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超私的書評『東京漫才全史』(神保喜利彦 筑摩選書)『スラッジ 不合理をもたらすぬかるみ』(キャス・R・サンスティーン 早川書房)

『東京漫才全史』(神保喜利彦 筑摩選書)
この本にも書かれているが、昔の「芸能」は、参考になる資料が少ない。『全身芸人』を書く際、本当に苦労したものだ。
この『東京漫才全史』があれば、ぼくの取材はだいぶ楽になったはず。同時に、あのときもう少し突っ込んで聞いておけば、と悔しくも思った。

全身芸人で取りあげた一人、故・松鶴家千とせさんは、松鶴家千代若・千代菊さんの家に居候していた。二人の娘さんである絹江さんにぼくは話を聞いている。彼女は「東和子・西〆子」の西〆子の妹である。気っぷのいい江戸っ子の姐さんという風情の女性だった。
『東京漫才全史』では千代若・千代菊さん、西〆子さんに加えて、絹江さんの妹の妙子さんのことも出て来る。妙子さんは、二代目千代菊を襲名し、千代若さんの相方となったという。ただし、〆子さん、妙子さん共に早くに亡くなっている。彼女の家族のことをもっと深く聞くべきだったのだ。

千とせさんの相方だった、ようかんちゃんの師匠である宮田洋容さんの詳しい話もこの本で初めて知った。また新山トリローさんの兄が、ガルシア・マルケスなど翻訳で知られる鼓直さんだったとは!
後半には、もちろん「浅草キッド」も出て来る。アル北郷さん、三又又三さんの名前も‼
参考文献に『全身芸人』も入っている、この本は演芸好きは必読。

『スラッジ 不合理をもたらすぬかるみ』(キャス・R・サンスティーン 早川書房)
著者のサスティーンは、ハーバード大学ロースクール教授、オバマ、バイデン政権にも深く関わった法学者だ。
スラッジとは〈人々が何かを手に入れようとするときにそれを邪魔立てする、摩擦のようなもの〉〈魔のぬかるみ〉と定義する。代表的なものとして、わかりにくい行政手続など無駄な「書類作成」により、本来、お金、サービスを受け取るべき人が受け取れない、あるいはサブスクリプション契約を解除するために、途方もなく時間と労力が掛かるようにしている、などなどがある。
スラッジと混同しやすいのが「ナッジ」=人々を特定の方向に誘導する、だ。スラッジもナッジも良性が悪性があると著者は書く。
この本では、スラッジ、ナッジなどのキーワードを中心に行動経済学が展開する。
〈多くの人にとって惰性は強力な作用を及ぼす〉=我々は今の状況を続けようという傾向がある
〈スラッジの被害者はたいてい社会で最も貧しい人々である〉
新型コロナウイルスという緊急事態によって、局所的に「スラッジ」は減ったという。
ぼくも国立大学、大学病院と仕事をしていると、「スラッジ」の轍に落ちる。無駄な書類仕事がとにかく多い。マネーフォワード、インターネットバンキング、あるいはリモートミーティングなど新型コロナをきっかけにかなり業務を整理した。しかし、まだまだ、である。行動経済学をもう少し学びたい。



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