【消費税】 JAFの会費は、本当に不課税(課税対象外取引)なのか?~消費税法における対価性の検討~
JAFとは
正式には、「一般社団法人日本自動車連盟」で、英語表記はJAPAN AUTOMOBILE FEDERATIONなので、頭文字をとって「JAF」である。
自家用車を所有している人、車を運転する人にとっては、ロードサービス事業者としてのJAFの名称は広く知られていると思われる。
JAFのウェブサイト[※1]によると、JAFの設立は1963年(昭和38年)、職員数は3,370人(2023年3月末時点)、その会員数20,335,121人(2023年7月末時点)という組織であり、2022年度のロードサービス年間救援件数は219万5,442件だということである。
JAFの入会金・会費に関するJAFの見解
本記事は、この記載に端を発している。
JAFは、ウェブサイト上で「JAFよくある質問」というページを作成しており、そこには以下のように記載されている(https://support.jaf.or.jp/faq/show/9?back=front%2Fcategory%3Ashow&category_id=4&page=1&site_domain=default&sort=sort_adjust_value&sort_order=desc)。
JAFによると、JAFの入会金・会費は「非課税」だというのである。
もっとも、これは法的に正確な用語ではなく、本来意図しているところは、消費税法的には「不課税」か「課税対象外」ということであろう。
JAF入会金・会費は、不課税(課税対象外)なのか?
不課税説(JAFほか多数説)
JAF自身が不課税だという見解を示しているため、実務上、不課税と取り扱われているのが現実だろうと想像できる。
また、インターネット上で確認できる税理士等による解説も、その大半が不課税であることを前提としているようである。
課税説(私見)
筆者個人としては、JAFの入会金・会費はいずれも消費税法の課税対象であると考える。
理由は以下に詳述するが、法的に考えれば、入会金・会費はJAFによる役務提供の対価であるとするのが妥当である。
消費税の課税対象
消費税の課税対象は「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」(消費税法4条1項)、「資産の譲渡等」とは「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)」をいう(法2条1項8号)。
そうすると、会費や入会金と呼ばれるものが消費税の課税対象かどうかは、「対価を得て行われる役務の提供」にあたるかどうかで決まる。
(会費や入会金が何らかの役務提供の対価といえるかどうか、とも言い換えられる。)
しかし、「対価」とは何か、また、対価かどうか(対価性)の判断基準の定立は極めて難しい問題である。
会費・入会金に関する消費税法基本通達
消費税法基本通達5-5-3、5-5-4
JAFの入会金・会費が課税対象かどうかは、消費税法上の「対価」の解釈で結論づけられる。
しかし、そうは言っても、実務では、以下の基本通達が想起されるであろうし、JAFの見解も、消費税法基本通達を前提としているのではないかと思われるため、まずは、同通達における「会費」「入会金」の取扱いをみておきたい。
消費税法基本通達の中身を検証
まず会費、組合費等に関する5-5-3は、以下のような構成となっている。
つまり、
「対価」性の判定を、明白な対価関係の有無という判断基準によることとし、
①明白な対価関係があれば課税、明白な対価関係がなければ不課税となる。そして、
②明白な対価関係があるかどうかの判定が困難なときには、
継続して、当事者双方で不課税としている場合は不課税となり、いずれかが課税としているときや、不課税の取扱いを継続していないときは不課税とは認めない。
ただし、
③この通達により不課税とする場合は、構成員に通知する必要がある。
上記通達を素直に読む限り、国税庁は、明白な対価関係の有無で対価性を判定するとしつつ、
会費等を不課税とする場合は、
①判定困難 要件
②継続的不課税取扱い 要件
③通知 要件
の3つ要件を要求しているということになる。
要件① 明白な対価関係の判定が困難
まず、違和感を覚えるのが、「明白な対価関係」とは何なのかという点である。これは対価性の判定基準という趣旨なのであろうが、そもそも対価性の判定基準の中に「対価」という言葉が入っている時点で判定基準として機能しないと思われる。
そうすると、「明白な」という部分が重要なのか、という気がしてくるが、しかし、「明白」の意味は判然としない。通常の日本語の語感からすると、「明白な」とは「誰が見ても明らかな」「疑う余地がないほどの」という意味だろうか。
