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#5 AIの創造性 ーAIの現在地ー

TAUROとは

TAUROは人間と協働することでより創造的な科学研究を可能にする「AIサイエンティスト」を研究開発するプロジェクトです。内閣府「ムーンショット型研究開発制度」における「目標3:自ら学習・行動し人と共生するロボット」に採択され、2050年までにノーベル賞クラスの研究を人間とAIが共同で行える社会を目指し活動しています。

noteでは、AIの過去、現在、未来に注目し、人間とAIが一緒に生きていく未来がどのようにつくられていくのかを全16回で解説していきます。第5回目は、AIの創造性について紹介します。



AIと創造性:新たな言語の生成

ここからは少し箸休め的に「AIの創造性」について事例を紹介したいと思います。

2022年、生成AIが注目を集める中で、Giannis Daras と Alexandros G. Dimakis による "Discovering the Hidden Vocabulary of DALLE-2" という研究が話題を呼びました。「2人の農夫が野菜について字幕付きで喋っている画像(Two farmers talking about vegetables、 with subtitles)」という指示を画像生成AIである「DALL-E」に出しました。DALL-Eは指示通りに、野菜を持った農夫が話をしている画像を生成しましたが、問題がありました。画像内に表示される文字がデタラメな並び順なうえに、画像と混ざってしまい崩れています。

現在ではテキストを正しく生成できる画像生成AIも登場していますが、2022年時点ではAIは文字をうまく理解できていませんでした。

しかし話はここで終わりません。この画像内に生成された「vicootes」という文字列(当然意味はありません)を画像生成AIに指示文として入力しました。すると、驚くべきことに、野菜や果物らしき画像が出力されたのです。


さらに今度は、吹き出しの中のアルファベットらしき文字列を無理やりアルファベットに当てはめて指示文として入力したところ、今度は鳥の画像が出力されました。「野菜を持った農夫が鳥に関することを話している」と考えれば非常に自然な画像といえます。

画像生成AIは人間からすると全く意味のない文字列を出力しているように見えて、生成AIとしてはしっかりと「野菜」や「鳥」を意味する言葉を出力していたことになります。つまり、(画像としてですが)新たな言語を生成しているとも解釈できます。こういった例から、やはりAIは独自の創造性をすでに獲得しているとも言えそうです。

AIと創造性:AIは人間の代わりになるのか?

人間の能力は歴史の流れとともに機械に代替されてきました。例えば四則演算はそろばんや電卓が行ってくれます。AIは迷路の答えを導き出し、翻訳、画像認識、そして画像やテキスト生成など徐々に人間に代わって能力を発揮しています。

人工知能の概念を提唱したアラン・チューリングは、これを「玉ねぎの皮」に例えました。人間の能力を機械が1つ代替するたびに、玉ねぎの皮が1枚むかれます。そうして玉ねぎの皮がむかれ続けると、最終的にその中心にはなにが残るのでしょうか。それとも、「脳のあらゆる機能や精神も計算機で再現できてしまう」=「なにも残らない」のでしょうか。

現在普及している一般的なAIはそれぞれ機能が限られていますが、人間のように汎用的な知能を持つ「AGI」=汎用人工知能というAIができるという人もいます。Chat GPTなどの登場を受け、すでにAGIが実現しつつあるという声や、そろそろ玉ねぎの皮がなくなる、という声も出ています。

一方で、「中心にはまだまだ何かが残っている」と、考える人もいます。

例えば表層的なテキストを生成するといったことではなく、「新たな研究課題を着想する」「新たな芸術分野を切り開く」「新たなイラストのタッチを開発する」といったより創造的な行為はAIにはまだできないのではないか、という意見があります。

AIと創造性:AI効果

「AIとはなにか」といった話題と合わせて「AI効果」という現象が語られます。「AI」として登場したものが社会に受け入れられていく過程で、AIではなく単なる「ツール」として認識されるようになる現象です。例えば機械翻訳や音声認識などはAIを活用した技術です。スマホやスマートスピーカーで手軽に呼び出せるようになったせいか、今ではこれらを「AI」と呼ぶ人は少ないのではないでしょうか。

人間が「AI」を指して語るときに期待している、知性やあり方そのものがあるからかもしれません。つまり「AI研究」とは、次々にAIによって実現された機能をAIと呼ばなくなり、そして最終的に「何が残るか」を解き明かそうという学問だということもできます。

AIと創造性:シンギュラリティ

AIと社会の関係を語るうえで、「シンギュラリティ」という言葉もたびたび話題となります。

AI研究の権威の一人として知られるレイ・カーツワイルはシンギュラリティを「1000ドルで購入できる計算機が全人類の脳の計算精度を上回る時」として提唱しました。現在では「AIが人間よりも賢くなるタイミング」として扱われています。

ではAIが「人間の知性を超える」とは、具体的にどういった状況でしょうか。ここでAIの創造性に注目してみましょう。

人の社会において創造的な行為はとても大きな影響力を持ちます。物語や芸術はもちろん、研究やビジネスの世界においても非常に強い力を発揮します。いかに創造的であるかはもちろん重要ですが、同時に「人々が受容できるか」も忘れてはならない観点です。

例えば2024年に流行している音楽が1990年に存在したとしても同じように流行したとは限りません。絵画の世界でも写真機が登場したからこそ、印象派やキュビズムといったより抽象的な作風が注目を受けたとも言われます。歴史の積み重ねや文脈形成があるからこそ「新しい」「おもしろい」と人々は感じるのです。

AIが歴史や文脈を自然に汲み取り、創造性を発揮する知性となるかは、まだまだ議論の分かれるところでしょう。一方で、人の心理や社会と複雑に絡み合った創造的な部分はこれからも人の手に残っていき、AIはさまざま能力によって、人の創造性をサポートしていく役割となるのではないでしょうか。

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