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キャバレー・フェイク・ツインズ:シックス・ゲイツ・エピソード

 欲が蔓延る東のソドム、「ネオサイタマ」。雨にも負けず煌びやかに光るネオンサインはネオサイタマ住民を消費へと導く誘蛾灯といえる。
 
 その一角に新しい店がオープンしていた。その名は「似昼」、一風変わった風俗店である。

【キャバレー・フェイク・ツインズ】

 アカガサ・タナカは「似昼」の中にいた。167cm、中肉中背、黒いスーツにネクタイ、模範的なサラリマンである。

「いらっしゃいませ、初めてのお客様ですね?」

 受付のクローンヤクザはアカガサの顔を確認すると尋ねる。初めてであることに変わりないので、否定せずアカガサは自分の今の名前と所属を答えた。

「なるほど、ネコソギ・ファンド社課長補佐のアカガサ・タナカ=サンですね。では登録したのち、こちらからドーゾ。」

 受付のクローンヤクザはコンソールを20秒ほど触ったあと、左側にある黒い扉に案内した。扉を開けるのもクローンヤクザの役目である。

「それではお楽しみください………」

 アカガサが見たのは真昼だった。ウシミツアワーを無視した青い天井。3階建てのステージの上では光る扇状的な格好をしたオイラン達がポールダンスを踊る。その周りを囲むのは輝く仮面をつけた老若男女。あらゆる場所から光が反射し照らすため、昼に見えたのだ。

 アカガサは1階の真左のステージ周りに座る。踊り子はドイツ系の移民のようだ。黒いヤクザドレス、キセル、赤いアイシャドー、肩から背中にかけて蜘蛛のタトゥー。キセルを口に持ちながらもクルクルと廻り踊る姿は、亡き月めいて美しい。

 「カバレット」と記されたポールに扇状的に巻き付くオイラン。その姿を周りの客たちは放っておかない。キャバーン!手元の赤いボタンを押すごとに100万円が雨となって吹っ飛ぶ。この雨こそ、オイランに対するチップであり、指名料だ。時間内に1番押したものがオイランと同伴するのである。

 目の前のオイランはどうだろう?サコクが解けて10年、ネオサイタマにも外国人を見るようになったのは事実。しかし美女でポールダンスを踊るオイランはそう存在するものではない!

 周りの客もそれを理解し、男も女も一心不乱にボタンを押しまくる。キャバーン!キャバーン!キャバーン!キャバーン!キャバーン!彼女の周りに舞い散る金吹雪。

 アカガサも最初のうちは赤いボタンを押していた。しかしポールの上に表示されるホログラム指名料は上昇の一途を辿っている。

(ここで勝負するか)

 アカガサは赤いボタンについているスライド機能を作動させた。両隣の客はその姿を見て目を見開く。おお、中から黄金色のゴールデンブザーボタンが現れたではないか!このボタンは速攻落札を意味している。しかしその値段は10億。よほどのカチグミでなければ押すことは容易ではないのだが………

キャキャキャバーンバーンバーン!!!

 三本締めめいた祝福音と共に噴き出される金の噴火!

 「アイエエエ!?」

 周りの客は腰を抜かした。そしてゴールデンブザーを押した男を訝しげに見るが、その視線を意に返さず、アカガサはオイランの手を繋ぎ、クローンヤクザに案内されるまま、別室に消えていく。

         ◆◆◆

案内された部屋はバイオマツの木が生えている特上のベッドルームである。日本においてサービスのランクをウメ、タケ、マツの三つの植物で区切ることがあるが、それに則った部屋だ。

 アカガサは案内された部屋にてオイランと遊びを行う。ベースボールケン、コマ回し、イッキノミにハナフダタロット………

 これらの遊びを通して一夜の恋愛感情を育みベッドで前後する。ネオサイタマにも存在する法のタテマエを持って行われる奥ゆかしい前後プロトコルだ。
 
 アカガサとオイランは和室に敷かれたフートンの上でお互い向き合う。

 「オッキイヒト、キテ」

 オイランの熱を感じながらアカガサはその豊満な胸に身体を押し当てる。そしてオイランはその様子を見て爪から見えないエメツワイヤーを展開してアカガサを斬ろうとする。

 「イヤーッ!」「ンアーッ!」

 アカガサはオイランを投げ飛ばした!オイランは天井に激突し、そのまま落下してくる。着地すると同時にバック転で畳2枚分距離を離して、手を合わせた。

 「ドーモ、キャバレーです」「ドーモ、キャバレー=サン、カバレットです」

 アカガサは無個性な女性顔マスクを顎から剥がし、姿を表す。おお、2人は鏡合わせか双子か、その顔は全く同じである。区別をつけるならキャバレーの肘にあるドロイド関節だろうか?

