書面添付制度とは
⑴ どんな制度か
税理士法上の「書面添付」+「意見聴取」の制度を総称して、“書面添付制度”と呼ばれる。
ざっくり言うと、税理士が申告時に一定の書面を添付すると、(事前通知のある)税務調査の前に、その税理士に意見聴取の機会が与えられる制度である。
⑵ 法令の根拠:税理士法33条の2、35条
税理士法33条の2、同35条に規定がある。
⑶ 類型
書面添付は、2つの類型に分けられる。
類型①:原則型(法33条の2第1項)
税理士・税理士法人が、国税通則法に掲げる申告納税方式等の方法による租税の課税標準等を記載した申告書を作成したときに、当該申告書の作成に関し、計算・整理・相談した事項を記載した書面を当該申告書に添付することができるというもの。
つまり、税理士自らが計算したり事実関係を整理したりした結果を記載するという通常のパターン。これを「原則型」と呼ぶことがある。
類型② 審査型(同2項)
もう一つは、税理士・税理士法人が、「他人」の作成した申告書について審査した場合に、当該申告書が法令の規定に従って作成されていると認めたときは、審査事項及び内容が法令どおりに作成されている旨を記載した書面を添付することができる。
つまり、他人が作った申告書をチェックし、それが正しいという内容を添付するというパターン。これを「審査型」と呼ぶことがる。
実務上使われている場合のほとんどは「原則型」だろうと思われる。
制度趣旨
制度趣旨については、以下のように説明されている。
書面添付制度の利用状況(統計)
では、書面添付は、どの程度利用されているのか。申告書数のうち何%に書面添付があったのかが分かるのが以下の表。
これを多いとみるか、少ないとみるか。
国税庁の事務運営指針等
国税庁からは、事務運営指針が公表されている。
個人課税部門、資産税事務、法人課税部門、調査課等それぞれに事務運営指針がある。
添付する書面の様式
添付する書面の様式は、財務省令(税理士法施行規則)で定められており、様式は国税庁のウェブページに公開されている。
また、東京国税局では、書面添付のチェックシートも公開されている。なかなか親切である。
日税連による指針
日本税理士会連合会は、平成21年4月1日に「添付書面作成基準(指針)」を制定している。(税理士会の会員のみ閲覧が可能。)
税理士が虚偽記載をした場合
⑴ 懲戒の対象に
税理士が添付書面に虚偽の記載をした場合には、懲戒の対象となる。
ただし、懲戒の対象とするには、客観的に事実と異なる記載がなされたというだけでは足りず、税理士が事実を異なることをあらかじめ知っていたという「故意」が必要とされている。
⑵ 懲戒処分の量定:「戒告」または「1年以内の業務停止」
財務省の告示によると、税理士が添付する書面に虚偽の記載をしたときは、
「虚偽の記載をした書面の件数」と「記載された虚偽の程度」に応じて、戒告又は1年以内の税理士業務の停止になるとされている。
書面添付の主な効果
① 事前通知前の意見聴取
冒頭に記載したとおり、税務当局は、書面添付がある場合には、税務調査の事前通知をする前に、当該税理士対し、意見を述べる機会を与えなければならない。
② 更正処分前の意見聴取
同様に、税務当局が更正をすべき場合において、当該書面に記載されたところにより当該更正の基因となる事実につき税理士が計算し、整理し、若しくは相談に応じ、又は審査していると認められるときにも、当該税理士に対し、意見を述べる機会を与えなければならない。
③ 不服申立てに係る調査の意見聴取
さらに、国税不服審判所の担当審判官等が、審査請求に係る事案について調査する場合において、添付書面を提出している税理士があるときは、当該税理士に対し当該事案に関し意見を述べる機会を与えなければならない。
ただし、注意点としては、例外があるということ。
例えば、上記①については、「当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合」を前提としており、いわゆる「無予告調査」のケースには適用がない(法35条1項)。
無予告調査とは、事前通知を要しない税務調査のことをいい、国税通則法では、申告や過去の調査結果、事業内容等に鑑みて、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれがあるなど調査の遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるときは、事前通知を要しないとされている(国税通則法74条の10)。
また、上記②については、そもそも申告が課税標準等の計算について法令の規定に従っていないことが明らかである場合やその計算に誤りがあることにより更正を行う場合には、適用されない(法5条2項但書)。
つまり、書面添付をしたからといって、常に意見を述べる機会が与えられるとは限らない。
書面添付制度に対する実務家の意見
書面添付の有用性や必要性などに関する税理士の意見は様々のようである。
あるアンケート調査では、約70%の税理士が「書面を添付したことがない」と回答したということで、少なくとも税理士業界に書面添付が広く普及している状況とは言い難いようである(※1)。
以下では、インターネットや文献上で公開されている実務家の意見をいくつか紹介してみる(以下は、筆者において要約して記載している)。
⑴ 推進派の主な意見
・税務調査自体がストレス要因であり、書面添付で調査省略の可能性がある。
・税務調査の確率が下がる。
・調査が常に省略されるわけではないが、その確率は減り、仮に調査となっても日数が減る。
・税務判断には幅がある。怖いのは過大申告。見直し税理士が暗躍しており、勇気ある申告を行う場合は書面添付が不可欠。
・意見聴取の段階で修正申告書を提出すれば加算税はゼロとなる。
・申告時期と調査時期には間が空くので、思考過程について記録を残すことが有用。
・書面添付があれば担当者の退職時にこれを引継書として使える。
・金融機関に対する資料として活用すれば、与信審査で有利になるのではないか。
・利用することで税理士の社会的信用、地位の向上が図られる。
⑵ 否定派の主な意見
・税務調査の確率は下がらない。
・税理士がチェックして問題なしなら、最初から問題はなく、そもそも税務調査も問題ない事案であるから書面添付する意味はない。
・税務調査となるのは追徴課税できるような確実な事案だけ。標的になった事案では書面添付があっても、形式的に意見聴取されて調査に移行してしまう。意見聴取だけで問題なしとなる事案はほとんどない。
・使途秘匿金などの“怪しい金”は意見聴取で解決できる話ではなく、税務調査しないわけにはいかない。
・相続税において判断の難しい「名義預金」等を税理士にチェックさせて相続財産として申告させ、課税対象にするという効果を狙っている。
・(税理士の立場から)添付書面作成に多くの 時間がかかる。書面に記載した内容に間違いがあれば懲戒を受けるリスクがある。
最後に
以上、書面添付制度について簡単にまとめてみた。
個人的には、書面添付制度を積極的に利用すべきだと考えているが、書面添付が実際に有用となるかどうかはケースバイケースなのだろう。
ただ、意見聴取段階で、修正申告すれば加算税が課されないため、この点は分かりやすいメリットである。
(弁護士 真鍋亮平)