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【消費税】 JAFの会費は、本当に不課税(課税対象外取引)なのか?~消費税法における対価性の検討~


JAFとは

正式には、「一般社団法人日本自動車連盟」で、英語表記はJAPAN AUTOMOBILE FEDERATIONなので、頭文字をとって「JAF」である。
自家用車を所有している人、車を運転する人にとっては、ロードサービス事業者としてのJAFの名称は広く知られていると思われる。

JAFのウェブサイト[※1]によると、JAFの設立は1963年(昭和38年)、職員数は3,370人(2023年3月末時点)、その会員数20,335,121人(2023年7月末時点)という組織であり、2022年度のロードサービス年間救援件数は219万5,442件だということである。

※1 JAF・企業概要ページ(https://jaf.or.jp/about-us/overview)より。

JAFの入会金・会費に関するJAFの見解

本記事は、この記載に端を発している。
JAFは、ウェブサイト上で「JAFよくある質問」というページを作成しており、そこには以下のように記載されている(https://support.jaf.or.jp/faq/show/9?back=front%2Fcategory%3Ashow&category_id=4&page=1&site_domain=default&sort=sort_adjust_value&sort_order=desc)。

Q JAFの会費は課税対象ですか?

JAFによると、JAFの入会金・会費は「非課税」だというのである。
もっとも、これは法的に正確な用語ではなく、本来意図しているところは、消費税法的には「不課税」か「課税対象外」ということであろう。

JAF入会金・会費は、不課税(課税対象外)なのか?

不課税説(JAFほか多数説)

JAF自身が不課税だという見解を示しているため、実務上、不課税と取り扱われているのが現実だろうと想像できる。
また、インターネット上で確認できる税理士等による解説も、その大半が不課税であることを前提としているようである。

課税説(私見)

筆者個人としては、JAFの入会金・会費はいずれも消費税法の課税対象であると考える。
理由は以下に詳述するが、法的に考えれば、入会金・会費はJAFによる役務提供の対価であるとするのが妥当である。

消費税の課税対象

消費税の課税対象は「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」(消費税法4条1項)、「資産の譲渡等」とは「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)」をいう(法2条1項8号)。

そうすると、会費や入会金と呼ばれるものが消費税の課税対象かどうかは、「対価を得て行われる役務の提供」にあたるかどうかで決まる。
(会費や入会金が何らかの役務提供の対価といえるかどうか、とも言い換えられる。)
しかし、「対価」とは何か、また、対価かどうか(対価性)の判断基準の定立は極めて難しい問題である。

会費・入会金に関する消費税法基本通達

消費税法基本通達5-5-3、5-5-4

JAFの入会金・会費が課税対象かどうかは、消費税法上の「対価」の解釈で結論づけられる。
しかし、そうは言っても、実務では、以下の基本通達が想起されるであろうし、JAFの見解も、消費税法基本通達を前提としているのではないかと思われるため、まずは、同通達における「会費」「入会金」の取扱いをみておきたい。

(会費、組合費等)
5-5-3
 同業者団体、組合等がその構成員から受ける会費、組合費等については、当該同業者団体、組合等がその構成員に対して行う役務の提供等との間に明白な対価関係があるかどうかによって資産の譲渡等の対価であるかどうかを判定するのであるが、その判定が困難なものについて、継続して、同業者団体、組合等が資産の譲渡等の対価に該当しないものとし、かつ、その会費等を支払う事業者側がその支払を課税仕入れに該当しないこととしている場合には、これを認める。
(注)
1 同業者団体、組合等がその団体としての通常の業務運営のために経常的に要する費用をその構成員に分担させ、その団体の存立を図るというようないわゆる通常会費については、資産の譲渡等の対価に該当しないものとして取り扱って差し支えない。
2 名目が会費等とされている場合であっても、それが実質的に出版物の購読料、映画・演劇等の入場料、職員研修の受講料又は施設の利用料等と認められるときは、その会費等は、資産の譲渡等の対価に該当する。
3 資産の譲渡等の対価に該当するかどうかの判定が困難な会費、組合費等について、この通達を適用して資産の譲渡等の対価に該当しないものとする場合には、同業者団体、組合等は、その旨をその構成員に通知するものとする。

