【前編】NFT取引は本当に「資産の譲渡」に該当しないのか? ~国税庁「NFTに関する税務上の取扱いについて」の分析と検討~
はじめに
国税庁は、令和5年1月に『NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)』(以下「FAQ」)を公表した[※1]。これは、NFT(Non-Fungible Token)に関する税務上の一般的な取扱いについて国税庁の見解を示したものだが、その中で消費税の取扱いについては2問掲載されている。
本稿では、NFT取引に関する消費税の課税関係について、FAQの内容を紹介しつつ、若干の検討を試みる。
NFT取引の例
NFTは非代替性があり、デジタルデータのオリジナル性を担保する手段となっている。NFTが登場した2017年当初は、主にデジタルアートに活用されてきたが、現在では、画像、音楽、映像等のデジタルコンテンツのほか、メタバースの不動産、ネットゲームのアイテム、アバター用の衣装などデジタル空間での物品取引にも活用されている。
また、NFTはブロックチェーン技術を用いるため改竄不可能性があり、この性質を利用して、例えばイベントのチケットの転売防止の観点から、チケットをNFTと紐付けてデジタル化することなどが考案されている。
さらに、NFTの特徴として、NFTそのものを二次流通させることが可能である(もちろん、二次流通を制限することもできる)。その場合、NFTは、保有者に関する情報を除き、同一性を有した状態で他者へ移転させることになる。
NFT取引の課税判断
このように、NFTは様々なサービスに活用されるが、取引を課税対象とする消費税の課税関係は当該取引の法律関係によって判断される[※2]から、NFT取引の課税関係を検討するためには、対象となるNFT取引の法律関係を検討しなければならない。
しかし、NFTやその取引を直接に規定する法律はなく、また、NFT自体は電子的な証票にすぎないから、その法的性質が一義的に決定されるものではないという指摘もされている[※3]。
その上、NFTの取引自体は、マーケットプレイスの利用規約によって規律されるが、「そのNFTを取得したら何ができるようになるのか」については、NFT発行者とNFT購入者の契約関係で決まる[※4]。
よって、NFT取引の課税関係は、NFTマーケットプレイスの利用規約はもちろん、NFT発行者の利用規約や当事者の合意等の分析が必須となる。
デジタルアートやNFTは「所有」できない
なお、NFTは「デジタルデータの所有権を示す」などと俗に言われるが、デジタルデータは有体物ではないため所有権の対象にならない(そのため、NFTは「保有」という言葉が使われることが多い。)。つまり、俗に「(デジタルデータに紐づいた)NFTを購入する」といっても、それはNFTやデジタル作品の所有権を移転する取引ではない。
FAQ問11の要点
さて、前置きが長くなったが、実際にFAQを見てみる。
FAQ問11では、NFTデジタルアートの制作者の一次流通の消費税について、以下のように記載されている。
このFAQでは、次の二点が要点として挙げられる。
①「NFTの有償譲渡」としては課税されない
FAQでは、制作されるデジタルアートが著作物[※5]であることを前提に、当該NFT取引は、「著作物の利用の許諾に係る取引」としている。
すなわち、NFT取引は、形式的には、制作者が発行したNFTを有償で譲渡する(保有者を変更する)取引であるが、NFT購入者はNFTの紐づいたデジタルアート等の利用権を取得する点に着目し、これを「NFT(というデジタルデータ)の有償譲渡取引」ではなく、その背後にある「NFTに紐付いた著作物の利用権の有償設定取引」として、消費税の課税関係を判断するとしている。
FAQでは、NFTは単にオリジナル性証明のツール(技術)にすぎず、独立した取引対象となるものではないと考えているものと思われる。
つまり、FAQに従えば、NFT取引は、NFT(デジタルデータ)の譲渡という「資産の譲渡」としてではなく、NFTが紐づいたデジタルコンテンツの利用権の取得という背後にある取引を捉えて課税判断をするとことになる。
この見解に従うと、「NFTを購入した」といっても、それが何のNFTなのか、NFTを取得するとどのような権利や効果を取得するかを分析しなければ、消費税の課税関係は判断できないことになる。これは、実務上重要な点である。
②NFTアート取引の一次流通は「電気通信利用役務の提供」である
FAQでは、一般的なデジタルアートのNFT取引を想定しているところ、一般的なNFTアートの利用規約では、NFT購入者に対し、必要な範囲で当該デジタルアートを利用することを許諾するとされることが多い。
「利用」の内容は各NFT取引によって異なるが、例えば、NFT購入者のウェブサイト等に当該作品を掲載するのは、著作権法の規定により作品の著作権者しか行うことができない著作物の「複製」や「送信可能化」等に該当するから、NFT購入者にそれを許諾するということは、著作物の利用許諾(著作権法63条)にかかる取引であると考えているようである。
その上で、FAQでは、このようなデジタル作品の利用許諾とその利用に必要なデジタル作品の提供がインターネット上で行われるという性質から、消費税法2条1項8の3の「電気通信利用役務の提供」に該当するとしているようである。
とりあえず、国税庁が、①NFT取引は「NFTの譲渡」ではなく、紐付いた背後にある法律関係を捉えて課税関係を判断するべきとしていること、②一般的なデジタルアートのNFT取引は「電気通信利用役務の提供」に該当するとの見解を示したこと、にはそれぞれ意義があろう。
しかし、FAQの消費税に関する記載については、少なからず指摘されるべき点があるように思う。以下、①NFTの譲渡は本当に「資産の譲渡」に該当しないのか、②NFTアート取引は本当に「電気通信利用役務の提供」に該当するのか、の二点について雑感を述べる。
NFTの譲渡は本当に「資産の譲渡」に該当しないのか?
