OpenMusic公式チュートリアル解説:まえがき - OpenMusicで現代音楽を作曲してみよう!

はじめまして。TatuLumiと申します。

■この記事について

 このマガジンでは、OpenMusicの公式チュートリアルについて解説する。対象は現代音楽の作曲を既に始めている方、始めたい方、特に中高生である。なお、筆者が管理しているわけではないがWikiがあり、ダウンロードとインストールはこちらを参考にすると良い。

IRCAM OpenMusic 支援

 このサイトにある「非公式チュートリアル」はかなり参考になるが、これの6番以降は中級者向けなので、初学者は少し修行してからのほうが良いかもしれない。

 本マガジンはIRCAM公式チュートリアルの解説なので、OpenMusicの内容を把握するだけなら、Wikiの非公式チュートリアル1~5だけである程度は賄える。なので、この非公式チュートリアル6以降に到達するまでの修行編として本マガジンを利用していただけるとありがたい。もっとも、1~5までをちゃんと把握していれば6以降も問題なく理解できるのではあるのだが。

■そもそも、OpenMusicとは何か?

 簡単に言うと、「SMF(StandardMidiFile)ファイルをプログラミングによって自動生成するためのソフト」である。つまりDAWで読み込める演奏データをプログラミングで作るソフトで、拡張子は「*.mid」だ。ここで注意したいのは「*.wav」じゃないという点。「*.wav」をプログラミングで作成するのはMAXだったり、Supercolliderである。とはいえ、MAXはそれ以外にも様々なことができ、OpenMusicとに似たようなことを可能にするプラグインもあるのだが。

 ※「*.mid」と「*.wav」の違いは、明確にしておいて欲しいところ。

ちなみにMAXのスクリーンショットはこれ。

画像1


OpenMusicはこれ。

画像2

 MAXでは波形が見えているのに対し、OpenMusicでは譜面が見えているのがわかるだろうか。

■OpenMusicをどのように使っていくか

 OpenMusicで曲を1から10まで作ろうとすると非常に大変だ。理由は「90対90の法則」というものに起因する。その内容は、「コードの最初の90%が開発時間の90%を占め、残りの10%がさらに90%を占める」というもの。

 Wikipediaでは以下のように述べられる。

 この法則は、プログラミングにおいて簡単な部分と困難な部分に大雑把に時間に割り当ててしまうこと、また、多くのプロジェクトが遅延する理由(つまり困難な部分の予測の失敗)を表現している。

 そして、私的解釈は次の通り。すなわち、「コードの幹となる部分の9割はわりとスムーズに開発できるが、細かいところまで行き届いた、バグ無しの完璧なプログラムを書こうとすると予定の倍の時間がかかってしまう!」

 これを、OpenMusicに敷衍し考えると、自分は以下のような結論にたどり着いた。

 曲の大まかな部分(9割)をOpenMusicに任せて、細かい部分はDAWなり譜面上なりで修正していこう。1から10までOpenMusicで作る必要ない、本職のプログラマじゃないんだし。

 色々な考え方があると思うが、個人的にはOpenMusicは現代音楽版アルペジエーターみたいなもんだと思っている。もしくはフレーズ生成ソフト。現代音楽風に言うと、「群」を作るソフト。

 OpenMusicですべてやろうとは思わないように。細かい所に囚われないで、効率よく作曲するための補助ツールとして利用すると良いと思う。

■OpenMusicの強み

 作曲補助として利用すればかなり効率よく作曲できる。あと、OpenMusicを利用すると60~80年代の作曲家がどのように作曲してきたのかが何となく掴める。もちろん、すべての作曲家ではないのだが。このソフトを作曲に活かすにはどうしたらよいか?と考えると、自然と60~80年代の作曲家がやってきたことに繋がっていく。(60~80年代の)現代音楽とはどのようなものであったか?というのが頭ではなく体で体験できる。

 このソフトは、現代音楽初学者を育てることができるソフトだ。最終的に使わなくなったとしても、基礎教養として基本的な使い方ぐらいはマスターしておいてもよいのではないか。

■OpenMusicの弱点

 これは一般論というより、自分の個人的な意見である。OpenMusicにすべて任せるのは難しい理由の一つ。

 OpenMusicは、モメント(簡単に言うと、時間的推移に伴う曲の展開が何もない楽節)や群を作るのは得意なんだけど、その逆、展開がある音楽が苦手である。モメントを数珠繋ぎにして曲を展開させることはできるが、モメント間の経過句が作れない。AとBのモメントを繋ぐために経過句Cを作ったところで、A>C>Bというモメントが数珠繋ぎになるだけだ。

 この問題を解決するのにはどうしたらよいか、OpenMusicマスターの作曲家T.I.さんに質問したところ

「いや、それを何とかするのが作曲家の腕の見せどころでしょ?」

とのことであった。今考えると、腕を見せる部分が(経過句を)「OpenMusicで頑張って作る事」なのか「手動で補完する事」なのかはわからないがおそらく後者であると思う。やっぱり、OpenMusicは補助的に使うのが良いと思う。

■OpenMusicを始める前にやっておいた方がいい事

 トータルセリーとピッチクラスセットがなんなのかぐらいは知っておくと良い。OpenMusicと親和性が強い作曲技法だ。

 あと、OpenMusicはLispという古(いにしえ)のプログラミング言語で作られており、これもやっておくと良い。(書籍は「対話によるCommon Lisp入門」を勧める。逆に「初めての人のためのLISP」は私的には苦手であった。本気でやるなら「ANSI Common Lisp」あたりだろうか)

■最後に

 OpenMusicは、元々デキる人には時短便利ツールとして効果を発揮するし、私のようなデキない人には音楽力のベースラインを多少引き上げてくれる。レジェンド級の大作曲家も使っているツール。少しくらい齧っても良いだろう。

 OpenMusicの世界へようこそ。

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