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#タクシードライバーは見た「弱みを握られるサラリーマン」

今は安定しない時代だ、銀行は人員を削減しトヨタですら終身雇用が守れないと言っている。
そんな言葉を多く見聞きするようになった。
フリーランスと言われる者の数も増え、ビジネスのために“サラリーマンはオワコン”というポジショントークをする者までいる。
しかし、
サラリーマンは会社員として仕事をしながら、空いた時間に自分のやりたい仕事に使えたりする。収入面で不安になることはなく、そして守ってもらえる立場でもある。
時間の自由云々あるが、結局フリーランスでも自分で造りだすタイプではなく、受注するのであれば同じようなもの。
それならば会社員のほうが得する部分は多のだから、辞めたい時や辞めれる状況になった時に辞めれば良いだろう。
立場を活かすか、活かさないかという個人個人の考え方で変わるが、サラリーマンという形態自体はオワコンどころか強いんじゃないだろうか。
今回のコロナウイルスの影響下でそれを実感している者もきっといるだろう。
どちらにも魅力はあるのかもしれないが、少し前に会社員のちょっとした嫌な部分を見てしまった。

あるオフィス街で3人のスーツ姿の男性が乗ってきた。
コミュニケーションが取れていて、信頼関係の構築された雰囲気を感じる3人。
3人とも同じ会社の人間で、40代ほどの上司と、その下30代中盤の部下と、一番下の30前後の部下の3人だった。
なんとなく記憶に残ったのは話題がプライベートな内容に移ったときだった。

「そういやお前、家買ったんだってなぁ」
「いや~、ついに買いました。これから大変っすよ」
上司が一番下の部下に聞くと、部下は念願叶ったような少々歓び混じりの言葉で返事をする。

「ローンは?何年?」
「え~っと、確か30年だったような~」
「30年か~」
「おーやるねぇ」
「頑張らないといけないっすよ」
部下の言葉に上司の二人は何か言いたげな雰囲気を残しながら、励ますように声を掛ける。

「30年だったら、、もう」
「えっ何すか?」
「なぁ滝口」
「ええ、そうですねぇ」
「なんですか?」
一番上の上司とその下の部下だけが何か分かったように、労うかのように意思を疎通させる。

「お前もたぶん、あるよ」
「え?ちょっと待ってください、何のことですか?」
「いや、どうですかねぇ分かんないっすよ、僕は無かったですから」
二番目の上司、滝口は希望を残していると意味らしき言葉を発するがそもそも一番下の部下には伝わらない。

「あ~滝口は無かったタイプね、でもそれは~ある意味認められてないからそうなったんだろ」
「そういう訳じゃないですよ」
「ちょっと何なんですか」
一番下の部下はずっと気になるが、上司の二人だけで話は進む。
しかし肝心のところは出てこない。

「いや、そうなんだよ、俺も無かったのよ。俺の同期の三木原はあったんだけど、やっぱりそれはそういう理由がね、三木原の方が評価もあったし力になれるって言う理由があるから、行かされたわけよ」
「俺らはちょっと微妙っすけどね、富田だったんで」
「あ、富田?あ~でもあいつはその方が向いてるよ」
「まぁそうですね、あとは、笹嶋も行きましたから」
「笹嶋も行かされたか~」
「・・・・・」
上司の二人は会社のあるあるの話をしているが、一番下の部下はそっちのけで盛り上がっていた。

「あの~僕はどうなるんすか?」
「あ~、石井は、、、ん~あるな」
「ありそうですね」
「だからそれが分かんないんですよ、なんなんですか」
「北海道行くんだよ」
「北海道?」
「出向」
「出向あるんすか?」
「あるよ、うちの会社は元々北海道が始まりだったらしいから」
「へー、知らなかったけど、そうなんすね」

上司二人が、呼吸を合わせるように話す。

「お前知らなかったの?」
「はい、周りに居なかったんで」
「これも問題の一つね、結構ひっそり行われるっていう」
「問題のひとつって、まだあるんすか?」
「それが、ローン組んだ奴が行かされるっていう話」
「え!まじっすか?」
「うん。結構社内では噂というか、あるあるになってる」
「だいたい、お前くらいの歳よ、あるの」
「まじっすか」
「いつも、誰も行きたがらないのよ、出向になるなら辞める奴とかもいるし。あと、途中で辞めるとか。だからローン組んだ奴だったら辞めることもないだろうから、行かされるっていう憶測が毎年ある。特にここ2.3年はその餌食になっているやつがいるから。まあ話が来たやつが行きたいなら別よ」
「なるほどー。嫌っすね、俺は。なんのために買ったの?ってなりますし」
「そうなるよな」
憶測ではあるが、上司から出る言葉に真相が見えてきて部下は急に歓びを失った。

「これはもう明日からブルーですよ、いや、もうこの後から。マジで行かされるんすか?」
「いや、わからんよ、確実ではないから。ほぼ毎年あるんだけど憶測があって、ローン組んだ奴が行かされるよな~みたいなことよ」
「うっわ、辞めて―」
「はっはっは、ローンはどうすんだよ」
「. . . . はぁ。. . . . . . ローン組んで早々はさすがに辞めれないっすよ~、嫁にもなんて言えばいいのか分からないし」
「だからそれを狙ってやってんじゃないかって言われてんだよ」
「まじかー」
「絶対じゃないよ、ローン組んでないやつも行くことあるし」
二番目の上司、滝口は合間合間で手を差し伸べる。

「ん~、でも今のでちょっと会社嫌いになりましたわ」
「はっはっは、会社というより人事よ、あいつらだから」
「お願いしに行ったら駄目っすかね、今のうちから」
「辞令来てないのに自分から?それは居なかったな~今まで」
「人事にローン組んだのがバレたらよくないって言ってるよ」
部下の感情面を一番上の上司がフォローし、具体的な対策をその下の上司がフォローする。

「え、じゃあ滝口さんも野上さんも言わないでください、部下からのお願いで申し訳ないですけど」
「俺らは大丈夫だけど、他には言ってないの?」
「同期はほとんど知ってますね」
「同期で人事部にいるやつとかは?」
「あ~、確かいなかったような. . . 」
「まずそれ知っといた方がいいな、あとは俺ら以外にも言わないようにした方が良いかもな」
「そうっすね、、」
「一応これ憶測で、あと今行ってるやつがそのまま残る時もあるから」
「なるほどー、ホントに行きたくないっすよ」
「だよな~、、、場所はどこなの?」

上司と部下でなんとか出向を逃れようという密約の様なモノが生まれていた。
しかし、本当に上司は言わないのだろうか。
その後は家の場所から結婚生活の話題に変わり、出向の話は出なかった。

関係性の良さは感じたが、出向自体も、わざとローンを組んだ後に出向に行かせる会社も、そして本当に信用できるか分からない上司とのやりとりも、
サラリーマンはなかなか面倒だなと感じた一幕だった。

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