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宿を通じて大磯の魅力を伝えたい。オーナー・ちかが語る、宿たゆたうができるまで

みなさん、こんにちは。
大磯暮らしを愉しむ小さなお宿「たゆたう」です。

この土地の自然や人に触れて「自分にとっての心地よい暮らし」について思いを馳せる“時間”と“場所”をお届けします。

宿たゆたうは「大好きな大磯の魅力を伝えたい」という想いから生まれました。今回は宿たゆたうができあがるまでのお話を、オーナー・ちかへのインタビュー形式でお送りします。

👇ちかのプロフィールはこちら


地域との繋がりを求めて移住。ちかが感じる大磯の魅力

——まずはちかさんが住む町であり、宿たゆたうがある町・大磯について。移住したきっかけを教えてください!

よく「もともと大磯に縁があったの?」と聞かれるんですが、全然なくて。2021年ごろ、夫婦ともに会社から独立し、仕事も暮らしも自由になりました。住む場所にも制限がなくなり、これから二人で住みたい場所を考えていて。そのときに頭に浮かんだのが、湘南エリアだったんです。茅ヶ崎で結婚式を挙げたことが思い出深く、このエリアにずっと憧れを持っていました。

大磯にはじめて興味を持ったのは、真鶴にある泊まれる出版社「真鶴出版」を訪れたとき。湘南エリアへの移住を考えていることをオーナーに話していたら、「二人は大磯が似合う」と言ってもらえたんです。

いざ大磯に来てみたら、駅前の小さな八百屋さんや、駅から坂道を降りればすぐにある海など、風景の一つひとつに一目惚れしてしまって。「この町が好きだ」と直感しました。

また、夫婦二人に「地域との繋がりを感じながら暮らしたい」という共通項があり、大磯でなら叶えられそうだと思って移住を決めました。

——地域との繋がりを感じたかったのは、なぜですか?

会社員時代に住んでいた地域では、あまり人間関係が広がらなくて。休日に会うのも会社の人がほとんどだったので、狭い世界で生きている感覚があってもどかしかったんです。

でも旅行に出かけると、行き先の地域の人と交流ができました。それがすごく嬉しくて!その土地に住む人だからこそ知る魅力に触れられたり、地元の人が繋いでくれないとなかなか行かないようなお店を教えてもらえたりして、地域と繋がる楽しさを知りました。

当時はホテル業界でアクティビティ企画や広報として働いていたので、仕事で施設の周辺地域との交流はありましたが、それはあくまで「ホテルの人」として。もっと「わたし」個人の暮らしの中で、地域と繋がりたいと思うようになったんです。

——そんな経緯があったんですね。では大磯に暮らして4年目のちかさんが感じる、大磯の魅力はどんなところですか?

海も山もあり自然がほどよく暮らしに溶け込んでいるところですね。
あとは、この環境での暮らしを楽しんでいる人が多いところです。

たとえば、お庭の剪定枝や落ち葉で作品をつくる「ニワノモノ」の陽子さん。環境に負荷をかけずに暮らすことを大切にされている方です。

「ニワノモノ」のスワッグやリースは、宿たゆたうにも飾っています。

彼女が主催する月に一度の「ししまいマルシェ」は、エコバッグやタッパーを持参して購入したものを持ち帰る、ゴミや無駄のないゼロウェイストマルシェ。マルシェ自体も魅力的ですし、「頻繁にマルシェがあるなんてきっと素敵な町に違いない!」と移住前から思っていました。

大磯に移住して陽子さんと仲良くなってから、「一緒に山に行こうよ」「この時期にあそこで蛍が見れるらしいよ」みたいなワクワクする会話もよくあって。彼女以外の方にも「大磯暮らしの楽しみ方」のお手本をたくさん見せてもらっています。

本質は宿づくりの先に。宿たゆたうを始めた理由

——宿たゆたうを始めたきっかけを教えてください。

2023年に入ったころ、夫とこれからやっていきたいことを話していました。料理人である夫は「地域の食材を生かした料理を楽しんでもらえる場所を作りたい」、わたしは「地域の魅力を知ってもらう機会を作りたい」という夢があって。二人の夢をかけ合わせて、「いつかオーベルジュ(宿泊型のレストラン)ができたらいいね」という話をしていました。

宿づくりが動き出すきっかけとなったのは、2023年春。大磯に暮らすきっかけとなった真鶴出版を再度訪れたんです。そのときにオーナーの方に「いつかオーベルジュをやってみたくて…」と話したら、「Airbnbなら気軽に宿を始められるよ」とアドバイスをいただいて。

オーベルジュを開くのはもう少し未来だとしても、「宿を作る」というアクションは今からでもできそうだと思ったんです。

——以前はホテル業界にいたと思うのですが、宿という形からスタートしたのはその過去も影響していますか?

