#タクシードライバーは見た「同調圧力的、タクシー乗り場」
――皆が守っているんだから、あなたも守りなさい。
一見正しいように思うこの主張であり価値観を考えさせられることがあった。
東京駅八重洲口タクシー乗り場、ここではたまに50組以上のタクシー待ちの列が並ぶ。
降雨時は特にひどく、タクシーも来ない上に利用者も増えるもんだから余計に長蛇の列が出来ている。
最後尾であれば長くて30分近く待つこともあるだろう。
そんな東京駅八重洲口のタクシー乗り場にある日入ってみると、30組ほどの列が出来ていた。
自分の番が来てお客様の乗る位置までいこうとすると、並ぶ列の横から花壇を乗り越えてバッと目の前に外国人が飛び出てきた。
アジア系の見た目をしている、20代後半の男性。
その男性がこちらに乗るための意思表示をすると、長いこと待った列からようやく自分の順番が回って来た、これから私のタクシーに乗るお客様が
「ダメだよ、並びなさい」というジェスチャーをして外国人の彼をそこから排除した。
それを受けた外国人の彼はその場から去り、列の先頭だったお客様をお乗せすることになった。
お乗せすると、「あの外人が、列すっ飛ばして横取りしようとしてた」と50代ほどの夫婦が今あった出来事を車内で振り返る。
列に並んでいたお客様にとっては、その外国人の行為は許容できないことだろう。
その後ろに並ぶ方々だってそう。
みんな我慢して並んでいるのにそれを飛ばして横取りするのだから。
でも、あの外国人の彼の感覚は本当に悪いんだろうか?
乗り場として決まっている場所で、順番を飛ばすという行為はもちろんよくない。
ただ、その列に並ばなくても1,2分歩けば沢山の空車タクシーが走る道路に出れる。わざわざ10分も20分も待つ必要はない。
それに、わざわざ待つことを分かっていてそれを我慢して順番を待ちタクシーに乗る選択することも少し違和感がある。
乗り場のルールがあって、そこの順番というルールを破る行為であるから外国人の彼の行為は肯定出来ないが、否定も出来ないというか。
日本人も少し変だよなと思う。
以前はその乗り場から100mほど離れた降車場で、到着後にお客様を降ろしたタクシーにそのまま乗るプロ野球選手をSNSで晒すということが起き、ネットニュースにもなった。
一応、その降車場は乗車が許されている場所ではない。
それは理解している。でも、その理由が「皆が並んでいるのをよそにルールを無視した」という考え方はなにか引っ掛かる。
乗り場はあるが、絶対的にその乗り場じゃないといけない理由はなく、混雑によって周りに多大な迷惑をかけている訳でもない。
そのプロ野球選手の行為によって、「みんなが降車場で乗るようになると、降車場が乗り場のようになって混雑し、本来の降車場としての機能を失うから」という意味で、その行動がきっかけとなるかもしれないという批判ならまだしも、
「皆が並んでいるのに」は同調圧力的でなんか煮えきらない。
並ばなくてもタクシーに乗れる、というほんの少し場所を変えただけで出来るこの感覚を持つことは大事であると思う。
なぜ、わざわざ皆が並んでいて時間もかかる場所を選んでタクシーに乗るのか。
きっと、列をすっ飛ばした外国人の彼はそう思っていただろう。