私の小さな農園に堆肥を入れる
私の小さな農園に苦土石灰を入れてから一週間が経った。今度は堆肥を入れるため、母と私、それぞれが一輪車を押す。
私の一輪車には、マルチシートや「野菜肥料」とマジックで書かれたペットボトルが積まれていた。母の一輪車にはスコップが積まれ、畑のすみにある堆肥(臭くない)を一輪車へ何回かすくって入れる。
そして私の小さな農園へ。
目の前に広がるご近所さんの田んぼでは、田植え機をいじる見知らぬおじさんがいた。
「今朝早くからオデッテャア(手伝い)来てんだっけ」
母が田んぼを眺めて語る。
「今日で終わるのかな」
「終わる終わる。小さい田んぼだもの。……んだけんと、なんだが機械調子悪そうだな」
「んだね」
田植えの様子も気になりつつ、畑の作業を始める。
母がペットボトルに詰めた謎の肥料――灰色の粒を、適当に振りかけた。これはホームセンターなどで売っている肥料らしい。次に私の一輪車へ盛った堆肥をまくように指示される。
「堆肥まいたら、よーく土にまぜて。そしたらこっちの畑みたいに、ちょっと土を高さつけてまとめて、この黒いシートをかけるの」
母がマルチシートを畑のはじに置いた。
「これ、土かぶせててから引っ張ればいいんだよね。私一人でできっかな」
「できるできる。ほらこうやって」
母が器用にというか雑にというか、足でマルチシートのはしに土をパッパッとかけた。
「はいはい、やってみます」
「ほんじゃ頑張って」
うふふ、と笑いながら、母は草刈りのため、向こうの土手へと歩いていった。
私は指示通りに、せっせと土と堆肥をまぜる作業を始めた。スコップでマゼマゼして、土の塊をくだき、またマゼマゼする。一旦、農機具小屋へ戻り、クワと同じくらいの大きさのカッツァ(標準語わからん)を取りに行く。それを使って耕した土の表面をならし、見様見真似で平たい畝を作る。
マルチシートをあてがうと、どう考えても幅が広い。ちょっとわきの土を削いで、はしに土を乗せたシートを伸ばす。畝にかぶせ、四辺に土をしっかりと乗せた。
「ふーっ、こんなもんかな」
出来上がった畑を見て、達成感に満たされる。大きさにして二畳あるかないかのささやかな畑。愛しくてしょうがない。
ふと田んぼを見ると、田植えの手伝い人と、ご近所のおじさんが田植え機を囲んで話し込んでいた。どうやら不具合でも起きたらしい。
一輪車やスコップを片付け、母が草刈りしている土手へ向かう。前日、前々日と私も草刈りした場所だ。先に刈った草は、天日でほとんど乾燥している。天地返ししてさらに乾燥させたら、今度は焼く作業だ。
草刈りする場所はここだけではない。いくつもの畑や元畑、土手を順番にまわって草刈りをし、天地返しをして、集めて、燃やす。この繰り返し。
大変だけど、嫌いじゃない。
ご近所さんとこの田んぼには、業者さんが来て、田植え機をいじっていた。やはり不具合か。今日中に終わるのだろうか。
*
翌朝。愛犬との散歩で、我が家の畑を歩いていて気づいた。私が作業した畑の畝は、隣の母の畝と平行にはなっておらず、ナナメになっていた。まだまだ未熟者である。
一方、ご近所さんの田んぼに目をやると、すべての田んぼに稲の苗が植えられていた。あんなにトラブってたのに、一日で終わったらしい。
しかも私の畝と違って、きっちり真っすぐに植わっている。
「さすがベテランは違うぜ」
まだ短い苗が、整然と並ぶ水田。そこに映り込む空を眺めながら、愛犬との散歩を再開した。