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民法上の組合と消費税(中)【組合における消費税の課税関係】


★前回記事「民法上の組合と消費税(上)【組合の仕組みと法律関係】」はこちらから。

組合における消費税の納税義務者

 
 消費税は、国内において「資産の譲渡等」を行った「事業者」に課される(消費税法4条1項)。「事業者」とは、個人事業者及び法人をいう(同2条1項4号)。
 前回の記事(民法上の組合と消費税(上)【組合の仕組みと法律関係】)で記載したように、組合が代表者を通じて行う取引は、個人としての組合員全員に共有的に帰属するから、組合の取引では、全組合員が取引の当事者として取引を行っているということになる。
 そのため、組合として行う課税取引は、全組合員が資産の譲渡等を「行った」ものであり、それぞれの組合員が納税義務を負う。


事業性要件の判断主体

 
 消費税法で納税義務を負う「個人事業者」とは、「事業」を行う個人をいう(同2条1項3号)。また、消費税の課税対象である「資産の譲渡等」は「事業として」行うものであることが要件である(同2条1項8号)。 
 先ほど述べた「組合の取引では、課税対象となる資産の譲渡などが個々の組合員に直接帰属する」という法的効果の側面からすれば、この事業性要件の充足性は、組合員ごとに判断されるべきだろう。

 もっとも、組合員は、組合契約を通じて(組合の事業活動として)資産の譲渡などを行っているから、組合が事業性を有しているといえる場合(というか組合は民法上「事業を営む」ものだ。)は、全組合員は、組合を通じて事業を行う個人だといえ、組合活動にかかる取引は事業として行うものと一般的には認められるだろうから、事業性要件が個々の個人において問題となることは事実上ないような気がする[※1]。

※1 沼田博幸『組合形式の事業体に対する消費税の課税について―パススルー課税の問題点を中心として―』明治大学会計論叢第1号17頁(37頁)は、「組合員が多い場合には、事業体レベルでは事業者性を有すると判定されるが組合員レベルでは事業者性がないと判定される可能性が高いのではないか」とするが、組合員が多くても「共同の事業を営むことを約する」という組合契約を締結していることや組合の事業活動が直接に帰属することには変わらないから、組合員の数と事業性要件は直接の関係はないと考えたい。


課税売上・課税仕入れの帰属


 組合の行った取引は、個々の組合員に直接帰属するから、課税売上及び課税仕入れも組合員ごとに計算される。
 すなわち、消費税の課税標準は、自らに帰属する資産の譲渡等の対価の額である(同28条1項)が、組合の活動によって生じる利益や損失は、組合財産に対する持分の割合や組合契約における損益分配の割合に従って帰属すると解されていることから、組合の行う資産の譲渡等の対価も、持分の割合や損益分配の割合に従って各組合員に帰属すると考えられている。
 また、仕入税額の控除も、課税仕入れを「行った」事業者において認められることから(同30条1項)、組合が行った課税仕入れのうち、持分の割合や損益分配の割合に応じた仕入税額の部分について、各組合員の仕入税額として控除されることになる。

 このように、消費税では、対象となる取引自体が各組合員に直接帰属していることの帰結として、所得課税と異なり「中間法」や「純額法」のような処理は認められず、「総額法」に類似した処理方法のみが認められることになる[※2]。

※2 前掲沼田・22頁。

 この点、消基通1-3-1「共同事業に係る消費税の納税義務」では、「共同事業に属する資産の譲渡等又は課税仕入れ等については、当該共同事業の構成員が、当該共同事業の持分の割合又は利益の分配割合に対応する部分につき、それぞれ資産の譲渡等又は課税仕入れ等を行ったことになる」としているが、上記のような理論的側面からすれば、この「共同事業」には原則として組合の場合も当てはまるだろう。
 判例も、そのような理解のもとに課税関係を捉えている[※3]。

※3 福岡地判平成11年1月26日税資240号222頁、福岡地判平成11年3月25日税資241号313頁。


課税取引・課税仕入れを行った時


 消費税の納税義務は、資産の譲渡等を行った時に成立する(国通15条2項7号)。組合の課税取引は各組合員に帰属するから、各組合員は、組合の行う課税取引について、組合が資産の譲渡等を行ったときに納税義務が成立するのが原則だ。そうすると、組合が行う取引については逐次納税義務が成立していくことになる。

 しかし、現実には、共同事業として行った資産の譲渡等の内容が組合の構成員に逐次報告されることはあまりなく、共同事業の計算期間に応じて一定の期間分をまとめて報告するというのが一般的だろう。
 そのため、構成員が取引の報告を受けたときには、その課税取引の時期に属する自己の課税期間に係る確定申告期限を過ぎていたという場合も生じる。

