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9 0番のカノジョじゃなきゃイヤ

その日は牛ホホ肉の煮込みを食べた後にアイスクリームのエスプレッソかけを注文した。単純なデザートに見えて実はいろいろ手が込んでいるところが気に入っている。ピアニストの奏でる曲が「My Romance」になった時にアイスが運ばれてきた。ソレを食べながらケイはチョットにやけて話し出した。

「いまねー、あるオトコに口説かれているんだ」

うーん、おさかんなのはいいけれど、オマエちょっとこじれすぎじゃないのか。ダンナいて娘がいて孫がいて、そしてカレシもいただろ。まだ、欲しいのかよ。

「そーねー、いまのダンナは3年前別れようって言ったときに『ゴハンも作らなくていいから家にいてくれるだけでいいから』って言われたから一緒に住んでいるけど。あ、でもワタシが家にいてダンナもいるときはゴハン作ってあげるよ。それ以外は自分で作っているみたいだけど」

家庭内別居ってヤツだな。

「そう、孫にはおばあちゃんなんて呼ばせない。必ず『ケイちゃん』って呼ばせるようにしている。

彼のところに入り浸っているそうじゃないか。

「そうねー、夜になるとカレシは『泊まっていけば』って言ってくれるけど、今のところ朝を迎えるのは自宅に決めているの」

カメラマンのカレだろ。知ってるよ、たまに仕事の現場で一緒になるし。

「そう、そのカレシの家に遊びに行った時、たまたまカレのお母さんが来ていたのよ。『いまの人たちは付き合っていても籍入れない人多いよね。それでもいいからこの子のことよろしくね』って言われちゃってサ。ホント、籍の入れられないワタシとしてはなんと言っていいか分からなくてただひたすらニコニコしていた」

そりゃそうだよな。そんな状態でさらに別のオトコ作ってどうするんだよ。

「えー、でも、ワタシは口説かれるなら3番目でも1番目でもイヤなの。カノジョになるならなにがあっても0番のカノジョしかありえない」

理解できん。

「だから、遊びでワタシを口説かないで欲しい」

・・・オマエの本気はどこにあるんだ?

「アタシはいつでもその時そのときで本気だよ」

ホント、コイツ抱かなくて良かったわ。

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