例えば、スーパーマーケットで野菜をレジに持っていって代金を払う。このような取引は誰でも課税取引だというであろうから、このような例が「明白な対価関係」がある典型例だろうか。
もし、
・明白な対価関係がある=課税
・明白な対価関係があるとはいえない=不課税
だという判定基準だとしたら、(対価関係があるかどうか判断がつきにくいものが不課税となってしまうので)対価関係を認める範囲が狭すぎる。
もしかすると、対価関係の有無については、
A: 明白な対価関係がある
B: 判定が困難
C: 明白な対価関係はない
という3類型が想定されているということだろうか。
しかし、本来、対価というものは、対価である・対価でないという0か1であり、対価の有無自体に、“程度”や“濃淡”のようなものがあるわけではない。
いずれにしても、明白な対価関係の有無で資産の譲渡等に該当するかどうかを判定する、という通達の意味するところはよく分からない[※2][※3]。
さらに、「判定が困難」といっても、誰にとって判定が困難なのかが不明である。課税庁なのか、第一次的に課否判定をする当該ケースにおける具体的な納税者なのか、それとも通常の納税者一般なのか。
要件② 継続的な不課税取扱い
支払側・受取側の両当事者が継続して不課税処理していればこれを認める、というのは、もはや法令(消費税法)による課税ということを捨てているに等しい。
つまり、客観的に見れば(もし裁判となれば)対価性がある取引であるにもかかわらず、判定が困難だとして不課税という結論を認めてしまうと、消費税の課税対象となるべき取引を、誤って不課税としてしまうことと同義である。
(もっとも、吉村教授の見解に従えば、これは「謙抑的な行政権力行使の考え」の現れであって、許容されるもの、といえるのかもしれない。)
要件③ 構成員に対する通知
なぜ、通達の中に、法令の規定のない行為を納税者に求めるような文言があるのか。
支払側・受取側の処理の一致を実現するためには、通知させておく必要があるという事実上の必要性は理解できるものの、これは通達に記載するようなものではないと思われる[※4]。
そもそも、名宛人が課税庁ではなく団体側というのは、そもそもおかしな話である[※5]。
対価性の判断基準に関する裁判例と学説
対価性の判断基準について最高裁判決はなく、学説にも争いがある状況である。
ここですべての裁判例や学説を紹介することはしないが、
①役務提供と支払の間に因果関係ないし因果関係的関連性があれば対価性が肯定できるという、広く対価性を認める方向性の見解と、
②具体的ないし直接的な関連性がなければ対価と認められないとする、(①と比較して)一定の限定をしようとする方向性の見解
に分けられると思われる。
京都弁護士会事件における対応関係基準
「対価に該当するためには、事業者が行った当該個別具体的な役務提供との間に、少なくとも対応関係がある、すなわち、当該具体的な役務提供があることを条件として、当該経済的利益が収受されるといい得ることを必要とするものの、それ以上の要件は法には要求されていないと考えられる。」
(大阪高判平成24年3月16日(税務訴訟資料 262号(順号11909))
この「対応関係」基準の意味についてどのように理解すべきかは、議論のあるところであるが、その文言からは、上記①の因果関係によって判断する見解(下記因果関係的関連性基準)と同じ方向性だと思われる。
因果関係的関連性基準
反対給付と一般的・抽象的な役務の提供との関連性が存在するだけで、対価性が認められるとする(因果関係をベースに役務提供と反対給付の関連性を判断する)見解である。
(前掲吉村402頁)
個別具体的な関連性を要求する見解
例えば、
消費者と事業者の両側面から、それぞれの提供する給付の間に、個別具体的な、直接的な関連があるかどうかを判断すべきであるとする見解
(奥谷健「消費税における対価性」修道法学36巻1号(2013)116頁)
などである。
JAFの入会金・会費が「対価」である根拠(私見)
結論から言えば、JAFの入会金・会費は、ロードサービス等の役務提供の対価であり、課税であると筆者は考える。
私法上ロードサービス等の対価であると考えられる
そもそも、対価性の有無は、私法上の法律関係を基礎に判断されるのが原則である。そして、JAFと会員の法律関係を規定するのが、会員規則である。
会員規則には、次のような規定がある。
https://jaf.or.jp/individual/join-us/regulations
また、会員制度については、以下のように説明されている。
会員になると受けられる具体的な諸サービスの概要は、以下のとおりである。
①ロードサービス
バッテリー上がりの応急始動作業や、パンクの応急修理、一定距離までの故障車けん引などのサービスが無料で受けられる。(会員でなければ料金がかかる)
②会員優待サービス