「瓜二つの顔がいるって聞いたけど、ウキヨなら納得いくわね」
 
 カバレットは普段の気だるさは消え失せており、カミソリめいた冷徹な視線を送っている。

 「まさか抹殺対象が来るなんてこっちとしても運がいいわよ!」

 キャバレーが叫ぶとオイランドロイドネイルからワイヤーを発射する。ワイヤーはエメツ製であり不可視と言ってもいい。ゆえに指の動きを見るのだ。そうすることで斬撃予測は可能である。

 「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 キャバレーの切断ワイヤーを産毛が切れるスレスレでかわすカバレット。かえすカタナで切断ワイヤーを振るう。

 「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 カバレットの切断ワイヤーをオモチシリコンが切れるスレスレでかわすキャバレー。かえすカタナで切断ワイヤーを振るう。
 
 「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 6度の撃ち合いはお互いが切断ワイヤーにおいてのイクサが互角であることを表す。ここからはカラテ、素手のカラテが必要だ。

 「イヤーッ!」
 
 先んじて飛び出したのはキャバレー。オイランドロイドのビキャクサイバネティクスに仕込まれているスプリング前後機能を起動し、爆発的な瞬発力を発揮。飛びかかるジャガーめいて空中からケリキックを行う。

 コンマ0.3秒の蹴りはカバレットの胴体を捉えた。

「ンアーッ!」

 ニンジャ内臓を揺らすドロイドニンジャの攻撃により畳三つ分吹き飛ぶカバレット。そのブザマを好機と捉えたキャバレーは瓜二つの顔を潰しなり変わるため、トドメの蹴りを顔にお見舞いしようとする。

 「ンアーッ!?」

 この悲鳴はキャバレーからだ!彼女のビキャクサイバネティクスがハムめいて何かに締め上げれている。オモチシリコンが不条理に凹みDNA螺旋を描いていた。

 「あなたワイヤーを攻撃にしか使わないもの。対処そのものは楽だったわ」

 然り。カバレットは吹き飛ばされる最中、ワイヤーを展開していた。そして彼女が狙うであろう頭に展開し、飛んできたビキャクサイバネティクスを締め上げたのである。シックスゲイツの観察眼と実力が示された恐るべきワザマエ!

 「私不愉快なの。知らない間に顔使われて見ず知らずのモータルとやってることに」
 「ヒィ!?や、やめ」
 「イヤーッ!」
「ンアーッ!サヨナラ!」

 キャバレーは死んだ。

 「………フン」

 キャバレーのキセルを踏み壊しながら、カバレットはこの施設のボスに落とし前をつけるため部屋を出て行った。

          ◆◆◆

 カバレットのインタビューにより分かったことであるが、この「似昼」はガビーロールというニンジャの作り出したネオサイタマ支配のためのコマであったそうだ。

 本人の語った事によると、店を盛り上げて重役を暗殺し同じ顔の別人を配置することで支配するつもりだったらしい。

 その稚拙な野望はカバレットの逆鱗により壊滅した。ガビーロールはオールド東京湾でマグロに食われていることだろう。

 「フーッ」

 そんなことを思い出しながらキセルに火をつけるカバレット。その憂鬱な顔を見たインシネレイトは心配した。

 「まだ根に持ってるんすか、アネさん?」
 「そりゃ、そうよ。いつのまにか私の人権を犯されてたわけだし?」
 「あーっ………」

 インシネレイトはメガネを拭く。新米シックスゲイツの彼でさえ、想像すると嫌である。カバレットの嫌悪感はその何倍だろう。
 
 「そういう時は好きなスシ、食べてサウナにでも入るのが1番ですってアネさん!」
 「サウナねぇ………最近よく入ってるじゃないの」
 「ええ、俺最近わかったんすよ」

 サウナ談義をするインシネレイトのたわいのない話を聞いていき、いつのまにか不快感を記憶のゴミ箱の中に放り込んだカバレット。

 自分の顔を触り、酸性雨の溜まった水面に映る姿を仰ぎ見て、自分の顔に安堵した。

【終】  

N-FILES(設定資料、コメンタリー)

4部にて登場のシックス・ゲイツ「カバレット」のミッションの捏造エピソード。

主な登場ニンジャ

キャバレー/Cabaret:カバレットと瓜二つなウキヨニンジャ。カバレットと同じく爪に入った切断ワイヤーとオイランドロイド特有のセックス補助機能をイクサに使用する。ロールアウトからの経験が短く、切断ワイヤーに対する知識が浅く、敗北した

ガビーロール/Gabirol:ヤバイ級のハッキング技術を持つオイランドロイド職人に「ジョルリ・ニンジャ」がデセッションした「似昼」の恐るべきオーナー。ヨクバリ計画やイモータル・ニンジャ・ワークショップのデータを秘密裏に入手し、オイランドロイドによるネオサイタマ王政支配を目論んでいた。

メモ

カバレットに対する情報は少ない。ただワイヤーを使う姿が非常にクールであり、色々な行動が思いつく。今回はあまり使わなかったが、本編において再登場が楽しみだ。

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