「レモン・チェッロ」は言いづらい
私がかつて通っていた専門学校では、英語の授業の教材に海外の映画を使っていた。映画を原語で聞いて、シナリオを見ながら先生の解説を聞く。
当時の教材は『ゴースト』と、『ダイハード』の……3だったかな。主人公が脅迫されて5ガロンとか3ガロンとか言いながら水を量るやつ。
いろいろ勉強したけど、クラスのみんなが最終的に覚えた言葉は『ダイハード3』でスラム街の住人が言った下ネタ系の悪口だった。まぁそんなもんだ。
私は子供の頃から、本でも映画でも気に入ると同じものを何度も繰り返し見るタイプだった。
そんな私が繰り返し見ている映画のひとつに、『トスカーナの休日』という作品がある。最初は吹き替えで。それこそセリフを暗唱できるくらい、何度も何度も。
――で、気付く。これを英会話レッスンの教材にしたらいいじゃないかと。
試しに吹き替えをやめて、音声を英語に、字幕も英語にしてみる。すると日本語のセリフを暗記していたもんだから、おもしろいくらい頭に入ってきた。ちょっと早口のところもあるけど、頑張れば聞き取れそう。
楽しくなって、車の運転中にも、音楽の代わりにこの映画の音声だけ流して、英会話レッスンに励んだ。
調子に乗って、今度はたまたま録画されていた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を教材にする。これだって何度も見ている作品だから、いけるはず。
――が、これは失敗。
セリフが早口すぎて全然聞き取れない。
これは私には早すぎたようだ。
『トスカーナの休日』では、イタリア語もたくさん出てくる。せっかくだから、イタリア語にも挑戦してみた。
しかしイタリア語は巻き舌で早口。
「ボンジョルノ」「ボンナターレ」くらいしか聞き取れない。
それと「レモン・チェッロ」。
イタリア人男性が主人公フランシスを口説きながらレモン・チェッロの作り方を語るシーンがあるのだが、日本人にはなじみのないところに「ッ」が入っていて、舌に力入らない。
イタリアは行ってみたい国のひとつだけど。
「レモン・チェッロ」は言いづらい。
お気に入りの映画の原語セリフを覚え込む。これをしっかりやったら、丸暗記した映画のセリフだけで海外旅行ができるかもしれない。
映画のセリフだけで海外旅行――
いい。とてもいい。
外国語の修得は、やっぱりこういう楽しみがあってこそだ。
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