ロードサービスのみならず、会員であれば、全国約47,000カ所の施設において割引や特典が受けられる。(会員でなければ割引・特典はない)
以上のとおり、JAFでは、会員とならなければサービス無償化や、加盟施設での割引や特典が受けれないという仕組みになっている。
そして、会費の滞納している間は、諸サービスを受けられず、もしロードサービスを受ける場合は有料となる(当然、ロードサービスについては非会員と会員間でサービス自体に差はなく、無料か有料かの違いである)。
そうすると、JAF会員は、JAFに入会し、入会金と会費を支払うことでJAF会員としての資格・地位を取得し、会員しか受けられない諸サービスを受けられるようになることから、入会金・会費と諸サービス(役務提供)は、給付・反対給付の関係にあると考えられる。
会費の一部は「機関誌代」である
冒頭で紹介したJAFの「よくある質問」によると、
年会費には、年間440円+消費税10%=484円/年の「機関誌代」が含まれる、
ということである。
機関誌代は、少なくとも、JAFが通常の業務運営のために経常的に要する費用をその構成員に分担させるというような性質のものではないだろう。
つまり、JAF自ら、会費の中に「対価」となるような性質のものが含まれていることを認めているとも読めるし、実際、年会費の請求については機関誌代部分とその他の部分を区分しているということもない。
にもかかわらず、会費が不課税だといえる根拠はどこにあるのだろうか。
このようにみると、会費の支払と諸サービスを受けることの間には、対価関係があると言わざるを得ず、逆に対価性を否定する要素は見当たらない。
消費税法基本通達からしても「対価」である
上記のような根拠が揃っていれば、消費税基本通達にいう「明白な対価関係」という判定基準を適用しても、JAFの入会金・会費と諸サービスの間には、「明白な対価関係」があるといえるレベルではないだろうか。
言い換えれば、明白な対価関係の有無の「判定が困難」な場合には該当しないのであり、そうすると、不課税取扱い要件を検討する余地なく、課税だということになる。
(仮に、当事者が継続して不課税として処理していても、そもそも課税なので認められない。)
さらにいえば、上記京都弁護士会事件の対応関係基準によっても、因果関係的関連性基準によっても[※6]、JAFの入会金・会費の対価性は肯定されるように思われる。
不課税となる会費と課税となる会費の区別
上述のとおり、吉村教授は、不課税となる会費と課税となる会費の区別について、
①特定不能の構成員全体に対する個別化することができない便益(役務)が与えられている →不課税
②ある程度特定できる範囲全体に対し個別化できる便益(役務)が提供されている → 課税
とする。
筆者もこのような説明に賛同するが、別の言葉で説明すると、
例えば、団体の存立のための運営費用のための会費のようなものは、もともと構成員が自ら行うべき団体の運営それ自体ための負担であり、構成員は団体から何らの役務提供を受けていないといえるため、その会費に対価性がないということができる。
これに対し、構成員が団体から役務(会費を支払わなければ受けられない役務)の提供を受けている場合は、会費に対価性が認められると解される。
結局、前者のような会費であるといえない限りは、通常、構成員は団体から役務提供を受けているのであって、会費は課税対象となる。
JAFのケースでいえば、その入会金・会費がJAFという団体自体の存立のための費用負担であれば、不課税と言いうるが、各種無料のロードサービスを受けることや、施設での割引特典を受けることなどは、団体から構成員に対する役務提供だと言わざるを得ない[※7]。
(参考)裁決事例
参考までに、過去に会費の対価性が争点となった裁決事例を紹介する。詳細は不明であるが、JAFのような会費については対価性を肯定する方向のようである。
(以下は、国税不服審判所ウェブサイトの裁決要旨検索システムから検索して引用したもの。)
対価性肯定例
対価性否定例
まとめ
以上で検討したとおり、私見ではJAFの入会金・会費は、役務提供の対価として課税であると考える。
そして、消費税法基本通達5-5-3によっても、「判定が困難」である場合に該当しないため、いくらJAF側が不課税であると表明し、支払側と受取側が不課税だとしていても、不課税の取扱いは認められない。
より一般的に「会費」というものを考えると、会員という資格・地位のあるものに対して、一定の役務提供がなされている以上は、(当該会費が団体運営のための経常的な費用負担といえるようなものでない限り)、原則として対価性が認められるのではないか、というのが筆者の感覚である。
(弁護士 真鍋亮平)
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