それほど直結していないんです。むしろ宿泊業が大変であることはわかっていたので、当時はどちらかといえば前向きではなくて(笑)。でも、「地域の魅力を知ってもらう機会を作りたい」という想いは、ホテル業界にいたときと重なりますね。

自分が発掘してきた地域の魅力をアクティビティや宿泊プランにして、お客さまに届けることにすごくやりがいを感じていました。「こんな素敵な魅力があったんだ!たくさんの人に届けたい!」と思う瞬間がたくさんあって。振り返ってみると、わたしがやりたいことの本質はずっと同じなんですよね。

——宿そのものではなく、「地域の魅力を伝えるための方法」として宿をやりたかったんですね。

そうですね。WebメディアやSNSなど他にもいろんな方法がありますが、場所が持つ力ってすごいと思うんです。外から大磯に来てもらう目的になるし、大磯の人たちにもわたしがやっていることを知ってもらいやすくなるかなって。

あとは、わたしと同じく地域の魅力を届けたい人と繋がるきっかけにもなると思いました。会話の中で「宿をやっているので、ぜひ大磯に遊びに来てください」って言えたら、ご縁をより深められそうだなと。宿をつくることにさまざまな可能性を感じられたんです。

動き出すきっかけは運命的な出会いから。宿たゆたうができるまでの5ヶ月間

——まずは、宿たゆたうができるまでの流れをざっくりと教えてください!

ざっくりとこんな感じです!

2023年
・4月下旬 真鶴出版で宿づくりのヒントをもらう
・5月上旬 現・宿たゆたうのお部屋に出会う
・6月下旬 宿の名前が決まる
・7月 宿づくりを本格スタート
・8月上旬 プレオープン
・10月中旬 大磯のイベント「大磯うつわの日」にてお披露目
・11月上旬 本オープン

実は自分から行動したというより、何かに突き動かされるようにスタートしたんです!

——気になります!どのようなスタートだったんですか?

現在宿たゆたうが入っているアパート「the studio oiso」にたまたま夫が伺った際、ちょうどアパートのオーナーである朝子さんに会って。なんと朝子さんが「誰かアパートの一室で民泊をやってくれないかな」と言っていたそうなんです。

そのときわたしは自宅にいたんですが、夫から連絡をもらってびっくり。急いでアパートに向かいました(笑)。のちに宿たゆたうとなるお部屋を見せてもらうと、まだ何もなくてがらんとしていましたが、光が差し込む綺麗な角部屋でした。

改装する前のお部屋

まだ本格的に宿を始める覚悟は決まっていなかったし、当時はフリーランスから会社員に戻って忙しく働いていた時期でした。でも、タイミング的にご縁としか思えず、「やらせてください!」と朝子さんにお伝えしました。

——お部屋が引き寄せられてきたんですね。それからどんなことをしたんですか?

朝子さんと数名で“西野リゾート会議”という場を設け、ここをどんな場所にするかを考えたり、同じく大磯で民泊をやっている方もいたのでお話を聞いたりしました。「暮らしを体験できる場所」というアイデアは、そのころから挙がっていましたね。

でも、その時期は本当に多忙だったので、他にしていたことといえばお部屋のレイアウトを描いていたくらい。仕事の息抜きで描いたイメージですが、実際のお部屋とかなり近いですね。

ノートに書いていたお部屋のレイアウト

——この時点で5月ですが、プレオープンしたのは8月上旬。結構タイトなスケジュールでしたね。

タイトでしたね。6月には会社を辞めることが決まっていたので、退職前のバタバタでしばらくはあまり動けなくて。宿の大まかな方向性は決まっていたけど、自分が宿を始めるイメージもついていませんでした。

でも、そんななか「とりあえず何買う?」「テーブルは要るよね?」という話があって、みんなでアンティークショップを見に行くことに。すると、偶然素敵なテーブルとイスとの出会いがありました。

買ってお部屋に入れてみたら、一気にイメージが湧いて「あ、本当にできるかも」と思えたんです!

「たゆたう」という名前ができたのは、それからすぐのこと。退職して一区切りがつき、旅行に行っていたときでした。旅先のサウナの中で言葉が降りてきたんです。

家具を入れはじめ、退職して、宿の名前を決めて。本格的にギアを上げたのは7月のことでした。

——フリーランスに戻って、ついに本格始動したんですね!

