#8 AI時代にクイズはどうなる?:QuizKnock須貝駿貴×牛久祥孝×佐久間洋司(1/3)
TAUROとは
TAUROは人間と協働することでより創造的な科学研究を可能にする「AIサイエンティスト」を研究開発するプロジェクトです。内閣府「ムーンショット型研究開発制度」における「目標3:自ら学習・行動し人と共生するロボット」に採択され、2050年までにノーベル賞クラスの研究を人間とAIが共同で行える社会を目指し活動しています。
noteでは、AIの過去、現在、未来に注目し、人間とAIが一緒に生きていく未来がどのようにつくられていくのかを全16回で解説していきます。今回はQuizKnock(クイズノック)の須貝駿貴さんをお招きして、クイズとAIの未来についてお話しを伺いました。インタビュアーはQuizKnockファンであるバーチャルビーイング研究者の佐久間洋司さん。お話が盛り上がりすぎたので3回に分けてお届けします。普段あまり語ることがないという須貝さんの研究のお話からお伺いしていきます。
クイズは「想いを交換する場」
佐久間 まずお2人の共通点である「クイズ」のお話からお話をお伺いしたいと思います。牛久先生は2003年の「第23回全国高等学校クイズ選手権」(以下、高校生クイズ)で優勝されていますよね。
牛久 当時の高校生クイズは、いまのようなクイズの難問が出るというよりも、エンタメ要素が強い大会でした。例えば1問目は「大リーグでメジャー第1号を打った松井秀喜が、ダイヤモンド1週に要した歩数は、偉大なるNYヤンキースの先輩ベーブルースの持つ「年間最多本塁打記録数」を上回る。○か×か。」という問題でした。
佐久間 それはフェルミ推定(実際に調査することが難しい数量や規模を、最低限の知識と論理的思考力を使って短時間で推定する手法)をするということでしょうか。
牛久 そうですね。フェルミ推定は必要ですが答えは1歩差とかですから難しいです(笑)。結局は知力と体力と運の総合力を試されているような番組でしたね。
佐久間 東大に進学してから、クイズ研究会には入らなかったのですね。
牛久 大学ではもっといろいろなことに興味の対象が移っていきました。でもクイズ関連で覚えているのは、東大で教員をやっていたとき、研究室に配属された方のなかにクイズ研究会に所属している方がいて。僕が高校生クイズで優勝したことがあると聞いて、目の色が変わったのを覚えています。「ちょっと対決したい」みたいな感じで(笑)。「違う違う、僕はそんなにクイズ詳しくない!」って言って、なんとか事なきを得ました。
佐久間 研究とクイズは、重なるところと、そうではないところがあります。須貝さんはクイズの面白さをどう捉えていますか。
須貝 実は、僕はQuizKnock(クイズノック)のなかでも「クイズにそこまで関係ない人」なんです。高校時代は野球をしていて、高校生クイズにも出ていません。だからQuizKnockには「陽気なプロフェッショナル」として参加している感じで(笑)。でもクイズは好きですし、なにより面白いと思うのは、「先にわかったほうがすごい!」というゲームとして楽しい部分はもちろん、「出題者がいること」が面白い点だと思います。例えば早押しクイズでは、最初は全然わからないところから徐々にわかるようにヒントが出されていきますよね。このとき、問題の出題者はその過程をすごく面白いと感じたからクイズとして紹介したのだと思います。出題者が面白いと思った視点でトレジャーボックスを開けて見せてくれることが、クイズの魅力だと感じています。
昨日もメンバーの1人が会社でクイズ大会を開いて、体の構造にまつわるクイズを出してくれたんです。自分の体のことなのに知らなかったどころか、調べてみると意外な事実があった。それをクイズという形で出してくれたんですね。出題者がクイズを創作し、それを回答者が答えるというのは、面白いと思ったことを伝える「想いを交換する場」だと思っています。
佐久間 人工知能の研究では、単純なテキストの答えを導き出すような「クイズ」は最初期に解決されているかと思います。基盤モデルが発展してきた時代に、牛久先生はクイズはどうなっていくと思いますか?
