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超私的書評『ニューノマド 新時代の生き方』(フェリクス・マークォート  早川書房)

『ニューノマド 新時代の生き方』の冒頭部分、著者であるフェリクス・マークォートの、移民ではあるが(フランス)特権独特の言い回しが鼻につく。偉大なる知性を持つ、元アルコール&薬物依存症の男。多弁で何事にも過度にやりすぎる。恐らく発達障害。
彼の自分語りが終わると、面白くてページをめくる手が止まらなくなった。
マークォートは、「ノマド」という語源はギリシア語の「牧草地」であり、この言葉を使うとき、「移動」にこだわり過ぎると書く。ノマドとは歩き回り、調和して生きる牧草地のことなのだと。
世界中どこにでもあるチェーン店に座り、マッキントッシュのパソコンを広げて悦に入っている人間は、本来の「ノマド」ではない。土地に根付いていない文化は「文化」とは言えない。ノンストップで移動し続ける生活は、「考え方が皮相的になりパラサイト的」になると書く。同感だ。
コミュニティがないから人生が惨めになる。カトマンズのカフェにいたとしても世界中の「ノマド」と交流しても、何も地域のことを理解できない。
この本では、ニューノマドを、移動、移住しながら「生活をスローダウンさせ、その土地に根をおろして地元の環境やコミュニティ活動に関心を持つ」と定義する。世界中を動きまわることを「第一段階」、歩みを緩めて「第二段階」に入るとも。
この本には、移住、難民、様々な理由で移動する魅力的なニューノマドが登場する(日本人女性が一人出て来る)。

<移住は人を起業家タイプに変える>
<教育の本質は時間と場所のどこに立っているのか学ぶこと。それには旅と移住に勝るものはない>
<一般的に移住者はより健康で幸せである>

 若者たちを惹きつけるのは、「教育」「雇用機会」「個人の成長」であり、そのランキングで、日本は、フランス、イタリア、スペインと下位に沈む。男尊女卑、強烈な年功序列、長老支配の日本の地方はさらにその下だろう。後半では、「意識の高い特権階級」=リベラルと、本当のニューノマドの差にも触れている。この差も面白い。冒頭部の著者の自分語りの答えにもなっている。

自分を振り返ってみても、人生の転機は29才のとき、休暇制度を使って南米大陸を一年間彷徨ったことだった。出版社という狭い世界で、生きることが馬鹿らしくなった。これは自分の人生ではないと思ったのだ。
退社直後の30代は、とにかく世界を知りたかった。一年に最低でも地球を二周は回った(出版業界に余力があったことが幸いだった)。腰をすえて原稿と向き合ったのは40代からだ。50代に入り、東京を中心とした多拠点生活に入っている。
書き手の他、会社経営、さらに新しいビジネスを始めようとしている。いわゆる組織の人とはどんどん全く話が合わなくなっている(メディア関係など、一見、クリエイティブに見せていても、中身は保守的でつまらなかったりする)。ただ、世界中に友人がいる。自分もニューノマドの道を歩いていたのかもしれない。
是非、20代、30代前半の人に読んで欲しい。刺激を受ける人、突き刺さる言葉があるはず。

#ニューノマド #早川書房 #thenewnomads #felixmarquardt

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