そうですね。とはいえ自分の環境の変化もあって、宿づくりが順調だったかというとそうでもなくて。

「どんなものを揃えたらいいんだろう」「民泊ってどうやって売るんだろう」と、考えることがたくさんあるのに決めきれない。民泊を始めるための行政手続きも分からないことだらけ。宿のオープンがいつになっても誰にも迷惑はかからないけれど、未完了のことが溜まっていく感じがして、しんどい時期ではありました。

——どのやってその時期を乗り越えたんですか?

モニターさんを受け入れはじめるプレオープンの日を決めました。期日を決めれば、なんとか進めるだろうと!

あとは、わたしが所属する「aiyueyo」というコミュニティで、新事業に挑戦する個人への応援出資が始まったことが大きかったと思います。「このチャンスを逃がしてはいけない」と思い、7月末の審査プレゼンに向けて必死に事業計画を立てました。

そんな数ヶ月を経て、2023年8月10日にプレオープン、同年11月に本オープンすることができました。

——ちかさんはブランディングのお仕事もされているので、まずはブランディングから始めたのかなと思っていて。意外な過程でした!

実はブランディングは後回しなんですよね。今回みたいに一から何かを作るときは、まずは手を動かすことのほうが大事だなと思いました。カチっと決めてからじゃないと進まないというのは、あまり合っていないなって。

とりあえず最低限必要なものをリストアップして探す。そして、直すところは後から直すみたいな感じでしたね。

大磯暮らしを肌で感じてほしい。宿に込めたこだわり

——宿たゆたうでこだわっているポイントを教えてください。

暮らしを体験してもらうことを大切にしています。料理をしたり仕事をしたり、生活を営むことはもちろん、大磯にはどんな人が暮らしているのかを知ってもらいたいですね。

お部屋にある作品の作家さんをご紹介することで、「こんな価値観を持っている人たちが大磯に住んでいるんだな」と知ってもらう。また、わたしと一緒に町歩きをしているときに知り合いに会えたら、やりとりを聞いて「ここではこういう距離感のお友達ができるんだ」と感じてもらう。

町の空気を肌で感じながら、まるで大磯の住民になった感覚で過ごしてもらいたいです。

——宿たゆたうであえてしていることはありますか?

大磯の作家さんたちの作品を置いていることですね。
たとえば、お部屋にあるうつわはすべて、アパートのオーナーである朝子さんの作品です。宿の下に朝子さんのアトリエがあること、そしてそこで作られたものを手に取れることは、他の民泊にはない大きな価値だと思っています。

作家さんが多いのも大磯らしさの一つなので、お部屋に作品を並べることでそんな土地柄を伝えることにも繋がるかなって。

宿たゆたうでお客さまからいただくお金は、なるべく地域の中で循環させたいと思っています。そのお金でまた作品を購入して、作家さんたちの披露の場にもしていけたらいいですね。

——逆に、しないと決めていることもありますか?

ホテルではないのでフルサービスはできないし、しようと思っていません。自分で歩いてみたりやってみたりして、大磯暮らしを楽しんでもらいたいので!

また、現在は作品案内や町歩きをしていますが、いずれはそれらがなくてもぬくもりやこだわりを届けられるようになるのが理想ですね。わたしがあれこれご案内しなくても成り立つようにしたいんです。

たゆたうブランドを宿だけで終わらせたくなくて。暮らすように過ごせる宿は「たゆたうのも、あなた」というブランドメッセージを伝える手段の一つ。わたしが持っている広報やブランディングのスキルも手段になるし、他にも手段が増えるかもしれない。

たゆたうという屋根の下でいろんな活動をしていきたいので、わたしが付きっ切りでなくても宿が成立するようにいろいろとチャレンジしたいです!

宿たゆたうのこれから

——最後に、宿たゆたうのこれからについて教えてください!

遠方の人と繋がるきっかけとしてはもちろん、大磯に住む方にも使ってもらえる場所にしていきたいですね。

2023年の秋に、地域の一大イベント「大磯うつわの日」が開催され、宿たゆたうが入っている the studio oiso も会場になりました。たゆたうもお休み処として解放したところ、たくさんの方に立ち寄っていただけたんです。

その中で、地域のお母さんたちが「ちょっと家出したいときにここに来たいです(笑)」と言っていて。「たゆたうのも、あなた」というメッセージを掲げるたゆたうは、力になれるかもしれないと思いました。“日常の心のゆらぎを鎮める場所”にもできるんじゃないかなって。

他にも、「親戚や友達が泊まりに来たときに家だと手狭だから」とおうちの“別館”として使いたいというお声もありました。「なるほど!そういう使い方もできそう!」といろんなアイデアをいただけた一日でしたね。

こんなふうに地域の人との対話からも、可能性を発掘していけたら嬉しいですね。

取材・文/Erina Hashimoto

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