ウルシの木
日本産漆の最大の産地は岩手県の浄法寺。
実際に行ったことはありませんが、東北道を車で走り、岩手と青森の県境ぐらいのところにあります。車では何度も通りました。
いかにも山の中という感じで、漆の木が沢山ありそうな場所です。
「漆ってもとは何ですか?」とよく聞かれます。
ウルシの木から採れる樹液で、ウルシの木に傷をつけると、傷の保護のために、カサブタを作ろうとして出てくるものを採取しています。
20年育てた漆の木から牛乳瓶1本しか採れません。
傷をつけすぎると最終的にウルシの木が弱っていくからです。
漆屋さんに行き、浄法寺産の漆の香りを嗅ぎました。
漆屋さんと漆器屋さん、何が違うのと思われるかもしれませんが、漆器屋(さん)は漆屋(さん)から漆を仕入れて、漆器を作っています。
漆の香りは正直、結構強烈です。あまりいい香りとは言えません。
自分は小さな頃から嗅いでいる香りなので慣れてはいますが……。
でも、浄法寺産の漆は甘くて優しい、すごく良い香りがしました。
現在、日本に流通している漆の97%は中国産。
中国産と日本産どっちが品質が良いのと言われれば、難しい議論になり、長い議論になります。
遡れば日本に流通する漆のほとんどは、江戸時代から中国産でした。
ウルシの木も人間と同じように木格(人格の木バージョン)があり、1本1本異なります。
職人からするとその個体差で品質の良し悪しはあるようですが、採れた産地より、管理の方が重要とよく言われます。
粘り気の強さは、日本産が少しゆるゆるなので、上塗りの時には刷毛の長さや厚さが異なります。
よく言われているように、日本の文化財の修復には、歴史的な観点から日本産の漆を使うのは、もちろんだと思っています。日本産の漆は日本の風土にも合っているので。
でも、細かな議論は置いておいて、浄法寺産のあの優しくて甘い香りは、ずーっと忘れられないだろうなーと思います。