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竹が椿にかわる頃
我が家の悩みの種、竹。
畑のそばに竹山があり、毎年春になるとタケノコが一斉に侵略してくる。我が家の畑だけでなく、ご近所さんの畑にも。
放っておくとタケノコはあっというまに成長し、何メートルもある竹となる。
去年は母と二人がかりで刈れたからまだいい。今年は私がお勤めに出たため、母が一人で立ち向かった。
だけど母は草刈りや畑仕事にも追われるから、1人では手が回らない。畑に現れたタケノコをやっつけることだけで精一杯で、本拠地である竹山まで手が回らない。
小さい竹山ではあったが、着実に密度を増していった。
母はついに、竹山を丸坊主にする決断を下す。
しかし竹は竹で良さもあるので、そのへんを一応、母に問うてみる。
「竹の根って土砂崩れを防ぐでしょ。全部刈っちゃって大丈夫かね?」
「大丈夫! 土砂崩れなったとしても、周りに何もないし!」
まぁそうなんだけどね。
住宅密集地帯ならともかく、うちの竹山はたとえ崩れたとて大きな被害になるとは考えにくい。丸坊主化に支障はなさそうだ。
でも私は、竹林が好き。
松竹梅の中でもダントツで竹が好き。
青々とした竹林の清々しさがいい。
だけどすみかの維持管理をする立場になると、たしかにこのままではいけないとは思う。実際、ご近所さんの領域にも根が伸びているし。
私も去年は、連日タケノコと勝負をしまくって苦労を覚えた。
早速、親戚の大農家に竹切りを依頼。
作業がいつ始まるかとワクワクして待ったが、下見に来た親戚から「機械が入れない」と言われ、ふりだしに戻る。
しかし幸運なことに、別の知り合い筋から竹を切ってくれる話が舞い込んだ。
趣味で竹を使うらしく、使えそうな竹をいただきたいと。そのついでに他の竹も全部処理しましょう、ということだった。
ちなみにその方の機械は入れるサイズとのこと。
もちろんお金はかかるが、ラッッッキーーー!!!(ガッツポーズ)なのである。
夏から秋に移りかわってきた頃。
竹切り作業は始まった。
毎週末、作業をしに六十すぎのおじさんが1人で来て、黙々と竹を処理していく。
「いやぁ、なかなか手強い」
おじさんは言うが、週末だけの作業で、ひと月経たないうちに竹山の半分近くの地肌があらわになった。どんどん変わっていく景色に、ちょっと感動した。
とはいえ、丸坊主にしたあとも何年かは残り香のようにタケノコが生え続ける。そこを負けずに刈り続ければ、いずれ生えなくなってくる。
それまでは、なんとしても頑張らなければならない。
「ところどころ、椿があったんだけんと。なじょにすっぺ。残すすか?」
竹切りおじさんの言葉に、母は「お願いします!」と応えた。
「椿ってのは、大っきぐなんだっけね」
「ほんだねぇ。大っきぐなりますねぇ」
2人でそんな話をしたという。
これまで青々と茂っていた我が家の竹山。
丸坊主になったままでは山も寂しいから、椿があとを彩ってくれるなら助かる。
楽しみでもあり、ちょっと寂しくもあり。
「竹なくなっと日当たりよくなっから、見たことない植物出てくっぺね」
私の言葉に、母がすかさず応える。
「タラッポ! タラッポ出る! 山切るとなんでか出てくんだっけ!」
あの山が竹から椿にかわる頃。
我が家の春の食卓は、タケノコからタラッポにかわっているかもしれない。
やっぱ天ぷらかな。
今から大変楽しみである。
その頃にはもう、毎年のタケノコ切り作業から開放されているといいな。
母も私も、今より若いときはない。
まだまだかかるかな。
道のりは長そうだ。