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«Remake»#タクシードライバーは見た「爆発音のようなくしゃみをするおばさん」前編
―――もうやめてくれーー!
今までで、こう思った体験はこれ以上にない。
タクシー運転手をしていると乗せたくないお客様がいる。
酒に酔って、吐く準備をしてタクシーに乗ろうとしてると言えるほどにお客様、今にも吐きそうなお客様や
吐いた後、漏らした後の汚い汚物的な格好をしている方、
法律的にもこれらのお客様の乗車を拒否することは許されてもいる。
しかし、それ以外にも私にとって乗せたくないとと思うほどの時間を作るお客様がいる。
これはその時の話。
私は、お乗せしたお客様とは
話しかけてこない限り話しかけない。
お乗せするお客様のうち7,8割は特に話しかけてくることはなく、
車内はラジオの音が聞こえているか
お客様同士の会話や電話、スマホをいじる音が聞こえる。
喋らないとは言え無音は苦しい。
一言でいうと「ちょっと静かな緊張の空間」と言えるかもしれない。
だが実際に緊張しているわけではない。
波の無い静かな湖で風が無ければ水面が揺れないように、魚が飛ばなければ水しぶきが上がらないように、自らは波を起こさない。
そんな空間で「ん?」と思わされることがあると
笑いそうになってしまう。
人が笑うときには『緊張と緩和』と言われる理論があるが
まさにその状態が、ほぼ無音のタクシーの車内で起こる。
『緊張と緩和』を何か例をあげると、赤ちゃんがいないいないばぁで笑顔になることやお葬式で厳かな中、立ち上がった人が脚が痺れているのを見て
笑いそうになるようなことだ。
そういう瞬間を見つけて楽しむ自分も居たりするのが少しばかり厄介。
この間も、そうだった。
まだ花粉が舞う時期、都内一等地でお乗せしたお客様は二人組で、
一人は力士なみに恰幅のいいおばさん、
一人はぽっちゃり体系のおばさんのお母さん。
一等地であることもあって落ち着いた雰囲気であるが
親近感も感じるような穏やかな二人であった。
目的地はそう遠くなく、5分もかからない距離。
普段と変わらず、安全運転で目的地にお送りする。
車内は、静かにラジオの音が流れ、
二人の会話は特にない。
空気が悪いというより、
家族だから特に喋らないといった感じ。
家族と分かったのは、
乗ってくる時にそういう会話をしていたからだ。
こちらも特に緊張している訳ではないが
車内は静かな緊張の空間になっている。
そんな時、後ろから大きく息を吸う音が聞こえた
「はぁーーっ」
っと、
マスクをしているのに車内の空気をすべて吸い切るんじゃないか
と思うほど大きく吸い込んで
出てきたのは
「だぁーーっくしょん!!!!」
車内が揺れ、爆発したんじゃないかと感じるぐらい大きなくしゃみ。
びっくりした私は
―――すごいデカイくしゃみ~。
というこれ以上ないシンプルな感想を持った。
その感想が浮かび終わった後、再び
「はぁーーっ」
―――あ、、
「だぁーーーっくしょん!!!」
―――また出た、でっかいくしゃみだな~。
一回目のくしゃみが終えてからその間、3秒。
「(花粉も舞いまくって・・)」
とクシャミの原因を考えていると再び
「はぁーーっ」
―――あ、まただ、
「だぁーーーっくしょん!!!」
―――にしても、くしゃみデカすぎない?
初めて聞いた爆発音のようなくしゃみ、
しかもそれが三連発。
―――こんなデカイくしゃ、
「はぁーーーっ」
―――聞いたことない、ちょっと待って!ペースも早い、
「だぁーーーっくしょん!!!」
―――やっぱでかい!!なんだこのクシャミ!!
初めて聞く、喉の奥で小さな爆弾を抱えているようなくしゃみに
少し面白味を感じ始めていたが、これが悪夢のはじまりだということを知る由もなかった。
その楽しみも数分で崩れ去り、苦しみの奈落へと落とされることになろうとは。