牛久 AIには、AIの中に全ての記憶を埋め込む形と、データベースから引っ張ってきて答える場合がありますが、全てを覚えるのはまだ技術的に難しいところがあります。そのため、答えを拾ってくるワトソンタイプ(IBM Watson)のほうがクイズには強いかもしれません。
須貝 ちょうど数ヶ月前、QuizKnockで「クイズ王ならAIより早く答えられるのか⁉︎【人類vsAI】」というYouTube動画を作りました。早押しクイズでAIと戦ってみましたが、単語を並べ替えて言葉を作るような問題だと、絶対に僕たちが勝ってしまうんです。
佐久間 以前は大規模言語モデルでは「靴下はひっくり返せるけど靴はひっくり返せないもの」という認識ができないと言われていました。それはAIが概念自体を捉えられているわけではないから答えられないということだと思うのですが、牛久先生のご研究から、生成AIで答えられること、答えられなさそうなことはどんなことだとお考えですか。
牛久 ナレッジの問題は答えられますね。AIの弱点は物理空間に起きていることの「それっぽい話」と「それっぽくない話」を見分けられないことです。靴下と靴のように「ひっくり返せるもの」の違いがわからない。もうひとつがリーズニングの問題。推論しないといけないタイプの問題はまだまだ人間のほうが得意なところが多いです。
須貝さんの「磁束フローの研究」
佐久間 須貝さんはQuizKnockとして活躍されているだけではなく、博士号を取得していらっしゃって、物理学者としての論文も出版されています。今回は、須貝さんのご研究内容もお伺いできますか?
須貝 「超伝導磁束フローにまつわる駆動力の研究」が研究テーマです。まず超伝導は磁場に弱いという特徴を持っていて、臨界値を超えて磁場をかけると壊れてしまいます。ただ合金系やセラミック系の超伝導は第二種超伝導と呼ばれていて、第二種は一気に壊れるのではなく、段階的に磁場が侵入してきます。その壊れ方のひとつに磁場の糸のような磁束が超伝導に侵入した状態が形成されます。この磁束に電流を流すと、電流と垂直向きに動く磁束フローという現象が観察できます。この磁束フローが何で動いているのか、というのが僕の研究対象です。
ちなみに教科書では「ローレンツ力で駆動している」と説明されています。ローレンツ力とは電気を帯びた粒子、すなわち荷電粒子が磁場から受ける力のことです。これのせいで、磁場中を電子はまっすぐ進まず、電流に対して垂直方向に力を受けてしまいます。フレミングの左手の法則で表されるあれですね。
ただ、実は磁束を動かす力の正体について長年の論争がありました。電磁気力由来の力である「ローレンツ力」なのか、それとも流体力学由来の力である「マグナス効果」なのかというものです。マグナス効果というのは、野球の変化球が曲がる理由で、回転しながら進む物体にその進行方向に対して垂直の力が働く現象です。
僕が所属していたグループはこの論争に対する結論を与えたと考えていて、それが「結局は半々なんじゃないか」というものです。つまりマグナス効果のように動いている面と、電磁力のローレンツ力を足し合わせているのではということです。僕は、その結論をさらに補強するべく、磁束の中心部分での力の配分がどうなっているのかということを研究していました。
牛久 僕は今日、須貝さんのドクター論文の概要だけ拝見してこの鼎談に来たんです。めちゃくちゃ面白いですねえ。
須貝 ちなみに最近の研究では、物質表面のものすごく微小なスキャンが可能になってきたようで、磁束1本の中をさらに細かくスキャンできるそうです。僕は「理論」のほうを研究していたので、研究者のみなさんが、頑張ってスキャンをして、細かな磁場の違いを検出してくれれば、僕の計算が正しいとわかるというような感じです。
佐久間 ありがとうございます。理論の研究であるとともに、その後、実験が待たれるというようなところもあるのですね。
須貝 僕は正しいつもりで理論を提案していますが、観測があるまではわからない。「観測ができるはずです」と一応言っていますが、それがいつになるのかわかりません。ただその抵抗発生プロセスなど、解明されないと不都合なことがあるので、今後進展すると思いますね。
ーーありがとうございます。後編では牛久先生の研究内容と、サイエンスの自動化と絡めてお伺いしていきます。(続きは2/3で)