#番外編 引き際の美学「大関 豪栄道豪太郎」
私を大相撲ファンにさせた豪栄道豪太郎が、引退を決めた。
2014年、大関昇進を決めた場所での取り組みをたまたま見ていた私は一気に彼のファンになった。私は大相撲ファンというよりも豪栄道ファンという方が正しいかもしれない。そのくらい好きな力士だ。
そんな彼が引退してしまった。悲しい。
ただ、引退するならこのタイミングしかない。このタイミングが一番正しい。というタイミングで引退したので「さすが豪栄道。これぞ大和魂である。」と思ったものだ。
どこかの元横綱とは大違いである。見てるか稀勢の里。引き際っていうのはこういうものをいうんだぞ。
今回は、彼を表すに必要十分な発言を3つ、紹介したい。
大和魂を貫いてまいります
(大関昇進伝達式口上にて)
「大和魂」という言葉通り潔い引退劇だった。こういうところがほんと好きだ。
土俵に立つということは、最高の状態にあると思ってやっている。言い訳は何一つない。
(引退会見にて――昨年九州場所でけがをした左足首の状態は。と聞かれ)
痛いし悪いに決まっている。決まっているのに、「痛い・痛くない」「悪い・悪くない」という表現を使わずに「最高の状態にあると思ってやっている」という発言。これぞ大和魂である。
「我慢したことを思い浮かびました」
「つらい日々もあった。今日で少し報われた」
(2016年秋場所優勝決定時のインタビュー)
彼が現役で唯一の涙を見せたときの発言だが、大関になって苦しんだ先にカド番から全勝優勝という史上初の快挙を成し遂げるのである。信じる者は報われる。やはり大和魂である。
ここで豪栄道豪太郎最高の1番を紹介したい。
2016年秋場所、13日目の日馬富士戦
動画3分50秒くらいから15秒以上にわたる仕切りのにらみ合い。当時豪栄道は「外したらやられると思った」というほどの緊張感。
ここまで12日間、押しの豪栄道が出ており日馬富士も相当警戒していたと思う。豪栄道には、ピンチになると引き、捨て身の首投げを繰り出すという悪癖があり、ここ一番で露呈してしまうのだが、この13日目、その悪癖首投げで日馬富士に勝利するのである。こんなに美しい首投げは見たことがない。12日間悪癖を出さず仕込みがよく効いた引き相撲、ここ一番完璧な首投げで優勝をたぐり寄せた。
この首投げのすごいところは、悪癖である首投げをこの人生で一番大事とも言える一番で繰り出して、しかも決める極限の勝負勘である。まさに引き際の魔術師である。
本人は優勝を決めた14日目の玉鷲戦が一番心に残っているとインタビューでは言っていたが、個人的には間違いなくこの日馬富士戦がNo.1だ。
そして、これは最高の一番ではなく最後の一番であるが、とにかく泣ける。
引退を表明しておらず、解説陣も現役続行を誰も疑っていない状況での中継だが、豪栄道と境川親方の表情を見ているだけで泣ける。
覚悟を決めた表情の豪栄道に対し取組前の不安そうな表情。
そして取組後に弟子をねぎらう優しい表情。泣ける。
この師弟愛、大和魂である。
ちなみに余談だが、野球賭博で謹慎したり運転手に腕時計を盗難されたり全然モテなかったり私生活も話題を欠かさない力士であった。野球賭博は全然大和魂じゃない。
豪栄道、お疲れ様でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?