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ー7℃の朝

本州で一番寒い藪川やぶかわ(岩手県盛岡市)や区界くざかい(岩手県宮古市)ほどではないが、我が家(岩手県一関市)でも先日、ー7℃という凍てつく朝を迎えた。

「おはようさん」
「はいおはようさん! お茶っこ入れっから飲まいん!」

朝、我が家ではまずお茶を飲むことから始まる。
先に起きてヤカンで湯を沸かしていた母。いつもは沸騰するとポットへ入れ、ポットからマグカップへ、マグカップから急須へ入れる。

緑茶に使う湯は、温度が高すぎない方がおいしくなる。我が家ではいつもこうやってマグカップを温めつつ、湯の温度を下げてお茶を入れている。

しかしその日は、たまたまタイミングが悪かった。

母が沸いたばかりのヤカンの湯をポットに入れた。
ポットがいっぱいになったので、そのまま直に、ヤカンからマグカップへ熱湯を注いでしまった。

その瞬間、パキ……というかすかな音が、私たちの耳に届く。

ほどなくマグカップの底から、オモラシのようにお湯がジワジワジワ~と流出。
二人同時に、「あぁ……」と声を上げる。
マグカップの側面には、細くヒビが入っていた。

「そりゃそうなるわな」
割れた(私の)マグカップを見ながら、母の直前の行動を思い出す。
-7℃である。朝の冷え切った台所で、冷え切ったマグカップにいきなり熱湯を注げば、そりゃ割れて当たり前。
凍結した水道管に熱湯かけるべからず、と同じである。

「やー、こんだけ寒いんだな」
母もため息をつく。
普段のお茶の「型」を守っていれば防げたことだが、母はこういうオテンバさんというか、アジャラ(方言)なところが時々発動してしまう困ったさんである。

  *

冷え込んだ朝は、蛇口から出る水も氷の如く。

家の中の蛇口は、どこも2つずつついている。
片方は赤、もう片方には青の印。

ボイラーやソーラーで作られた温水は赤の蛇口。
井戸から引いた水は青の蛇口から出てくる。

しかしソーラーは冬場活躍しないし、ボイラーも焚かなければ温水は作られない。
つまりどちらの蛇口からも、水しか出ない。

しかしちょっと手を洗う程度でわざわざボイラーを焚くのは気が引ける。
こういうときは、青の蛇口を使う。

――井戸水を使っている人たちは、「冬の井戸水はあったかい」とよく言う。

理屈はわかる。
井戸水は水温が一定だから、暑い夏には冷たく、寒い冬には暖かく感じるということ。

だけどその話を初めて聞いたとき、私は持病が一番ひどいときだった。全身を襲う激痛は、冷えによって、よりひどくなる。
当時はちょっとしたことでも水を触ることができず、しょっちゅうボイラーを焚いていた。

そんな体調のときに「冬の井戸水はあったかい」と言われても、「んあわけあるかい。冷たいもんは冷たいんじゃい」としか思えなかった。

しかし時は流れ。
すっかり元気になった今の私。
青の蛇口から出る井戸水に触れて、思わず「ほぅ……」と息がもれる。

「……あったかい……」

自分で言ってびっくりする。
真冬の水があったかいとは。

しかし今ならわかる。
冬の井戸水は、たしかにあったかい。
一筋のわずかな温度差に、ぬくさを感じ取る。

冷たいもんは冷たいんじゃ、と言っていたのも今は昔。私も随分健康になったものだ。

  *

昨日の夕方、テレビで天気予報を見ていた。
『今日は北海道で-30℃を記録し――』
おお、さすが北海道さん大変ですね、と思っていたら、その直後には
薮川やぶかわでは-20℃――』
と言われていた。

先日、ニューヨークタイムズが選ぶ「今年行くべき世界の旅行先」に盛岡市が2位に選ばれ、岩手県民が大いにざわついたわけだが。

盛岡とはこういう冬の一面も持っていることをお忘れなきよう。うっかり薄着で冬に訪れぬよう、心していただきたい。


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