上しています。農業は他産業と比べて所得が低いと言われますが、10年で所得が1.5倍に増加している現状は、もっと注目されるべき成果といえるでしょう。
農業の付加価値労働生産性は着実に向上していることが分かります。


農林水産省「都道府県別農業産出額及び生産農業所得」より

農業は加速度的に進む人手不足社会に適用できる可能性

近年、円安の影響で資材や飼料、燃料代が高騰し、農家の経営は厳しさを増しています。しかし、1農家あたりの平均所得は過去10年間で上昇し続けています。その背景には、ITツールの普及や経営体の大規模化などが挙げられます。

一方で、人手不足はさらに深刻化すると予想されます。若者の新規就農が大幅に増加する見込みは薄く、外国人技能実習生や特定技能生に依存する状況が続いています。しかし、円安が続く日本を選び続けるかは不透明で、オーストラリアなど他国への出稼ぎを選ぶ日本人の増加も課題です。

こうした状況下で、人手がいなくても回る事業モデルへの移行が急務となっています。特に、ITや自動化技術を活用した効率化が鍵となるでしょう。実際、農業従事者や農作業日が減少する中でも、農作業日あたりの所得は10年で約1.78倍に増加しました。これは農業の付加価値労働生産性が向上してきたことを示しています。

今後、農業は「もうかる仕事」として注目される時代が訪れるかもしれません。

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