テレワークゆり物語 (5)押しかけアルバイト
大学3年の頃、パーソナルコンピュータと運命的な出会いをした文系女子大生の私は、人気の原宿や吉祥寺には見向きもせず、秋葉原に通い始めた。当時のアキバは、理系男子オタクの巣窟。今と異なり、女子の生息率は0に近く、パソコンの周辺機器やゲームソフトを求めてお店に入ると、必ずといって良いほど二度見をされた。(美人じゃないけど)
しかし貧乏学生の私は、ソフトを買うお金がない。「どうすれば効率良く、ゲームソフトを入手できるか」。悩んでいた時、本屋で立ち読みしていたゲーム雑誌に発売前のソフトのレビューが載っていた。
このゲーム雑誌を作っている会社でアルバイトをすれば、お金ももらえて、発売前のゲームができる!!
そう思ったら、行動あるのみ。裏表紙に記載されていた住所に、本屋から直行する。そこは、踏み入れたことのないオシャレなエリア、南青山は骨董通り。レンガでできた大きなビルに驚きつつ(写真)、その出版社の受付のお姉さんにこう言った。
「あの~、アルバイトをしたいのですが」
お姉さんは、ノンアポ攻撃に驚きつつも、誰かに電話してくれた。
「担当者が参りますので、少々お待ちください」
今、振り返っても、この時の自分の行動力に驚く。
奥から出てきてくれた男性は「じんじ」と名乗り、話を聞いてくれた。そして、その場でこういった。
「では、明日から来てください」
今、振り返っても、この時の人事担当者の勇気に驚く。
かくして、「おしかけ女房」ならぬ「おしかけアルバイト」となった私は、翌日、ウキウキワクワク、再度、南青山のビルに向かった。そして約束通り、昨日の人事担当者が、迎えてくれた。
「アルバイトをしていただく部署にご案内しますね」
後について進むと、「ログイン編集部」という看板が見えた。やった!! お目当てのゲーム雑誌の編集部だ!! ドキドキ・・・通り過ぎた。
次に「アスキー編集部」という看板が見えた。知っているぞ。難しそうなパソコン雑誌の名前だ。まあ、ここでもいいか、と自分を納得させていると・・・通り過ぎた。
えっ。他の雑誌?? そんな私の不安を知ってか知らずか、担当者はどんどん奥へ進み、暗い廊下の小さな部屋にたどりついた。
「こちらです。」
見上げると、部屋の看板には「マイクロソフトFE本部」と書かれている。
マイクロソフト?? そんなゲーム聞いたこと無いよ~。
謎と不安でいっぱいの私は、そこが「人生の分かれ道」の舞台になるとは、知る由もなかった。