 この点について、そのように考えるべきだろうか。
 現実問題として、組合が取引を逐一組合員に対して報告することは煩瑣に耐えないし、組合員に対して一定期間分の取引をまとめて報告しても、組合員としては全体として組合の課税取引を認識できるから、一定期間ごとに報告するという運用には合理性がある。
 また、「資産の譲渡等が行われた日」が客観的に定まるべきとする趣旨が、納税者の恣意を許さない点にあるとすれば[※4]、各組合員の検査権に服する組合が課税時期を恣意的に操作することは比較的困難であることや、組合の計算期間が客観的に明らかである点に鑑み、組合の行う課税取引について、上記の一般的な報告運用に従い、「組合の会計処理上の計算期間の終了する日の属する各組合員の課税期間中に行われたものとして取り扱う」ことが、必ずしも上記法の趣旨に反するとはいえない。
 そこで、下級審判例では、円滑な組合活動の要請を重視して、組合の課税取引の時期について、そのように扱うことも許されるとされている[※5]。

※4 東京高判令和元年9月26日訟月66巻4号471頁参照。
※5 前掲福岡地判平成11年1月26日、福岡地判平成11年3月25日。ただし、両裁判例では、本文のように取り扱うことが「公正妥当な会計処理」であるから消費税法上もそのように取り扱うことが認められる、というロジックを用いている。「公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算することが求められるのは法人税における損益の計算であり(法人22条4項)、消費税法にはそのような条文上の要請はない。判決のいう「公正妥当な会計処理」と消費税の納税義務の成否の関係をどのように考えているかは不明である。

 通達においても、消基通9-1-28「共同事業の計算期間が構成員の課税期間と異なる場合の資産の譲渡等の時期」では、「共同事業において、1-3-1により各構成員が行ったこととされる資産の譲渡等については、原則として、当該共同事業として資産の譲渡等を行った時に各構成員が資産の譲渡等を行ったこととなる。ただし、各構成員が、当該資産の譲渡等の時期を、当該共同事業の計算期間(1年以内のものに限る。以下9-1-28において同じ。)の終了する日の属する自己の課税期間において行ったものとして取り扱っている場合には、これを認める。」としている。
 これは、法基通14-1-1の2を準用したものとされるが、本文に記載した上記の理由からすれば、消費税法においても正面から同様の解釈をすることはできるように思われる。課税仕入れについても同様の取り扱いが認められるだろう。

 なお、買手にとっての課税資産の譲渡等を行った日と売手にとっての課税仕入れを行った日は、概念的に表裏一体の関係にある[※6]。そのため、理論上は双方の日付は一致するはずだ。
 しかし、組合の取引については計算期間の終了の日に取引を行ったものとすることが解釈上認められるということは、その限りにおいて、双方の日付が乖離することが制度上想定(許容)されている、ともいえる。

※6 前掲・東京高判令和元年9月26日。


インボイス


 組合が課税取引を行う場合、買主からインボイスの交付を求められることが想定される。この点、組合がその事業として行う資産の譲渡等については、各組合員はインボイスを発行してはならないのが原則で、例外として、全組合員が適格請求書発行事業者である場合に、業務執行組合員が「任意組合等の組合員の全てが適格請求書発行事業者である旨の届出書」を、組合契約書等を添付して税務署長に提出した場合にはインボイスを交付することができる(法57条の6、令70条の14第1・2項)。

 組合の交付するインボイスには、原則として組合員全員の氏名又は名称及び登録番号を記載する必要があるが、これらに代えて、組合等のいずれかの組合員の氏名又は名称及び当該組合員の登録番号並びに当該組合の名称を記載することも認められる(令70条の14第5項)[※7]。現実には後者で運用されることが多いだろう。
 なお、交付したインボイスの写しは、当該インボイスを交付した組合員が行う[※8]。

※7 インボイスQ&A(令和5年10月改訂)問75。
※8 インボイスQ&A(令和5年10月改訂)問50。

 ジョイントベンチャーのような場合は別として、比較的小規模な組合では、必ずしも適格請求書発行事業者となっていない者が組合員にいるということも十分想定される。そのような組合においてインボイスの交付を求められる場合は、法人化するか人格のない社団等の規定を満たすように組織を作り込む必要がある。
 あるいは、民法上の組合と消費税(上)【組合の仕組みと法律関係】でも述べたように、内的組合として対外取引を行うことも考えられる。特定の組合員一名の名義で対外的に取引を行う内的組合の場合、当該取引は当該組合員にのみ帰属するとされているから、適格請求書発行事業者である組合員の名義のみによって取引を行うのであれば、当該組合員が単独でインボイスを交付することができるように思われる。
 もっとも、その場合は、各組合員が資産の譲渡等を行ったとはいえないため、インボイスを交付した組合員のみが当該取引に係る納税義務を負い、取引によって得た売上は、組合の規定に従った組入れによって初めて組合財産となる(組入れ自体は対価性がないため、組合員に納税義務は生じない)と解されよう。