NFT購入の「資産の譲渡」性
消費税は「資産の譲渡等」を課税対象としている(消費税法2条1項8号)。NFTの取引についてみると、現時点では、NFTは技術にすぎず独立して取引の対象となるものではないから、NFTそれ自体の法律関係を捉えて課税判断するべきではない、という見解が多い[※6]。
しかし、マーケットプレイスにおけるNFTの取引は、それ自体がマーケットプレイスの利用規約等によって規律される取引である。
そうだとすれば、デジタルデータとしてのNFT自体が消費税法上の「資産」であり、NFTの購入取引がその「譲渡」と言えるのであれば、端的にNFTの譲渡それ自体を「資産の譲渡」として課税対象にすることも理論上は考えられるだろう[※7]。
(1) 譲渡性
まず、後者の「譲渡」とは、資産の同一性を保持しつつ、それを他人に移転することをいう[※8]。
この「移転」の対象は所有権等の法的権利に限られず、排他的支配が可能なものであれば「移転」を観念しうる。NFTは、性質上排他的支配が可能であり、その譲渡は、保有者情報以外のデータについては同一性を保持していると考えれば、NFTの取引を「譲渡」と捉えるのも可能であるように思う。
(2) 資産性
次に、前者の、消費税法の課税対象たる「資産」とは、有形・無形を問わず、およそ取引の対象となるすべての資産を含む[※9]。
よって、NFTというデジタルデータも、それが独立して取引の対象とされれば、消費税法上の資産性は認められる[※10]。
(3) 具体的場面における取引対象性
しかし、実際のところ、NFTの購入は、それ自体に意味があるというより、NFTの紐付けられたデジタルアート等を利用する地位を取得するために行われるのが一般的である。
NFTは、紐付いたコンテンツデータのオリジナル性を証明する手段として機能しており、NFTの購入者は、あくまで「オリジナル性の証明されたコンテンツデータ」の(利用権の)取得に課金しているというべき場合が多いだろう。
この点からすると、NFTはデジタルコンテンツ取引のツールとしての機能しか持たず、購入者は、あくまでコンテンツの利用権取得の対価としてNFT購入代金相当額を支払っていることになり、NFT購入金額は、紐付けられたコンテンツの経済的価値を表現していることになる。
そうすると、具体的な取引においては、データとしてのNFTそれ自体は独立した取引の対象とはなっておらず、NFTの譲渡が理論的・形式的には「資産の譲渡」に該当し得るとしても、当該行為は背後にある利用許諾等の取引に包摂される(付随する)ものとして課税対象としての独立性を有さない(もしくは、独立した「資産」の「譲渡」だとしても対価を得ない無償取引)と整理できるのではないか。
NFTというデジタルデータ自体の「資産の譲渡」性
もっとも、NFTは直接的に投機の対象とされることもある。あるいは、今後の活用手法次第では、NFTそれ自体に経済的価値を見出すNFT取引も出てくるかもしれない。
前述のように、NFTというデジタルデータが「資産」として「譲渡」されると捉えることは理論上は可能と思われるから、NFTが独自に経済的価値を持ち、対価を伴った取引の対象であると評価されれば、「資産の譲渡等」に該当する余地はあるだろう。
例えば、デジタルトレーディングカードを発行し、「初販売時は一点物で、追加販売は大量販売」とした場合に初販売時のNFTの値段が高騰するようなケースを想定する。このとき、トレーディングカードというコンテンツの内容自体はすべて完全複製品である。
現状の多数説に従えば、NFTはデータのオリジナル性証明ツールに過ぎず、レア故に高騰するのは、あくまでも「オリジナル性が証明されたデジタルデータ」のレア度故であり、完全複製されたコンテンツが世の中に複数あるとしても、NFT購入者は、NFTではなく「オリジナル性が証明されたデジタルデータ」それ自体に課金していると考えるだろう。
しかし、コンテンツ自体は完全に同質であるにもかかわらず価値に差が生ずるのは、コンテンツではなく特定のNFTそれ自体に価値が見出されているからであるといえなくもない。
その点は措くとしても、前掲注10・大石ほかが言及するように、NFT取引の背後にある法律関係が有償取引と評価し難い場合にはNFTそれ自体の資産の譲渡性を肯定することになるが、NFT自体の資産の譲渡性が肯定されうるのであれば、第一次的にNFT取引自体を課税対象とすることも可能だろう(むしろその方が課税関係が明確になる)。
また、実際のNFT取引の利用規約には、「NFT購入者には無償で必要な範囲で利用を許諾します」という書き方をしているものがあり、この文言からすれば、そこではNFTに財物性・譲渡性があり、利用許諾はNFT保有を条件とした「無償」の権利設定等であると読める。
このような場合は、NFTの譲渡を独立した課税取引(利用権設定は条件付きの無償取引)と捉える方が素直であろう。
そうすると、NFTそれ自体の資産性を認めてNFT取引を「資産の譲渡」とする考え方は、そう簡単に一蹴できるものではない。少なくとも、NFTの譲渡の資産の譲渡性(取引性)を一切否定するのは妥当ではないし、自明のものとも思えない。
一次流通と二次流通で差を認める合理性はあるのか?
