テレワークゆり物語 (37)私のものづくりものがたり
世界最小、世界最薄のノートPCの商品企画
こんなに、やりがいのある仕事があるだろうか。
1988年、念願のシャープ 情報システム事業本部 コンピュータ事業部 第一商品企画部に配属された私は、とにかくがむしゃらに働いていた。当時話題のリゲインのCM「24時間働けますか?」に何の疑問もいだかなかった。ww
「ものづくり」の醍醐味を実感していたのもこの頃だ。
テクノロジーの進化に伴い、これまで実現できなかった製品作りが可能になる。しかし、技術だけでは売れる商品にならない。ターゲットを明確にして、そのニーズにあったものを企画する。パソコンの場合、CPU、メモリ等のハード、そして、OS、アプリ等のソフトを、技術部門とせめぎあいながら、製品仕様を固めていく。さらに、デザイン部門とのやりとり、営業とのやりとり、生産部門とのやり取り、取説部門とのやり取り。そして製品のネーミング、価格設定、デビュー戦略まで、企画部の仕事だ。
担当した商品は、AX-286N 通称「All in Note」。当時、世界で一番小さく、世界で一番薄いノートパソコン。ビジネスマンをターゲットにした戦略的商品だ。価格設定には、コンビュータ事業部長自ら、当時の辻社長に直談判に行ったほどだ。
「会社の歯車」という言葉がある。世間では悪いイメージで使われることが多いが、その時私は思った。
歯車がひとつ外れたら、その時計は動かなくなる。みんなが協力しあって、ひとりではできないすごい「製品」が出来上がる。会社って、なんてすばらしいのだろう。
この経験が、シャープを退職した後も、私の仕事への考え方の基本となっていた。ひとりひとりが自分の得意な仕事を担当し、チームで働くことで、よりよい結果や製品を産み出すことができる。
2000年前後、パソコンで自宅で働く「在宅ワーク」や「SOHO」が流行った時代においても、ひとり「チームで働く」ことにこだわり、「ネットオフィス」という言葉を勝手に作った。
そして、今のテレワーク推進においても、「チームで働く」ためのコミュニケーションやマネジメントにこだわっている。
・・・なんて、えらそうな事を書いてしまったが、AX-286Nは、海外では大ヒットしたが、私が担当した日本版の「All in Note」は、残念ながら結果を出せなかった。
「All in Note」発売直前の1998年6月。東芝が、同じターゲットのA4ノートパソコン「DynaBook J-3100SS 」を、20万以下の戦略価格で大々的に発売。その時の衝撃は、今もはっきりと覚えている。私たちが、みんなでがんばった製品は、まったく勝負にならなかった・・・。
「ものづくり」のなんと難しいことか。
その後・・・
2010年、シャープがパソコン事業から撤退。
2018年、東芝が、パソコン事業をシャープへ譲渡。
2019年、シャープと東芝の合弁会社「Dynabook株式会社」設立。
「シャープのパソコンを日本一にしたい」
新入女子社員のものづくりのものがたりは、30年以上の時を経て、想像もしなかった形に落ち着きました、とさ。
※写真は、担当していた世界最小、世界最薄のノートパソコン『All in note』のカタログから。
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