簡易課税・免税事業者の制度

⑴ 簡易課税制度

 取引が組合員に直接帰属する以上、簡易課税の適用における基準期間の課税売上についても、組合員ごとに5000万円以下かどうかを判定すると考えられる。
 しかし、そうだとすると、例えば10人の組合員が均等に出資した組合の場合(かつ、それぞれ組合以外の事業を行っていないケース)では、事実上、組合の課税売上が5億円(5000万円×10人分)まではそれぞれ簡易課税を選択することができることになる。簡易課税において上記基準が定められている趣旨が、課税仕入れに係る中小事業者の負担軽減のための特例措置である点に照らすと[※9]、事業体としての取引額が5000万円を超えるような組合の場合にまで特例措置を適用することには、疑問の余地もあるだろう。

※9 佐藤英明=西山由美『スタンダード消費税法』185頁。

⑵ 免税事業者制度

 免税事業者の免税点についても、組合員ごとに基準期間の課税売上高が1000万円を超えるかどうかを判断するということになるだろうが、こちらも小規模零細事業者に対する事務負担への配慮という趣旨からすれば、同様の疑問点が指摘できる。
 あるいは、免税事業者制度の趣旨が、徴税コストを考慮した少額不追及の制度設計(消費税を徴収するコストと税収を比較して1000万円以下の事業者からは徴税しない制度にすること)にあるとする見解もある[※10]が、その観点から見ても、経済実体として1000万円を超える取引を行っている事業体を小規模零細事業者として無視していいといえるかは疑問が残る。取引の単位としては組合員数ではなく組合の単位とイコールであるから、徴税コストもそれほど問題にならないはずだ。

※10 前掲・佐藤=西山186頁。

⑶ どう考えるべきか

 これらの点について、以上の疑問点から、組合における消費税の課税関係は、事業体である組合の段階で判断すべきだとする見解もある[※11]。
 もっとも、免税事業者の問題については、インボイス制度の導入(免税点にかかわらず組合員が適格請求書発行事業者とならなければ組合はインボイスを交付できず、その結果取引先においても仕入税額控除とならない)によって、事実上ある程度解消されたともいえる。

※11 前掲・沼田。


組合の消費税とパススルー課税


 組合では、組合そのものが課税主体となるのではなく、その背後にいる組合員個人が課税主体となるため、いわゆる「パススルー課税」と説明されることがある[※12]。
 ところで、パススルー課税に関する議論は、所得課税において事業体と構成員のどこで所得を把握すべきかという点に係る問題であるから、組合の消費課税を「パススルー課税」と説明するのは個人的にはしっくりこない。
 消費税の課否は、課税物件である課税取引が誰に帰属するかという問題であり、組合にかかる私法関係からすれば、パススルー課税となるのは当然の結論だ。消費税でパススルー課税となるのは結果論ともいえる。
 要するに、そもそも議論の前提が異なるということだ。
 もっとも、結論の理解のしやすさという意味では、「パススルー課税だ」と表現することはなお有用である点は否定できない。

※12 金井恵美子『プロフェッショナル消費税の実務(令和4年10月改訂)』564頁など。


組合員の納税義務と徴税

⑴ 組合の納税義務の引当資産

 これまで見てきたように、組合員はそれぞれ組合の事業活動から生じる消費税の納税義務を負うが、これは、個々の組合員それぞれが負う納税債務である(ただし、共同事業に係る国税として連帯納付義務を負う(国通9条))。
 そのため。それぞれの組合員に滞納があれば、それぞれの組合員の固有財産が引当ての対象となる。
 では、組合の財産は引当の対象になるか。
 前回の記事(民法上の組合と消費税(上)【組合の仕組みと法律関係】)で記載したように、組合員の債権者は、組合財産について権利を行使できない(民法677条)。よって、国は、組合の事業活動から生じた消費税について、組合財産から徴収することができないことになる。

 この結論は、消費税の仕組みからみると問題があるように思われる。

 例えば、A組合において組合員Yに納税資金がないケースを考える。
 このとき、もし、A組合が、消費税分を含めて取得した売上金を「A組合代表者X」名義の預金口座に保管している場合には、当該預金債権はA組合の組合財産である債権(預金債権)といえる[※13]から、組合員Yは単独で自己の持分の割合について権利行使(払戻し)を行うことはできないし(同676条2項)、組合員Yの債権者である国も、組合財産である当該預金債権について執行することができない。
 また、Xが売上金を現金で保管している場合は、現金は占有と所有が一致するため、当該現金はXまたはAの所有財産ということになり、いずれにしてもYの固有資産ではない。
 そうすると、購入者から収受した消費税に相当する金銭・預金は直接的には徴税の引当財産とならないことになる。

 消費税は、事業者が価格に上乗せして購入者から収受することを想定した間接税だ。つまり、実質的な納税資金は事業者が管理する売上金=組合財産なのだ。したがって、組合財産から徴税できないというのは、間接税の趣旨に照らして議論の余地があるように思われる。

※13 ただし、団体の開設する預金債権の帰属については様々な見解がある。

⑵ 持分の差押えは可能か?

