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タクシー小話 6 「自動車事故の陰謀論」

「最近、高齢者の車の事故が多いでしょ。あれ実は事故が起きるように操作してるらしいよ」
 恵比寿の飲み屋街で乗って来た洋風の顔つきした男性と日本人の男性、共に30後半に見える二人の、英語交じりで会話する切れ間に聴こえてきた。
 共に仕事の拠点は海外らしく、久しぶりの顔合わせのようだった。

「それは無理あるでしょ」
 陰謀論を聞かされた方の洋風な顔つきをした男性は笑い含みの冗談といったような反応を見せる。
「でも、ニュース見てても分かる通り、増えてるでしょ」
 確かに増えている。
「特に1カ月前の池袋の暴走事故の後はその印象強いんじゃない」

「あれで国民もだいぶ高齢者事故のイメージ付けされたと思うよ」
 確かにそのような気がするし、会社でも高齢ドライバーの運転試験を含めてそのあたりの注意が高まっている。
「そうだとしても、どうやって操作するんだよ」
「それが一般人に分かるようだったら、あんな事故意図的には起こせないでしょ」

「あの巨大自動車会社がそんなことやってるってバレるわけにもいかないし」
 陰謀論を唱える男は尤もらしいことを言っているようにも思えるが、陰謀論らしい解釈とも思える。
「聞く話によると、プログラミングされてるらしいよ」
 だが至って冷静に話すその口振りに、思わず事実のようにも思えてしまう。

「なんの目的があってやるんだよ」
「遠い話で言えば、自動運転の普及なんだけど、今でも自動ブレーキとか自動運転化の前段階の車が増えてきてるでしょ。それに移行させるため」
「わざわざ事故起こして?」
 確かに、と思う。
「でないと人が運転する車へのリスクを強く国民にイメージさせることできないでしょ」

「危機回避の習性がある人間には事故とか、ネガティブな情報を与えた方が植え付けやすいし」
「それは確かにあるけど」
「まあ、池袋の事故の加害者が今後どういう主張をするかで分かるよ、あり得ないこと言うはずだから」
「いや、最初からこの話の方があり得ないけどな。陰謀論だろ」

「まあ、陰謀論として幽かに知られるくらいで終わるだろうね。人はそんな現実信じたくないはずだし」
 目的地のホテルに到着した。
「そういえばトランプの……」
 降りながらも新たな話が出てきていたが聞き取れなかった。
「もういいよ、その話も」
 洋風な顔つきをした男性は面倒といった反応をしながらホテルへ足早に入っていった。

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