(入会金)
5-5-4
 同業者団体、組合等がその構成員から収受する入会金(返還しないものに限る。)については、当該同業者団体、組合等がその構成員に対して行う役務の提供等との間に明白な対価関係があるかどうかによって資産の譲渡等の対価であるかどうかを判定するのであるが、その判定が困難なものにつき、当該同業者団体、組合等が資産の譲渡等の対価に該当しないものとし、かつ、その入会金を支払う事業者側がその支払を課税仕入れに該当しないこととしている場合には、これを認める。(令3課消2-1により改正)
(注) 資産の譲渡等の対価に該当するかどうかの判定が困難な入会金について、この通達を適用して資産の譲渡等の対価に該当しないものとする場合には、同業者団体、組合等は、その旨をその構成員に通知するものとする。

消費税法基本通達の中身を検証

まず会費、組合費等に関する5-5-3は、以下のような構成となっている。

①会費が役務の提供等との間に「明白な対価関係があるかどうか」によって判定
②その判定が困難なときは、「継続」して、団体側が資産の譲渡等の対価に該当しないものとしている+(かつ)会費支払う側が課税仕入れに該当しないこととしている場合は、資産の譲渡等に該当しない(不課税)と認める。
③ ただし、この通達を適用して資産の譲渡等の対価に該当しないものとする場合には、同業者団体、組合等は、その旨をその構成員に通知する。

つまり、
「対価」性の判定を、明白な対価関係の有無という判断基準によることとし、
①明白な対価関係があれば課税、明白な対価関係がなければ不課税となる。そして、
②明白な対価関係があるかどうかの判定が困難なときには、
継続して、当事者双方で不課税としている場合は不課税となり、いずれかが課税としているときや、不課税の取扱いを継続していないときは不課税とは認めない。
ただし、
③この通達により不課税とする場合は、構成員に通知する必要がある。

上記通達を素直に読む限り、国税庁は、明白な対価関係の有無で対価性を判定するとしつつ、
会費等を不課税とする場合は、
判定困難 要件
継続的不課税取扱い 要件
通知 要件
の3つ要件を要求しているということになる。

要件① 明白な対価関係の判定が困難

まず、違和感を覚えるのが、「明白な対価関係」とは何なのかという点である。これは対価性の判定基準という趣旨なのであろうが、そもそも対価性の判定基準の中に「対価」という言葉が入っている時点で判定基準として機能しないと思われる。
そうすると、「明白な」という部分が重要なのか、という気がしてくるが、しかし、「明白」の意味は判然としない。通常の日本語の語感からすると、「明白な」とは「誰が見ても明らかな」「疑う余地がないほどの」という意味だろうか。
例えば、スーパーマーケットで野菜をレジに持っていって代金を払う。このような取引は誰でも課税取引だというであろうから、このような例が「明白な対価関係」がある典型例だろうか。

もし、
・明白な対価関係がある=課税
・明白な対価関係があるとはいえない=不課税
だという判定基準だとしたら、(対価関係があるかどうか判断がつきにくいものが不課税となってしまうので)対価関係を認める範囲が狭すぎる。

もしかすると、対価関係の有無については、
 A: 明白な対価関係がある
 B: 判定が困難
 C: 明白な対価関係はない
という3類型が想定されているということだろうか。
しかし、本来、対価というものは、対価である・対価でないという0か1であり、対価の有無自体に、“程度”や“濃淡”のようなものがあるわけではない。
いずれにしても、明白な対価関係の有無で資産の譲渡等に該当するかどうかを判定する、という通達の意味するところはよく分からない[※2][※3]。

※2 通達の注意書きからすると、「通常の業務運営のために経常的に要する費用をその構成員に分担させ、団体の存立を図る」会費が不課税とされていることから、このような会費は「明白な対価関係がない」例だということになるのだろう。反対に、実質的に購読料、入場料、受講料、利用料等と認められるものは、「明白な対価関係がある」例だということになる。
特に後者は、対価関係は、実質的に検討すべきかのように読めてしまうが、そうであれば、「明白な対価関係」基準とは整合しないように思える。
結局、国税庁は、どのような趣旨の支払なのかを実質的に検討して、対価といえるものが対価であると言いたいだけなのかもしれない。
(だとすれば、なぜ「明白な」対価関係と言ってしまったのかやはり疑問であるが。)

