魔法の言葉

「今日のご飯は、カレーライスだよ」

我が家には、魔法の言葉がある

この言葉を言うと、我が家の子供たちは大喜びをする、なぜなら私は、学校の献立表を毎月みて、給食と被らない絶妙なタイミングで、カレーを作っているのだ。
子供達の喜びの裏には、親の計算がされていたのだ。魔法じゃないよ、でも、魔法みたいだ。



「明日は学校を休んでね」

これは、ぼくたちがたまに聞く言葉だ。この言葉は、カレーライスと違って、年に何回かしか言われることがない。
いっこ前に言われた時は、たぶん6ヶ月以上前だ。それを言われた次の日は、家族みんなでディズニーランドに行く日だった。たまたまこの日はお父さんもお母さんも休みが同じだったみたい。サプライズというやつだ!
明日はどこに行くんだろう。この言葉を聞くと、いつもワクワクして眠れなくなる。まるで、魔法みたいだ。



我が家には、魔法の宝箱もある。
私はいつも子供たちに、おやつは一日一袋まで。棚の中に毎日入れておくから、それを食べるんだよ。と、伝えている。
子供達は毎日学校から帰ると、一目散に棚へと向かう。そうして家の前で待っている友達と一緒に、おやつを持って遊びに行くのだ。
ホームセンターで買ったただの棚は、いつの間にか子供たちが吸い寄せられる、魔法の箱になっていた。さて今日のご飯は、何にしようかしら…。





子供たちは、大人になった。
学校に通った、アルバイトもした、兄は結婚をして家を出て、弟は実家暮らしではあるが、就職をして忙しそうだった。

食卓に全員が並ぶことは一年で数回で、疎遠になったわけではないけれど、みんな一緒にいる時間は減っていた。


みんな大人になった。子供はいつか、大人になる。いつの間にか、魔法は解けていた。

弟は仕事から帰ると、冷蔵庫のおかずを温める。嫌いだった野菜も、今は率先して食べる。最近カロリーが気になるんだ。
兄は、いつ帰ってくるの?と母から聞かれ、盆か正月にもしかしたら帰る、と伝えた。いつの間にか会える回数は、年に2回になっていた。

「母さん、僕の実印どこにあるかわかる?」
「ああ、印鑑なら、そこの棚に入ってるよ」

僕たちの宝箱は、荷物を入れる箱になっていた。

魔法が解けることは、悪いことではない、大人になったのだ。成長したのだ。
あの時の光る記憶、思い出には間違いなく家族が築いた愛があった。その事実があれば、魔法は解けたっていいんだ。




ある日、兄から、子供が生まれると連絡が入った。その時は家族で集まって、みんなで喜んだ。
「初めての孫だ、私たちもうおじいちゃんとおばあちゃんだね」
「僕も姪っ子が産まれるなんて、大人になったなあ」

ひさしぶりに家族は、みんなで喜んだ。
夢みたいだ、とはしゃいだ。

それから数日後、兄から母へ、こんな連絡が届いた。

「母さん、うちのカレーはどうやって作っているの?どう作っても、市販のルーだけじゃ、うちの味にならないんだよ」

弟は母へ、
「そうだ、今度兄さんに、結婚祝いを渡そう。普通に渡してもつまらないから、帰ってきた時に枕元にでも置いとこう。サプライズだね」

そうして帰ってきた兄と話しながら、ふと弟はこう伝えた。

「兄さん、まさか、おやつの棚、忘れてないよね。あの棚開けるの、いつもワクワクしたね。僕もいつか子供ができたら、あんな棚を作るんだ。」


ぼくたちの魔法は解けたみたいだ。

しかし僕たちは、魔法が使えるようになっていた。

僕たちに魔法をかけてくれて、ありがとう。

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