やさしい折り紙
部屋にあったはずのものが、音を立てるひまもないまま、なくなった日のこと。普段はそこには見えなくとも、すぐそばにあったのに、最初から存在していなかったかのように、振る舞われた日のこと。
ウールコートの上でふわりと溶けていく雪と一緒に消えていってほしい気持ちもあれば、マフラーにいつか振りかけた花の香りを別の朝に感じるみたいに、いつまでも残っていてほしい思い出もある。
確かめてきたはずの靴なのに今日はなぜだか心許無くて、その理由ははっきりしているのだけれど、声に出すことは決してなく、浮かんでは踏み、つぶれては蹴りを繰り返す。
買ったばかりの淡いピンクのアノラックに、古びた白と青緑と冷たいベンチとあの独特なにおいが、馴染もうにも馴染まなかった、あの日の居心地のわるさが、喉につっかえたままだ。
気をつけて優しく触れないと、絡まってとれなくなってしまうような繊細なまっしろな糸。ていねいに編んで、ときにはほどいて形に沿うように這わせ、あたたかくくるむ、まあるい布。そこに差す、こもれびの色。そんな光景を懐かしむ。ここに音はない。
いきなり毛布をうばわれて背中をぽんと押されても、まだ靴下も選んでいやしないし、それでも立たなくてはいけないことが世界なら、わたしはこのままねころんでいたい。それくらい、ゆるされてもいいでしょう、そんなふうに思うけれど、お風呂の温度は今日も少しぬるい。
素直な感想、とても嬉しいです。 お茶代にします🍰☕️