※3 吉村典久教授は「消費税の課税対象とならない真正の会費と消費税の課税対象となる不真正の会費との区別は,特定不能の構成員全体に対する個別化することができない便益(役務)が与えられているものか,それともある程度特定できる範囲全体に対し個別化できる便益(役務)が提供されているかによってなすべきである。」との見解を前提として、
「その限りにおいて・・・『明白な対価関係』の基準は、あくまでも、謙抑的な行政権力行使の考えに基づく税務執行上の一応の基準を立てたものに過ぎず、役務の提供と(反対)給付との因果関係的関連性基準以外に『明白性基準』を立てたものとは理解すべきではない。」とする。
(吉村典久「消費税の課税要件としての対価性についての一考察」金子宏編『租税法の発展』(有斐閣、2010)405~406頁)

しかし、通達の文言上、「明白な対価関係」は判定基準だとしか読めないし、これを国税庁による単なる「一応の基準」というべきかについては疑問が残る。もっとも、一応の基準程度に理解しないと、他の通達との整合性や税務争訟において主張されてきた国の主張と一致しなくなるという意味では、そのとおりだと思う。


さらに、「判定が困難」といっても、誰にとって判定が困難なのかが不明である。課税庁なのか、第一次的に課否判定をする当該ケースにおける具体的な納税者なのか、それとも通常の納税者一般なのか。

要件② 継続的な不課税取扱い

支払側・受取側の両当事者が継続して不課税処理していればこれを認める、というのは、もはや法令(消費税法)による課税ということを捨てているに等しい。
つまり、客観的に見れば(もし裁判となれば)対価性がある取引であるにもかかわらず、判定が困難だとして不課税という結論を認めてしまうと、消費税の課税対象となるべき取引を、誤って不課税としてしまうことと同義である。
(もっとも、吉村教授の見解に従えば、これは「謙抑的な行政権力行使の考え」の現れであって、許容されるもの、といえるのかもしれない。)

要件③ 構成員に対する通知

なぜ、通達の中に、法令の規定のない行為を納税者に求めるような文言があるのか。
支払側・受取側の処理の一致を実現するためには、通知させておく必要があるという事実上の必要性は理解できるものの、これは通達に記載するようなものではないと思われる[※4]。
そもそも、名宛人が課税庁ではなく団体側というのは、そもそもおかしな話である[※5]。

大島隆夫・木村剛志『消費税法の考え方・読み方〈五訂版〉』(税務経理協会、2015)18-19頁では、「受取側と支払側に不一致が生じないよう、対価関係の判定が困難な会費などについて不課税とする場合には受取側(団体・組合など)が支払側(構成員)にそのことを通知すべきものとしています。
 ただ、この通知は不課税となる必須要件ではありませんから、その通知がないからといって直ちに役務の対価となるというものではなく、その実質によって対価関係の判定を行うことになります。」と説明されている。

しかし、通知が必須要件でなく、結局は実質で判定するなら、わざわざ通知を要件かのように記載する積極的な理由はないと思われる。

※5 酒井克彦教授は、この通達を「名宛人を誤った通達」だとして、「本件通達は、通達としての機能を超えたものであって、いわば民間に対して行政指導を行おうとする趣旨に出たものと位置付けられる。しかしながら、・・・かかる指導内容は何ら実定法上の根拠がないものというべきであろう。」と評する。
(酒井克彦「消費税法上の「対価」の意義 -那覇地裁平成31年1月18日判決を素材として-」租税訴訟No.12(財経詳報社、2019)101-102頁 )

対価性の判断基準に関する裁判例と学説

対価性の判断基準について最高裁判決はなく、学説にも争いがある状況である。
ここですべての裁判例や学説を紹介することはしないが、
①役務提供と支払の間に因果関係ないし因果関係的関連性があれば対価性が肯定できるという、広く対価性を認める方向性の見解と、
②具体的ないし直接的な関連性がなければ対価と認められないとする、(①と比較して)一定の限定をしようとする方向性の見解
に分けられると思われる。

京都弁護士会事件における対応関係基準

「対価に該当するためには、事業者が行った当該個別具体的な役務提供との間に、少なくとも対応関係がある、すなわち、当該具体的な役務提供があることを条件として、当該経済的利益が収受されるといい得ることを必要とするものの、それ以上の要件は法には要求されていないと考えられる。」
(大阪高判平成24年3月16日(税務訴訟資料 262号(順号11909))

この「対応関係」基準の意味についてどのように理解すべきかは、議論のあるところであるが、その文言からは、上記①の因果関係によって判断する見解(下記因果関係的関連性基準)と同じ方向性だと思われる。

因果関係的関連性基準

反対給付と一般的・抽象的な役務の提供との関連性が存在するだけで、対価性が認められるとする(因果関係をベースに役務提供と反対給付の関連性を判断する)見解である。
(前掲吉村402頁)

