タクシー小話 4「あっさり語られた泥沼不倫劇」
「結婚は二回目だっけ?」
「そうっすね」
夕方頃、40代ほどの男性二人が乗ってくると、久しぶりに飲みに行くらしく会話が弾んでいた。
「そういえば、前回いろいろあったよね?」
「そうなんすよ、まあ僕が原因だし、僕が悪いんですけどね。……でもきっかけが会社の後輩にチクられたっていうのが……」
「あの時期はだいぶキツかったすね、精神的に」
そのきつい出来事を語る口調はあっさりとしている。
「後輩がチクるってどういう状況で?」
「もともと、その会社の後輩は大学の後輩でもあるんですよ。それである日女の子と飲みますけど、みたいな誘いがあって」
「それで、そこで出会った女の子と仲良くなって遊ぶようになって」
「ほお」
「その子と遊ぶときは、僕は嫁に対して後輩と遊んでいるってことで伝えていて、それを後輩と共有してたんです」
「なるほどね」
「だけど、それを全部嫁にチクってたんですよ」
「まじか」
「全部筒抜けなんで証拠は掴んでるし、それで関係が悪くなって離婚しちゃったんすよ」
「それはキツイなあ」
「まあ僕が悪かったというのは勿論あるんですけど、ただ、そのことを後輩は一切僕に言わないんですよ」
「知らないフリ?」
「はい、でも会社にいるんすよ」
「え、同じ職場にいるの?」
「そうなんですよ。それで、僕の元嫁と付き合うっていう」
「まじ?」
「たまにいるじゃないっすか、知らん顔して人の女に手出す奴」
「はいはい」
ただの不倫ではなかった。
陰険で悍ましい、人間の闇の部分が垣間見える。
「それでいて平気な顔で会社いるんすよ。もう、おれ気持ち悪くなっちゃって」
「そりゃそうだよな」
「このままだとおれ壊れると思ったんで、どうしようかなって考えて、キレるとか無視するじゃなくていっそのこと逆いってやろうと思って、ランチとか飲みに誘ったり、とことん優しくしてたら辞めていきました」
「それもなかなかの怖さだねえ」
「でも、怖いとか考えてなくて、無理に優しくでもしないとおれが苦しかったんで」
「へえ、凄いな。それで、今の嫁さんはそのときの?」
「いや、別の子です。高校の同級生なんですけど、それで」
「それも色々ありそうだな」
興味をそそられたが、目的地の飲み屋に到着したためそこで終わった。