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«Remake»#タクシードライバーは見た「ブラック企業の片鱗」
変哲なく時間の過ぎた平日の夜、時刻は20時半ごろを回っていた。
オフィス街にはヒト気がなくなり、飲み屋街が盛り上がっている。
早めに帰るか、二次会に向かう様相の人たちでぽつぽつと人通りがあり
遠くに帰る人がいればと、それを狙って街を彷徨っていた。
すると、スーツを着た四人の集団がタクシーを求めて手を挙げた。
近づくと、その集団は40代前半~後半らしき男3名と20代後半の男一人。
ほろ酔いで盛り上がった四人をお乗せすると、車内は酒の匂いとスーツについたタバコの臭いと愉しげな雰囲気で埋め尽くされる。
「運転手さん、新橋の方!」
2次会へと向かう様子。
新橋へ向かう道中、運転手の私も交えて楽しく話していた。
しかし、それも楽しく話している風、後に上っ面な賑わいだと気付いた。
話す内容は、20代後半の後輩の仕事に関すること。
一見、責めてる様子はなくイジリのように繰り出す40代の三人の言葉に、
助手席にいた後輩はめんどくさそうに、しかし声だけは元気に返事をしていた。
これは隣に座る運転手だから気づける、些細な雰囲気。
その雰囲気とは対照的に、40代の三人は後輩をイジる。
それがエスカレートすると、イジるというより普段は言えない不満を
お酒に任せてイジりと変え部下を貶していた。
イジっているという事実と口実をつくりながら、
部下への攻撃をしていたのだ。
タクシーという、外に漏れない密室であればその空気も伝わってくる。
三人が三様、形を変えて貶す。
一人は直接「使えねーんだよ!」と直接言葉をぶつける。
一人はその言葉に便乗し、言葉を掛けるのではなく別の話を繰り出して
「あれもおかしいですよね!」と共感を楽しむ。
一人はただ、冷静に説教をする。
お酒の入ったその三人は、次第にエスカレートしていった。
直接的に声を掛ける男は車内がスピーカーに感じるほど声を荒げだした。
そして、目の前にいる助手席の後輩の後ろに座っていたことから、
後ろから肩を掴み、揺する。
助手席の椅子に近付き、後輩の肩を揺すりながら耳元で言葉を発する。
「お前さー、ホント大丈夫?」
便乗する男は、それを楽しんでいる。
もう一人は依然として合間に説教を続ける。
「あれはな、お前が~」
車内はカオスの状態。
後輩の肩をゆするその手は、次第に肩を叩きはじめた。
ポンポン、ポンポンポン、ポンポン・・パン!
音が大きくなっていく。
便乗する笑い声も響き。
説教も続く。
助手席の後輩は、
「痛いっすよ~」とノリのまま続ける。
後ろの三人はノリで受け取るのを良いことに
その域を越えて後輩を責める。
パンパンと叩く手は肩から頭に変わっていく。
バンバンバンバン!
叩く男「頼むよー木下君」
後輩「すみません、すみません、ちょっと痛いっす」
便乗男「はっはっはっは」
説教男「いやだからさー、あれもね・・」
叩く男「ねぇ木下君、分かってますよねぇ」
後輩「あ、痛いっす、はい」
便乗男「はっはっは」
説教男「俺は違っていたと指摘をしたい」
叩く音と笑い声と説教、
それにお酒とタバコの匂いが交錯し
カオスを越えた筆舌尽くしがたい空気が最高潮に達したところで
目的地へ着いた。
「木下~支払いたのむな~」
支払いを後輩に任せ、お酒で盛り上がっているかの如く
三人は飲み屋街へと入っていく。
私は、助手席の後輩とお会計をしながら会話をする。
「大変ですね~」
「うちホント、ブラックですよ~」
「えっそうなんですか」
「えぇ、あいつらマジでぶっ殺したい」
「はっはっは」
“殺す”ということは冗談であるが、上司に対しての憤りは強く感じる。
本当にそういう思いなのだろう。
「ブラックで働くのはマジで止めたほうがいいですよ」
「確かに、そうですね」
「タクシーはどうですか」
「自由だしいいですよ」
「へー、いいなぁ、運転手さんは結構お若いですよね?」
「僕は25です」
「え!?年下じゃん」
「あ、そうですか!」
「ちょっと~励ましてよ~」
「せんぱい!頑張ってください!!」
「おう、頑張るよ!」
扉、バタン。。。
ブラックかブラックで無いかはこれだけでは判断しかねる。
その四人のここまでに至る出来事や背景、性格を全て把握している訳ではない。
この後輩がもしかしたら、ただ生意気なのかもしれない。
後輩が仕事で、何度言われても同じ失敗をしているのかもしれない。
弱い立場の人間を責めるのが好きな上司なのかもしれない。
本当にブラックなのかもしれない。
事の真理はあの四人、そしてその四人がいる会社でしか分からない。
しかし、タクシーの車内では
イジリを超えた何かが、人を責めたい何かが存在していた。
立場や受け取り手によってはパワハラにもノリにもなる。
現実に様々な問題が起きているのは確か。
もっと苦しい思いをしている人もいるかもしれないし、
責める側は押し付けているわけではないのかもしれない。
社会の現実を垣間見たひと時だった。
ただ一つ、私がこの体験をして一番思うのは
「この職場はブラックだ!」
「あいつらぶっ殺してぇ!」
と、感じているのにも関わらず
なぜ、未だその会社に勤めているのか。
何気ない出来事に社会を見た。