個別具体的な関連性を要求する見解

例えば、
消費者と事業者の両側面から、それぞれの提供する給付の間に、個別具体的な、直接的な関連があるかどうかを判断すべきであるとする見解
(奥谷健「消費税における対価性」修道法学36巻1号(2013)116頁)
などである。

JAFの入会金・会費が「対価」である根拠(私見)

結論から言えば、JAFの入会金・会費は、ロードサービス等の役務提供の対価であり、課税であると筆者は考える。

私法上ロードサービス等の対価であると考えられる

そもそも、対価性の有無は、私法上の法律関係を基礎に判断されるのが原則である。そして、JAFと会員の法律関係を規定するのが、会員規則である。
会員規則には、次のような規定がある。
https://jaf.or.jp/individual/join-us/regulations

第6条
会員としての有効期限を継続更新しようとするときは、所定の継続手続きと会費を納入する必要があります。また、複数年分の継続会費の納入があった場合は、原則として、翌年以降の会費として充当します。
2 会員証の有効期限終了後4ヶ月以内に会費を納入する場合は、入会金を免除し、有効期限終了時点までさかのぼって会員証を発行し、貸与します。
ただし、会費滞納の期間については、本連盟が会員に対して行う諸サービスは受けられません。

第9条
会員は、会員としての有効期限内において、本連盟が会員に対して行う諸サービスを受けることができます。
(1)個人会員は、会員証に記載されている氏名の方に限り、本連盟が個人会員に対して行う諸サービスを受けることができます。
(2)家族会員は、会員証に記載されている氏名の方に限り、本連盟が家族会員に対して行う諸サービスを受けることができます。
(3)法人会員は、会員証に記載されている法人名に限り、本連盟が法人会員に対して行う諸サービスを受けることができます。

第14条
第13条の規定により会員資格を喪失した場合は、会員としての一切の権利を失います。この場合、本連盟の指示に従って直ちに会員証(JAFデジタル会員証を除く)に切り込みを入れて破棄しなければならないものとします。
また、本連盟に対する債務(本連盟が会員資格を喪失したとみなす日以降にロードサービスの利用がある場合はそのロードサービス利用料金を含む)がある場合には、退会者は本連盟に対し全額支払うものとします。
なお、すでに納入した入会金、会費の返還はいたしません。

また、会員制度については、以下のように説明されている。

会員制度について
JAFには3種類の会員制度があります。
いずれかの会員になっていただくことで、JAFの諸サービスを受けることができます。
種類によって、サービスの内容が異なります。あなたのカーライフに最適なものをお選びください。

https://jaf.or.jp/individual/join-us/membership

会員なら無料で受けられるサービスが多いから安心
会員ならバッテリー上がりやパンク、キー閉じこみ、燃料切れ、事故や故障でのけん引・搬送作業など、さまざまなロードサービスを無料※で受けられます。また、自然災害に起因した事故や故障、雪道・ぬかるみ等からの引き上げなど、自動車保険では対象外のロードサービスにも対応しています。さらに、重大なトラブルが起きていなくても、気になる異音や異臭などのトラブル点検でもご利用いただけるため、安心です。

※会員無料範囲を超過した作業料金(15kmを超過したけん引、事故車の処理、落輪や転落車の引き上げ作業など、部品代等)については、一部又は全部をお客さまにご負担いただく場合がございます。バッテリーやガソリンなどの部品・油脂・燃料代は実費をいただきます。

https://jaf.or.jp/common/about-road-service/contents

会員になると受けられる具体的な諸サービスの概要は、以下のとおりである。

①ロードサービス
バッテリー上がりの応急始動作業や、パンクの応急修理、一定距離までの故障車けん引などのサービスが無料で受けられる。(会員でなければ料金がかかる)

②会員優待サービス
ロードサービスのみならず、会員であれば、全国約47,000カ所の施設において割引や特典が受けられる。(会員でなければ割引・特典はない)

以上のとおり、JAFでは、会員とならなければサービス無償化や、加盟施設での割引や特典が受けれないという仕組みになっている。
そして、会費の滞納している間は、諸サービスを受けられず、もしロードサービスを受ける場合は有料となる(当然、ロードサービスについては非会員と会員間でサービス自体に差はなく、無料か有料かの違いである)。
そうすると、JAF会員は、JAFに入会し、入会金と会費を支払うことでJAF会員としての資格・地位を取得し、会員しか受けられない諸サービスを受けられるようになることから、入会金・会費と諸サービス(役務提供)は、給付・反対給付の関係にあると考えられる。