 では、個々の組合財産ではなく、組合員が組合に対して有する総体としての「持分」は引当の対象とならないか。
 一般的に、組合の脱退にともなう持分の払戻請求権には資産性があり、差押え自体は可能だと言われる。
 しかし、払戻請求権を実現するためには、組合を脱退しなければならない。いまだ脱退していない段階で払戻請求権をどのように取り扱うのかついて問題が生じる。
 この問題について、会社法609条1項にならい、組合員の債権者は、組合員の組合に対する(総体としての)持分を差し押さえ、営業年度の終わりにその組合員を脱退させて、払戻金にかかっていくことを認めるべきとする見解がある[※14]。
 しかし、組合財産の確保の要請との関係や、組合契約で脱退が制限されているような人的要素が強い組合において、(破産手続によらない単なる差押えで)脱退を強制できるのか等、詰めなければならない問題は残る。

※14 内田貴『民法Ⅱ』(第3版)314頁。保険の解約返戻金を差し押さえた場合は、債権者が解約権を行使できる。組合契約も契約であるという点を重視すれば、持分を差し押さえた債権者が脱退権(事実上の組合契約の解約権)を行使することを認める余地はある。

 また、企業組合等の持分の差押に係る国徴法74条の規定に任意組合の持分も含まれると解する余地はゼロではないが、同条は払戻請求先が、団体性の強い「法人」であることを明記しているので難しいだろう。

 もし、脱退前の持分の差押えに実効性がないとすれば、先程の例では、Yにめぼしい財産がない場合、国はYの破産を申し立て、組合から脱退させた上で[※15]、払い戻される持分から回収するほかない。
(なお、組合員Yから徴収できない場合でも、連帯納付義務を負う(国通9条)として他の組合員から徴収できる可能性はあるが、他の組合員も無資力なら同じことだ。)

※15 破産手続開始の決定を受けることは、組合の脱退事由だ(民法679条2号)。

⑶ 組合財産を引当にする方法?(組合員の納税義務論に対する一案)

 この問題は、要するに、組合の納税債務と責任財産が分離していることに起因する。
 そこで、解釈論として、消費税法3条の「人格のない社団」を広く解釈し、組合もこれに含まれるとすることで解決を探ろうとする見解がある(【案1】)[16]。組合が「人格のない社団」に当たるとすれば、納税義務は組合員ではなく組合そのものに生じ、組合財産が引当てとなり、さらに、第二次納税義務もある(国徴法41条)から、それなりに徴税の実効性もある。
 しかし、消費税法に限って「人格のない社団」を広く解することができるのか、できるとしても国税徴収法との関係でも同一に解釈できるかは微妙だ。また、私法における組合の権利義務関係との整合性をどのように考えるのかなど、検討すべき点は多く、現時点で直ちに採用することはできない。

※16 前掲沼田。


 そこで、納税義務は組合ではなく組合員に生じるという現行の解釈を前提としつつ、組合の活動から生じる納税義務に基づく納税債務は、組合債務であると解することはできないだろうか。

 (やや強引な論理展開だが、)もし、このように考えると、納税債務は組合員に共有的に帰属し、組合の債務として組合財産も引当ての対象となる。
 所得課税では、誰に所得が生じたかが問題となるから、組合員ごとに所得税の納税義務が個別に生じると考えるべきだが、消費税は取引という経済現象を課税物件とするから、取引の私法上の帰属と平仄を合わせて納税義務が生じると考えることもできるのではないか。

 そうすると、組合の取引はあくまでも組合員に共有的に帰属するにすぎないのだから、当該取引にかかる消費税の納税義務もいわば組合債務として各組合員に共有的に生じると(強引に)解する余地はあるように思われる(【案2】)。
 このような考え方によれば、組合債権者たる国は、組合財産のほか組合員個人に対して損失割合等の範囲でかかっていけることになるから、徴税の実効性や租税負担の公平な実現という要請にも適う。


 この点については、筆者自身、勉強不足であり、この程度の指摘に留める。今後の議論の展開に期待したい。

 次回(民法上の組合と消費税(下)【組合と「人格のない社団」の関係】)に続く。

(弁護士 日隈将人)


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