ここで、違う観点から指摘しておく。FAQ問12は、NFTの二次流通について、「利用の許諾に係る権利(著作権法63条の利用権)」の「譲渡」であるとしている(ここでは、NFTの保有は、著作権者に許諾された利用権を表象するものとして考えられているようである)。
他方、FAQ問11は、一次流通は「電気通信利用役務の提供」であるという。
そうすると、FAQの考え方だと、一次流通か二次流通かで、消費税の課税取引の種類がことなることになる。
しかし、一次流通であれ二次流通であれ、「NFTをマーケットプレイスで購入する」こと自体に変わりはなく、ここに課税上の差を見出す合理性があるかは疑問が残る。FAQは、NFTの譲渡人が著作権者であるかそうでないかという取引当事者の属性に着目して差を見出すが、NFTの流通は「同一性を有するNFTが転々流通する」ところに特徴がある以上、一次流通か二次流通かで課税対象としての取引形態に差はないように思われる。
同一のNFT流通で取引当事者の属性によって課税結果が異なるというのは、円滑な二次流通というNFTの特徴が生かされず、課税関係の明確性や予測可能性も欠くように思う。例えば、FAQのように解すると、仮に著作権者が自身の発行したNFTをマーケットで買い戻した場合、NFT購入代金は「権利消滅の対価」と解さざるを得ないから、当該NFT取引は不課税取引になるだろう[※11]。
以上から、同一のNFTの流通については、統一した課税関係を観念すべきという考えが生じる。そうすると、NFT取引は、同一のNFTという同一の「資産」が転々流通するものと割り切って、端的にNFT取引を「資産の譲渡」と考えることも合理性があるのではないだろうか。
いずれの見解が妥当か?
以上のように、FAQはNFT取引そのものを課税対象とせず、NFTの紐付いた背後にある取引を課税対象としているが、NFTの譲渡それ自体を「資産の譲渡」と捉えることも不可能でないように思われる。
NFT取引はまだまだ黎明期であり、法の規律はもちろん、社会通念も未だに確立していない。そういった中で、様々な取引に活用され得るNFT取引について、統一的な課税関係を考えるのは性急に過ぎるとはいえるだろう。また、NFTの活用場面は様々な法律関係のもとで考えられるから、NFT取引のみを切り出して課税することが妥当とは限らない事例もあるだろう。
そうすると、FAQが出た以上は、当面はNFTのオリジナル性証明機能(取引ツールとしての側面)を重視し、背後にある取引(それ自体は法律関係を判断しうる)をもって個別に課税判断するというのが穏当と言えそうである。
もっとも、本稿で論じたように、FAQの見解には一応の反論的指摘は可能であるから、FAQのように考える場合は、それなりの説得的なロジックが求められるだろう(反対もまた然り)。
ただし、FAQもNFT取引自体への課税を一切否定するものではないから、実務家としては、具体的な事案において、NFT取引自体を課税対象とするべきか、それとも背後にある権利関係を課税対象とするべきかの緻密な検討が求められる。少なくともFAQを無批判に受け入れるべきではないと思う。
なお、NFT取引は国境を越えて行われるものだから、「消費課税の仕向地主義の徹底」という世界の流れを意識せざるを得ない[※12]。大きな流れとしては、仕向地主義の結論を導くために(ときに強引な)解釈論を展開することになりそうだが、課税関係の明確化のために立法的解決が望ましいように思う。
(→【後編】NFTアート取引は本当に「電気通信利用役務の提供」なのか?)
(弁護士 日隈将人)