会費の一部は「機関誌代」である

冒頭で紹介したJAFの「よくある質問」によると、
年会費には、年間440円+消費税10%=484円/年の「機関誌代」が含まれる、
ということである。
機関誌代は、少なくとも、JAFが通常の業務運営のために経常的に要する費用をその構成員に分担させるというような性質のものではないだろう。
つまり、JAF自ら、会費の中に「対価」となるような性質のものが含まれていることを認めているとも読めるし、実際、年会費の請求については機関誌代部分とその他の部分を区分しているということもない。
にもかかわらず、会費が不課税だといえる根拠はどこにあるのだろうか。

このようにみると、会費の支払と諸サービスを受けることの間には、対価関係があると言わざるを得ず、逆に対価性を否定する要素は見当たらない。

消費税法基本通達からしても「対価」である

上記のような根拠が揃っていれば、消費税基本通達にいう「明白な対価関係」という判定基準を適用しても、JAFの入会金・会費と諸サービスの間には、「明白な対価関係」があるといえるレベルではないだろうか。
言い換えれば、明白な対価関係の有無の「判定が困難」な場合には該当しないのであり、そうすると、不課税取扱い要件を検討する余地なく、課税だということになる。
(仮に、当事者が継続して不課税として処理していても、そもそも課税なので認められない。)

さらにいえば、上記京都弁護士会事件の対応関係基準によっても、因果関係的関連性基準によっても[※6]、JAFの入会金・会費の対価性は肯定されるように思われる。

※6 個別具体的な関連性を要求する見解においては、不課税だという結論もあり得るかもしれない。ただし、この見解と同方向の見解をとる論者によって、「具体的な関連性」、「直接的な関連性」、「具体的な対応関係」などの用語が遣われているが、その意味するところは必ずしも明らかではない。

不課税となる会費と課税となる会費の区別

上述のとおり、吉村教授は、不課税となる会費と課税となる会費の区別について、
①特定不能の構成員全体に対する個別化することができない便益(役務)が与えられている →不課税
②ある程度特定できる範囲全体に対し個別化できる便益(役務)が提供されている → 課税

とする。
筆者もこのような説明に賛同するが、別の言葉で説明すると、
例えば、団体の存立のための運営費用のための会費のようなものは、もともと構成員が自ら行うべき団体の運営それ自体ための負担であり、構成員は団体から何らの役務提供を受けていないといえるため、その会費に対価性がないということができる。
これに対し、構成員が団体から役務(会費を支払わなければ受けられない役務)の提供を受けている場合は、会費に対価性が認められると解される。
結局、前者のような会費であるといえない限りは、通常、構成員は団体から役務提供を受けているのであって、会費は課税対象となる。
JAFのケースでいえば、その入会金・会費がJAFという団体自体の存立のための費用負担であれば、不課税と言いうるが、各種無料のロードサービスを受けることや、施設での割引特典を受けることなどは、団体から構成員に対する役務提供だと言わざるを得ない[※7]。

※7 一定の会費(のようなもの)を支払うことによって、一定の無料サービスを受けられる会員制プログラムの例として、Amazon Prime を想定してみる。これに加入し、毎月一定の支払をすれば、Amazonで購入した対象商品の「お急ぎ便」や「お届け日時指定便」が無料となるし、対象のPrime Videoが無料で見放題となる(対象外のものは通常料金がかかる)。
では、Amazon Prime の支払に対価性があるかどうかというと、(それが事業用かどうかの論点はおくとして)対価性はあるというほかないと思われる。このような会員制プログラムの支払とJAFの会費に本質的な差があるのだろうか。筆者にとっては、両者とも対価性のある会員制プログラムだとしか思えない。

(参考)裁決事例

参考までに、過去に会費の対価性が争点となった裁決事例を紹介する。詳細は不明であるが、JAFのような会費については対価性を肯定する方向のようである。
(以下は、国税不服審判所ウェブサイトの裁決要旨検索システムから検索して引用したもの。)

対価性肯定例

請求人は、本件クラブを支援する会員組織の会員から受け取った会費収入は、本件クラブの運営経費を賄うために拠出されたものであり、会員に付与される各特典の経済的価値も無価値に等しいことから課税資産の譲渡等の対価に該当しない旨主張する。しかしながら、本件各特典は本件会費を支払った会員のみが受けることができる便益又は種々のサービスであり、本件会費と本件各特典との間には対価関係があると認められることから、請求人の主張には理由がない。(平15.03.12.東裁(諸)平14-186)

