タクシーを止めるな_のコピー__1_

【一分連載】タクシーを止めるな!第三話「見えてこない謎」

第一、二話はこちら


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お乗せして10分以上は経っただろうか、
すでに新宿も目と鼻の先まで来ている。
男は何度も「止めるな」と言っていたが、ここからは進むことが困難になる。
明治通りは、新宿が近づく場所で渋滞することが多い。
普段ならそんな予想するどころか、新宿に行ってほしいと聞いただけで渋滞を思い起こせるほど通りたいとは思えない場所だが、今回はすっかり忘れてしまっていた。

あの急ブレーキの後から、男は一切口を開かない。
その時に見た透明の容器に入ったカプセル型のクスリとトンカチ、あれはなんだったんだろうという疑問だけが残る。

とうとう渋滞に巻き込まれてしまった。
車の列はなかなか動かない。
再び「止まるな」と言われるかと思ったが、男は黙ったまま運転席の後ろに座っている。
身体を伸ばすフリをしてバックミラーを見てみると、男はイスに腰掛けながら窓の外を眺めている。
渋滞で止まっているいま、何を思っているのだろう。
表情は一切読めないが、先ほどより落ち着いた雰囲気を纏っている。

もう新宿に着くが行き先は決まっていない、「タクシーを止めるな」とだけ指示する男の目的地はどこなのだろうか。

男は口を開かない。
「(どう声をかけようか、、、)」
渋滞は1メートルほど進んでは止まる、を繰り返す。
普段であれば、この渋滞に嫌気が差してしまうところだが今はこのテンポが気持ちよく、心を落ち着かせてくれる。
この後に何があるというのだろうか。テンポ良い心地良さが畏怖心を妙につつく。

その勘を当たりだと思わされるようなタイミングでバイブ音が鳴った。穏やかな静寂に包まれた車内に波紋を起こすように、後ろから聞こえてくる。
男は電話に出ないため、バイブ音が波紋の余波が拡げていく。その音が車内をかき混ぜ、再び混濁した状況へ戻すように感じてならない。

車が進みだした。行く当てもないがアクセルを踏む。
行き先を聞こうにも、電話が鳴る今声を掛けるタイミングとしてはどうなのだろう。
しかし、声を掛けなければこのまま進むだけになる。
バイブ音が止まった。ここぞとばかりに声を掛ける。

「お客様~、今新宿付近なんですけれども、この先はどうなさいましょうか?」
「・・あ、・・」

返事がない、言葉に詰まっている。
「お客様~、、」
声を掛けようとすると、後ろから電話越しの声が聞こえてきた。
「(もしもし、いまどこにいるの?)」
男は電話を取っていたが、何も反応しない。電話の向こうには女性の声が聞こえている。
「(もしもし、...ぃひさ!聞こえてる?)」
名前を呼んでいるように聞こえる。
「(ねぇ、大丈夫なの?もしもし、もしもし、なにか返事し....)」

「・・・・。」

慌ただしい様子で掛けてきた電話に、男は一切答えることなく切ってしまった。
電話越しの相手は誰だか分からないが、女性で、この男を心配して掛けてきているように聞こえた。
やはり、なにか普通ではない問題に巻き込まれているかもしれない。



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