書評「人口は未来を語る」(ポール・モーランド著 橘明美訳 NHK出版)「世界は経営でできている」(岩尾俊兵 講談社現代新書)「慶應高校野球部」(加藤弘士 新潮新書)
最近読んだ本の一部
「人口は未来を語る」(ポール・モーランド著 橘明美訳 NHK出版)、かなり面白い。著者はイギリスの人口学者、人口の増減から世の中の流れを読み解いて行く。
要点を書き出してみる。
・乳児死亡率が高くなる=子どもを失う不安が減る→出生率が下がる
それでも、アメリカや欧州の国々が人口を保っているのは、「移民」がいるから
ただし、移民の出生率はやがて「受け入れ国」の出生率に近づいて行く。
・一般的に教育水準の高い女性よりも低い女性の方が子どもを産む。
・ヨーロッパの低出生率の国々=イタリアなどに共通しているのは、女性の教育機会は拡大していること、伝統的な価値観がそのまま残っていること。この二つの組み合わせは出生率にとって致命的である。
・世界は、乳児死亡率がより低く、平均寿命がより長く、年齢中央値がより高く、家族構成がより小さくなる方向に向かっている。
まさに日本の今である。
日本は移民を受け入れないため、どんどん縮小していく。これは必然であると著者は書く。
女性の教育機会の拡大と「伝統的な価値観」=男尊女卑という組み合わせは、日本の地方そのものだとぼくは思った。
また興味深かったのは、危険をいとわない「若者」がいないと、体制を変えるような行動が起きないこと。その一つの例が、スペインのカタルーニャの分離独立が認められなかったにも関わらず、1940年代のように内戦に陥らなかったことだと。暴動、内乱などの暴力的な行為が起こる社会は、若い世代の比率が高いと著者は指摘する。
すでに中国も高齢化社会に入っている。そのため2019年の香港の逃亡犯条例改正案に対するデモは、1980年代の天安門事件にように過激化しなかった。
〈中高年は老いた親、子どもたちのこと、住宅ローン、自分の老後など心配事が多すぎる〉のだ。日本の学生運動が激しかった時期も、社会構成としては、若年層が多かったはずだ。今の若い子はデモに行くこともないと、団塊の世代の方々が嘆く理由はあるのだ。
とはいえ、この本はデータ、統計をかなり持論に引き寄せている感もある。その点を割り引いたとしても、一読の価値がある。
「世界は経営でできている」(岩尾俊兵 講談社現代新書)も一気に読んだ。
著者が「令和冷笑体」と称する文章は、自虐ギャグ、キレがあって心地良い。
この本では「経営」を〈「価値創造(=他者と自分を同時に幸せにすること)という究極の目的に向かい、中間目標と手段の本質・意義・有効性を問い直し、究極の目的の実現を妨げる対立を解消して、豊かな共同体を創り上げること〉と定義する。
この部分はすこし、くどい。
ぼくは「経営」とは、「手段」と混同せずに、いかに「目的」を達成するか、と理解した。
この本では「経営」という切り口で、「恋愛」「就活」「勉強」などを分析していく。
中でも第8章の「仕事は経営でできている」の中で、なぜ無能な上司が多いのかという説明は、笑いながら納得した。この章だけでも多くの人に読んで欲しい。
12章の「老後は経営でできている」で取りあげている「後継者を育てられない、育てない老人たち」は何人もの顔が頭に浮かんだ。
友人でもある加藤弘士さんの新著「慶應高校野球部」(新潮新書)。監督、コーチ、キャプテン、みんな大人で立派だ。徳を積むためにゴミ拾いをするというキャプテン、高校生なのに凄すぎないか。そして野球部の濃厚な人間関係にも少し引いた。
ぼくは小学四年からサッカーをしていて、ずっと試合には出ていたが、キャプテンを任されたことがない。みんなも知っての通り、我が儘で自分勝手だからだ。さらに高校一年でサッカーをやめて、学校をさぼってバンド活動をしていた。大学も一浪して入ったのに留年。どうしょうもなかった、ぼくにとって、野球や勉強を頑張り、仲間を気遣う彼らは眩しすぎた。