請求人は、本件定例会等に係る本件会費収入について、(1)本件会費収入と請求人の会員等に対する役務の提供には消取通5−5−3に定める「明白な対価関係」がないから課税取引には該当しないこと及び(2)本件定例会等の内容は参加する会員等に対する役務の提供はない等主張するが、(1)請求人は同通達の解釈を誤っていること及び(2)本件定例会等の開催内容をパンフレット等から判断すると、参加する会員等に対する役務の提供は存在することから、本件会費収入は明白な対価関係があり、消費税の課税取引に該当すると判断するのが相当である。(平 9.11.20東裁(諸)平 9-66)

請求人は、会費を活動用会費と組織運営会費に区分経理しており、組織運営会費と本件活動との間には、明白な対価関係はなく、消費税の課税対象にはならない旨主張するが、会員が本件活動に参加するには、会費(活動用会費と組織運営会費)を納めなければならないこと、請求人の事業活動の中心が本件活動であって、組織運営会費は、本件活動の付随活動に使用されているところから、役務提供の対価であると認められる。また、入会金については、基金として積み立て、支出項目も限定されているから、明白な対価関係はない旨主張するが、入会金は、退会しても会員に返還しないものであること、会員に各種特典を利用させるために入会金を徴してしているところから、本件活動との間に明白は対価関係がある。したがって、組織運営会費及び入会金は、課税資産の譲渡等に該当する。(平11. 3.25名裁(法・諸)平10-79)、(平11. 3.25名裁(法・諸)平10-80)

請求人は、本件会費について、県のスポーツ振興事業の運営に協力するための会費であり、課税資産の譲渡等の対価には該当しない旨及び本件会費のうち本件各特典が利用された部分を超える部分については、役務との間に明白な対価関係がなく資産の譲渡等の対価には当らない旨主張する。しかしながら、本件各会員者は、県のスポーツ振興事業の運営への協力並びに金額換算が可能な本件各特典及び金額換算が困難な本件各特典について価値観を見出し、これらのサービス、便益を受ける資格を得ることを目的として社団法人に入会するものと推認される。したがって、本件各会員は、会員としての資格を取得することにより本件各特典を受けることから、本件会費と本件各特典の間には、明白な対価関係があると認められる。以上のとおり、本件会費は、事業者が事業として対価を得て行う役務の提供である課税資産の譲渡等の対価と認められ、この場合の役務の提供に係る対価の額は、提供すべき本件各特典の利用率による価額で判断するのではなく、当事者間で授受することとした対価の額とするのが相当である。(平15.9.25仙裁(諸)平15-8)

対価性否定例

請求人は、①同業他社に対する市場調査費(本件調査費)及び②任意団体に対する会費(本件会費)の支出について、当該各支出に対応する役務の提供を受けていたから、消費税法第30条≪仕入れに係る消費税額の控除≫第1項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額に該当する旨主張する。しかしながら、課税仕入れに係る支払対価の額に該当するには、その支払の反対給付として、当該同業他社又は当該任意団体から請求人に対する役務の提供がされていなければならないところ、本件調査費の実態は、労働組合の組合員である同業他社の従業員の給与相当分を同業他社等と共同で負担するというものであり、①請求人が同業他社に市場調査業務を依頼した事実も、同業他社が市場調査業務を行った実績も認められないことから、当該同業他社等から請求人に対して役務の提供がされたとは認められず、②本件会費は、組合対策費の原資を当該任意団体を介して捻出するためのものであって、当該任意団体から本件会費の対価とみるべき役務の提供などを何ら受けていないことから、当該支出は、課税仕入れに係る支払対価の額には該当しない。(令3. 9. 6 大裁(法・諸)令3-9)

まとめ

以上で検討したとおり、私見ではJAFの入会金・会費は、役務提供の対価として課税であると考える。
そして、消費税法基本通達5-5-3によっても、「判定が困難」である場合に該当しないため、いくらJAF側が不課税であると表明し、支払側と受取側が不課税だとしていても、不課税の取扱いは認められない。

より一般的に「会費」というものを考えると、会員という資格・地位のあるものに対して、一定の役務提供がなされている以上は、(当該会費が団体運営のための経常的な費用負担といえるようなものでない限り)、原則として対価性が認められるのではないか、というのが筆者の感覚である。

(弁護士 真鍋亮平)

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